第一話 二分の一 ④
夕方。
ゼルとソフィは教会本部の大聖堂に訪れていた。
ステンドグラスから差し込む夕日が、広い聖堂内を淡く照らしている。
「それで、こんな時間にどうしたのです?」
突然やって来た二人を前に、聖女は訝しげに尋ねた。
「いやあ、聖女様は相変わらずお美しいですな!」
「相変わらず素敵ですね聖女様! 私、憧れちゃいます!」
ゼルとソフィは妙に愛想のいい笑みを浮かべながら、聖女を褒めちぎる。
普段とは明らかに様子の違う二人に、聖女の目がすっと細くなった。
「早く用件を言いなさい」
聖女の有無を言わせぬ冷たい視線に、二人は揃って冷や汗を浮かべる。
そして互いに顔を見合わせると、ついに覚悟を決めた。
「いくぞ、ソフィ」
ゼルが小声で合図を送り――
「はい……!」
ソフィが神妙な面持ちで頷く。
そして次の瞬間、二人は勢いよく頭を下げて叫んだ。
「「お金貸して下さい!!!」」
「……は?」
あまりにも予想外の展開に、聖女は状況が飲み込めずに困惑する。
「実はですね……カクカクシカジカで無一文になりまして……」
ゼルは気まずそうに視線を逸らしながら、これまでの経緯を説明した。
「…………」
話を聞くにつれて、聖女の表情からみるみる温度が失われていく。
やがてゼルの話が終わると、聖女はゆっくりとソフィへ顔を向けた。
「ソフィ、これは一体どういうことですか?」
聖女の冷たい視線がソフィに突き刺さる。
「ひぃぃ!!」
ソフィは小さく悲鳴を上げ、慌てて弁明を始めた。
「あ、あの! 私は絶対にダメだって言ったんですけど! ゼルさんがどうしてもって!」
「あっ! おいテメェ俺のせいにするつもりか!」
突然全責任を押しつけられたゼルが、すかさず食ってかかる。
「いやゼルさんのせいじゃないですか! 私はあの時帰ろうとしましたよ!」
ソフィも負けじと言い返し、そのまま言葉を続ける。
「それに、よく考えたら過去にどれだけ黒が連続で出たとしても、次が黒になる確率は五十パーセントじゃないですか!」
「ええい、うるさいぞ小娘!! 聖女様! 全部コイツが悪いんですぜ!」
ゼルは聖女に向き直り、ソフィに全責任を押しつけようとする。
「誤解です聖女様! 私はゼルさんにそそのかされて――」
「どうやら二人にはきついお仕置きが必要なようですね」
「「へ?」」
聖女の低く冷たい声に、二人の動きはぴたりと止まる。
二人が恐る恐る視線を向けると、聖女はにっこりと微笑んでいた。
しかしその背後には、目が眩むほどの光が集まり始めている。
「ホーリー」
聖女の詠唱と同時に、足元に巨大な魔法陣が展開された。
やがて眩い光が魔法陣へと収束し、大聖堂全体が昼間のような明るさに包まれる。
「「えっ……?」」
二人の顔からさっと血の気が引いた。
そして次の瞬間――凄まじい魔力の光が一気に解き放たれる。
二人は逃げる間もなく光の中へと飲み込まれ――
「「GYAAAAAAAA!!!!」」
夕方の大聖堂に、二人の断末魔が虚しく響き渡った。
――こうして、仲良く消し炭となったゼルとソフィは、二度とギャンブルには手を出さないと固く誓うのであった。
PS.お金は貸して貰えたようです。




