第十話 ツンデレ ①
※今回のお話はゼルの一人称となっております。よろしくお願いします。
とある日の夜。
俺はナンパした黒ギャルと二人で、ホテル街を歩いていた。
通りには派手な看板を掲げたホテルが並び、辺りを歩く人影もまばらだった。
「ゼルさん、ご馳走様♡」
露出度の高い服を身に着けた黒ギャルは、上機嫌に笑いながら俺の顔を覗き込んでくる。
「いいってことよ」
まあパチンコで勝った金だしな。”このあとの事”を考えれば飯や酒代くらい安いもんだ。
そんな事より、早くこの女をホテルに連れ込んじまおう。
俺は黒ギャルの肩に腕を回し、そのままグイッと抱き寄せる。
「なあ、ちょっと休んでこうぜ」
「え〜? どうしよっかな〜?」
口では悩んでいるものの、満更でもなさそうな表情の黒ギャル。
はいはいはいはい、分かってるって。
”私そんなに軽い女じゃないですよ”アピールね。
そんだけエロい格好しといて、さすがにそれは無理があんだろ。
ま、経験上このタイプは押せばなんとかなるし、楽勝だな。
「いいじゃん行こうぜ」
俺は黒ギャルをさらに強く抱き寄せる。
「う〜ん……でも〜……」
黒ギャルはなかなか首を縦に振らない。
ああもう、じれったいな。
コイツも結構酔ってるし、ちょっとくらい強引に行っても大丈夫だろ。
「いいじゃんいいじゃん! 先っぽだけだから!! 先っぽだけだからぁ!!!」
「やだもう! ゼルさん怖〜い!」
その瞬間、黒ギャルはするりと俺の腕から抜け出し、さっと距離を取った。
「私もう帰る! ゼルさんがそんな人だとは思わなかった!」
「へ?」
思いもよらない言葉に、俺は固まる。
もう帰る……? 何言ってんだコイツ……?
散々俺の金で飯食って、酒まで飲んで……このまま帰る……だと……?
「バイバイ!!」
「あっ――」
俺が引き止める間もなく、黒ギャルは一目散に走り去っていった。
「そ、そんな……」
俺はその場にガクリと膝をつく。
なんてこった……。
パチンコで勝った金が、初対面の女の飯代と酒代だけで消えちまった……。
こんなことになるなら、初めから娼館にでも行っておけばよかった……。
「くそっ、なんでこんな事に……」
俺が地面に膝をついたまま項垂れていると――
「〝好感度〟が足りないからじゃよ」
「あん?」
突然聞こえてきた声に、俺は顔を上げる。
見ると、道端に一人の老婆が座っていた。
頭から怪しげな布を被り、目の前には水晶玉が置かれている。
どうやら占い師らしい。
「好感度さえ足りていれば、あの娘をホテルに連れ込めたのになぁ」
占い師はニヤニヤと笑いながら俺を見る。
「ケンカ売ってんのかテメェ」
俺は立ち上がると、占い師の元へ歩み寄った。
「まあそう怒るでない。ワシはお前さんの味方じゃ」
何言ってんだコイツ? 占い師が味方なワケないだろ。
占い師なんて何の根拠もなく人の人生にケチつけて、そのまま金を巻き上げようとする只の詐欺師なんだから。
……ん? 待てよ?
もしかしてこの占い師は俺から金を巻き上げようとしてるのか……?
そうだ! そうに違いない!
占い師が金以外の目的で話しかけてくるなんて、あり得ないもんな!
くそっ、ふざけやがって!
こんな悪党、この俺様が成敗してくれるわ!!
俺は腰の剣を勢いよく引き抜いた。
「覚悟しろクソババア! 今すぐあの世に送ってやるからな!!」
「お、おい! なんじゃいきなり!?」
突然剣を抜かれた占い師は、目を見開いて後ずさる。
「うるさいぞクソ占い師! ぶった斬ってやる!!」
そう言って俺は問答無用で剣を振り上げた。
「ひぃぃぃ!! 許して! いい物あげるから許してぇ!!」
「いい物?」
俺は剣を振り上げたまま聞き返す。
「”スキル”じゃ! お前さんには、とっておきのスキルをやろう!」
「…………」
スキルと言う聞き慣れない言葉に、俺は眉をひそめる。
そんな俺の反応を見て、占い師は慌てて言葉を続けた。
「”スキル”と言うのは特殊能力みたいな物で、このスキルさえあれば女の好感度を思い通りに操れるのじゃ!」
なにィ!? なんだその夢のようなスキルは!?
「本当にそんなことが出来るんだろうな?」
「本当じゃ! だから命だけは! 命だけは勘弁してぇ!!」
「…………」
俺は少し考える。
女の好感度を思い通りに操れるスキル。
俺がさっき黒ギャルに振られたのも、好感度が足りなかったせいだった。
つまりそのスキルさえあれば、もう女に逃げられることもない。
…………。
「いいだろう。許してやる」
俺は剣を鞘へ収めた。
「た、助かった……」
占い師が胸を撫で下ろす。
「おい、早くそのスキルってヤツを寄越せよな」
「なんでワシがこんな目に……」
占い師はブツブツと文句を言いながら立ち上がると、俺に向かって両手をかざした。
「それでは行くぞ!」
その手に淡い光が集まっていく。
「スキル付与――『ときめきモメリアル』!!」
「うおっ」
次の瞬間、眩い光が全身を包み込み、俺は思わず目を瞑った。
「…………」
そして光が収まると、ゆっくりと目を開ける。
「あれ?」
すると先程まで居たはずの占い師が、忽然と姿を消していた。
「逃げやがったな、クソ占い師め」
まあいい、スキルは貰ったんだ。
……ん?
よく考えたらスキルってどうやって使うんだ……?
「…………」
しばらくその場で考えてみるが、答えは出ない。
……………………。
「……もういいや。疲れたし帰るか」
考えるのをやめた俺は、ゼノビア教会へ向かって歩き出す。
――こうして、女に散々飯と酒を奢った挙句に逃げられ、謎の占い師にまでバカにされた俺は、一人寂しくゼノビア教会へと帰るのであった。
★★★
翌朝。
カーテンの隙間から差し込む朝日が顔に当たり、俺はゆっくりと目を覚ました。
「ああ……もう朝か……」
重たい瞼を擦っていると、神父室の扉が開く。
「ゼルさん朝ですよ〜」
ソフィが部屋に入ってくると、そのまま窓際へ向かい、勢いよくカーテンを開けた。
眩しい朝日が一気に神父室へ差し込んでくる。
「んあぁ……」
俺はその眩しさから逃げるように、布団へ顔を埋めた。
「ほらゼルさん、早く起きてください!」
「いや、せっかくだからもう少し寝とくわ」
「もう! 何が『せっかくだから』なんですか!」
ソフィはベッドの傍までやって来ると、布団越しに俺の身体をユサユサと揺すり始めた。
「ああもう、分かったって。起きればいいんだろ」
俺は諦めて布団を退けると、渋々ベッドから身体を起こした。
まったく……なんでコイツは朝っぱらからこんなに元気なんだよ。
「今日もいい天気ですね!」
ソフィは窓から差し込む朝日を浴びながら、上機嫌に話しかけてくる。
――するとその瞬間。
デデン!
突然、どこからともなく妙な効果音が鳴り響き、俺の目の前に謎のウインドウが出現する。
「おい、なんだこれ!?」
「今日もいい天気ですね!」
ソフィが先程とまったく同じ言葉を繰り返す。
「天気の話はもういいって! そんなことより、このウインドウはなんなんだ!?」
「今日もいい天気ですね!」
三度目。笑顔も口調もまったく同じだ。
どうしたんだコイツ?
さっきから同じことばっかり繰り返しやがって……。
「まさか……」
俺は目の前に浮かぶ二つの選択肢を見つめる。
”コレ”が昨日貰ったスキルで、ウインドウのAかBを選ばなきゃ話が進まないって事なのか……?
「今日もいい天気ですね!」
分かったってうるせえな! 選べばいいんだろ、選べば!
よし、Bだ!
「いい天気だし、競馬場にでも行こうぜ!」
『ブブー!!!』
すると突然、どこからともなく耳障りなブザーのような音が鳴り響いた。
「朝から何を言ってるんですか! ちゃんと働かないとダメですよ!」
ソフィが呆れたように俺を叱りつけると、再び俺の目の前にウインドウが現れる。
『ソフィの好感度が15ポイント下がった』
なにィー!?
おい、どうなってんだよ! 好感度が下がっちまったぞ!
くそっ、選択肢を間違えたってことなのか……。
「おいソフィ、今のは無しだ! いい天気だし、頑張って働こう!」
『ピンポーン!』
「そうですね! 一緒に頑張りましょう!」
『ソフィの好感度が20ポイント上がった』
…………なるほど。そういうことか。
このスキルで最善の選択肢を選んでいけば、相手の好感度は上げ放題だってことだな。
最高かよ。
これさえあれば、どんな女の好感度だって上げられるじゃねえか。
「? どうしたんですか?」
不敵な笑みを浮かべる俺を見て、ソフィは不思議そうに首を傾げる。
「いや、なんでもない。さっさと仕事を終わらせちまおうぜ!」
「そうですね!」
何も知らないソフィは嬉しそうに答える。
そんなソフィを横目に、俺は手に入れたスキルに期待を膨らませながら、意気揚々と一日の仕事をし始めたのであった。




