第十話 ツンデレ ②
夕方。
無事に教会の仕事を終わらせた俺は、夜の街へ繰り出すために、神父室で入念に身なりを整えていた。
服の乱れを直し、髪型もバッチリ決める。
よし、こんなもんだろ。
準備が終わり夜の街に繰り出そうとした、その時だった。
「ゼルさん、どこかに行くでゲス?」
ゲスオが背後から声をかけてきた。
「ああ、ちょっとな」
誤魔化すように答える俺。
するとゲスオの隣にいたユニコが、ジトッとした目を俺に向けてきた。
「どうせ飲み屋っす」
ゲッ。なんでわかったんだよ。
コイツって妙に鋭いよな。
「ゼルさん、遊んでばっかりじゃダメでゲス」
ゲスオが呆れたように俺に注意した、その瞬間――
デデン!
聞き覚えのある効果音とともに、再び俺の目の前に選択肢のウインドウが現れた。
って、なんでゲスオ相手に選択肢が出るんだよ!?
コイツの好感度なんて上げてどうしろってんだ!
くそっ、人がせっかく遊びに行こうとしてるのに、余計なことしやがって……。
生意気だからコイツの好感度なんか下げまくってやる!
Aだ!
「そうだな、たまには資格の勉強でもするか!」
残念だったなゲスオ!
これで飲みに行くのは俺一人だぜ!
お前は一人寂しく勉強でもしてな!
羨ましいだろ! ガハハハ!!!
『ピンポーン!』
「へ?」
予想外の正解音に、俺は固まる。
「じゃあオイラと一緒に勉強するでゲス!」
満面の笑みを浮かべるゲスオ。
直後、俺の目の前には新たなウインドウが現れる。
『ゲスオの好感度が15ポイント上がった』
えっ、正解なの?
飲みに行けないのに? 女とも遊べないのに?
そんなの何が楽しいんだよ!
「ゼルさんにオススメするのは〝かき氷検定〟の資格でゲス! お祭りの屋台でかき氷を売る時に、きっと役に立つでゲス〜!!」
「…………そうか」
俺は酷く後悔しながら、力なく返事をする。
「ゲスオさん、アタシも資格が欲しいっす!」
なぜか目を輝かせて話に食いついてくるユニコ。
「それじゃあユニコさんは〝温泉ソムリエ〟の資格を勉強するでゲス! いつか皆で温泉に行った時のために、いっぱい勉強するでゲス!」
「うおおお! やってやるっす〜!!」
ユニコは拳を握りしめ、やる気満々で声を上げた。
「…………なんでこうなるんだよ」
夜の街へ繰り出すはずだった俺は、楽しそうに盛り上がる二人を前に、がっくりと肩を落とした。
★★★
「ふぅ、とんだ災難だったぜ」
ゲスオたちとの勉強会を急いで終わらせた俺は、一人で夜の繁華街を練り歩いていた。
辺りには飲み屋が立ち並び、仕事終わりの酔っ払いたちで賑わっている。
さあて、どこの店に行こうかな。
せっかくスキルがあるんだし、〝プロ〟のオネーチャンじゃなくて、素人の女を狙うべきだよな……。
「う〜ん…………」
俺は辺りの店を見回しながら考える。
よし、大衆居酒屋だな。
そこで暇そうな女に声をかけて、適当に好感度を上げて、そこから先は…………グヘヘへヘ。
「――こんな所で何をしているのです?」
突然背後から声をかけられ、俺は振り返る。
するとそこに立っていたのは、数人の教会職員を引き連れた聖女様だった。
「げっ、聖女様!?」
「なんですかその反応は」
「い、いえ! なんでもありません!」
俺が慌てて誤魔化すと、聖女様は訝しげな視線を向けてくる。
マズい。
まさかこんな所で聖女様に出くわすとは……。
「そ、そんなことより、聖女様はこんな所で何をしているんすか!?」
俺は強引に話題を変える。
「未成年者の非行や犯罪被害を防止するために、夜の繁華街を見回っているのです」
「なるほど! それはご苦労様でありまぁす!」
俺は背筋を伸ばし、わざとらしく労いの言葉をかける。
「ちょうどいい機会です。貴方も一緒に見回りをしませんか?」
いや冗談じゃないぞ。
俺はこれから素人女とスケベでハレンチなことをしなくちゃいけないんだ。
ガキ共の犯罪防止なんてやってられるか!
「すんません、俺はちょっと野暮用があるもので……」
「そうですか。それは残念です」
聖女様はほんの少しだけ残念そうに答えた。
――するとその時。
デデン!!
お馴染みの効果音と共に、選択肢のウインドウが現れる。
くそっ、まさか聖女様にもスキルが発動するとは……。
って、なんだこの選択肢は!!
〝結婚して下さい〟か〝ヤラせて下さい〟だと!?
そんなのどっちも地雷じゃねえか!
この二択がどちらもダメだってことくらい、さすがの俺でも理解できるぜ。
う〜ん、どうすりゃいいんだ……。
……いや待て。これは罠だ。
きっと第三の選択肢があるに違いない。
「聖女様! お仕事お疲れさまです!」
「そうですか。それは残念です」
試しに声をかけてみるが、聖女様は先ほどとまったく同じ言葉を返してくる。
「聖女様は今日もお綺麗ですね!」
「そうですか。それは残念です」
今度は褒めてみたが、やはり返ってくる言葉は変わらない。
チクショー!!
どうしてもあの二択じゃないとダメなのかよ!?
「そうですか。それは残念です」
わかったって聖女様! 今選ぶからちょっと待ってろって!!
「…………」
考えろ、考えるんだ俺……。
常識で考えれば、Aの〝結婚して下さい〟の方がまだ笑い話になりそうだよな……。
でも聖女様ってもう〇〇歳だよな?
〇〇歳の女性に、冗談で「結婚して下さい」なんて言っていいのか……?
ダメだ。
確実に殺される。
かと言って、Bの〝ヤラせて下さい〟もどうなんだ……?
…………いや待てよ?
そういえばこの間、聖女様は俺のチ〇コ触ったよな……? (※第六話参照)
そう考えたら、〝結婚して下さい〟より〝ヤラせて下さい〟の方がハードルは低いはずだ。
…………わかったぞ。
答えはBだ。
Bの〝一発ヤラせて下さい〟だ!
そりゃそうだよな! 身体の相性も確かめずにいきなり結婚だなんて、滅茶苦茶リスキーだもんな!
「そうですか。それは残念です」
ククク、わかってるって聖女様!
この俺が今すぐ好感度を上げてやるからよぉぉ!!
うおおお!! 行くぜぇぇぇぇぇぇ!!!
「聖女様!!! 一発ヤラせて下さ――」
ゴスッ!!
次の瞬間、聖女様の右ストレートが俺の頬を打ち抜いた。
俺の身体は勢いよく吹っ飛び、そのまま地面へと倒れ込む。
そして薄れゆく意識の中――。
『ピンポーン!』
あのお馴染みの効果音が頭に鳴り響き、俺はゆっくりと意識を失うのであった。
◇◆◇ 第十話 完 ◇◆◇
※次回からは三人称に戻る予定です。




