第九話 雨乞い ②
長い山道を登り続け、四人はようやくハーデス神殿へと辿り着いた。
「やっと着いたぜ」
「疲れたっす〜」
ゼルとユニコは疲れ切った声を漏らす。
そんな二人をよそに、ゲスオとソフィは山頂から見える景色に目を奪われていた。
「凄い景色でゲス」
「町があんなに小さく見えますよ!」
視線の先には広大な大地が広がり、遠くに見えるゼノビア町は、手のひらに収まりそうなほど小さく見えた。
その時だった――
『何者だ?』
「「「「!?」」」」
突然何処からともなく声が聞こえ、四人が辺りを見回す。
すると神殿の中から、一体のリザードマンが姿を現した。
「私たちはジャグラ村からの使者で、水神様に雨を降らせてもらうようにお願いに来ました!」
ソフィが代表して事情を説明すると、リザードマンは納得したように頷く。
『ああ、あの村の関係者か……』
「お前が水神様なのか?」
ゼルがリザードマンに尋ねる。
『違う。私はこの神殿の管理者だ』
「じゃあ水神様は何処にいるんだよ」
『空だ』
「空ぁ? ケンカ売ってんのかテメェ」
あまりにも漠然とした答えに、ゼルが苛立ちを露わにする。
『神がそう簡単に、地上に姿を現すわけがないだろう?』
「確かに言われてみればそうでゲス」
リザードマンの言い分に、納得した様子のゲスオ。
「ちょっと待って下さい!」
そこでソフィがある疑問に気づき、慌てて会話に割って入る。
「水神様がいないなら、何故村娘が生贄になっていたんですか!?」
『知らん』
「へ?」
あまりにもあっさりと返され、ソフィは間の抜けた声を漏らした。
『そもそもこちらは生贄など要求していないし、人間の娘を神殿に放置されても困る』
「だったら村の奴らにもそう言ってやれよ」
ゼルが呆れたように言うと、リザードマンは困った様子で首を振る。
『何度も伝えようとしたさ。だが村人たちは私が声をかけようとすると逃げ出してしまうんだ』
「う〜ん、村人たちからしたら、リザードマンさんは少し怖いかも知れませんね」
ソフィが苦笑いを浮かべる中、ゲスオがふと疑問を口にする。
「じゃあ生贄になった娘たちはどうしたんでゲス?」
『さあな。山を降りて、どこかで暮らしているんじゃないか?』
「「「「…………」」」」
あまりにも予想外の事実に、四人は揃って言葉を失う。
「おいどうすんだよコレ! 雨降らせらんねえじゃん!!」
我に返ったゼルが、頭を抱えながら声を荒らげる。
「まだ諦めてはいけません! リザードマンさん、なんとか雨を降らすことは出来ませんか!?」
ソフィは縋るようにリザードマンに問いかける。
『水神様が涙を流すくらい〝悲しい気持ち〟になれば可能だが……』
「? どういう事ですか?」
意味が分からず、ソフィは不思議そうに首を傾げた。
『そもそも、雨とは水神様の涙なのだ』
「なあ、コイツ何言ってんだ?」
突然の話に理解が追いつかず、ゼルが隣のソフィに小声で尋ねる。
「水神様が涙を流すと、それが雨になるって事なんですかね?」
「オイラに聞かれても分からないでゲス」
ソフィがゲスオに尋ねるが、ゲスオも困ったように言葉を返した。
「リザードマンさん、水神様が泣けば雨が降るって事でいいんすかぁ??」
見かねたユニコは直接リザードマンに尋ねる。
『その通り。水神様が人間の悲しみに共感して、涙を流すと雨が降るのだ』
「はえ〜、そんな仕組みだったんですね」
ようやく話を理解したソフィが、感心したように声を漏らす。
「じゃあ生贄とか意味なかったって事か」
『そうでもない』
予想外の返答に、ゼルは眉をひそめる。
『恐らく水神様は……村の都合で犠牲となった娘の”悲しい気持ち”に共感して、涙を流したのだろう』
「ふーん、なるほどな」
リザードマンの説明を聞き、ゼルはようやく納得する。
「それじゃあ、水神様を悲しい気持ちにさせれば雨が降るって事ですね!?」
雨を降らせる方法が分かり、ソフィが期待に満ちた表情で身を乗り出す。
『そうなるな』
「よっしゃ! じゃあ俺がトビキリ悲しい話をしてやるよ!」
そう言うと、ゼルはその場から空を見上げ、大きく息を吸い込んだ。
「聞いてくれ水神様! 俺の悲しい話を!!」
一同は固唾を呑んでゼルの言葉を待つ。
「それは先週、パーラーゼノビアに行った時の事だった――」
「パーラーゼノビア?」
「パチンコ屋さんの名前でゲス」
ゲスオの説明を聞いた途端、ソフィの表情から期待が消える。
「――その日は給料日前で軍資金も少なかったから、仕方なく甘デジを打つことにしたんだ!」
「甘デジってなんすかぁ??」
聞き慣れない言葉に首を傾げるユニコ。
「普通のパチンコ台より当たりやすい台の事でゲス」
「当たりやすいのに〝仕方なく〟打つんですか?」
今度はソフィが不思議そうに尋ねると、ゲスオはさらに説明を続ける。
「甘デジは当たりやすい代わりに出玉も少ないから、ゼルさんみたいに脳みそ焼かれたパチンカスには刺激が足りないでゲス」
「「なるほど……」」
ソフィとユニコが揃って納得する。
そんな三人のやり取りなどお構いなしに、ゼルは熱弁を続ける。
「俺は打ち始めて早々に勝ちを確信したね。……なんでかって? そりゃ釘も良くて激アツのリーチもガンガンかかる。経験上、こういう台はデカい連チャンが必ず来るんだ!!」
「そう言うものなんですか?」
「ただのオカルトでゲス」
不思議そうに尋ねるソフィに、冷静に答えるゲスオ。
「――ところがだ!!」
ゼルはさらに声を張り上げ、不幸話を続ける。
「二百ゲーム当たらず、三百ゲーム当たらず……ついには五百ゲームもハマってしまった!!!」
ゼルは拳を震わせながら、空に向かって悲痛な叫びを上げる。
「信じられるか水神様!? 九十九分の一で当たるはずのパチンコが、五百ゲームもハマったんだぞ!?」
「ゼルさんは一体何を言っているんですか……?」
「知らない方がいいでゲス」
「パチンコは適度に楽しむ遊びっす」
三人が呆れた様子で見つめる中、ゼルはなおも真剣な表情で空に訴え続ける。
「なあ水神様!! こんな酷い話は無いよな!? 悲しいよなぁ!!?」
ゼルが両手を広げ、天に向かって必死に訴えかける。
すると――。
ポツリ。
空から一滴だけ雨が落ち、ゼルの頬を濡らした。
「「「「……………………」」」」
「――って、一滴だけかよ!!」
あまりにも寂しい結果に、ゼルが空に向かって声を荒らげる。
「そりゃそうっすよ」
「全部自業自得じゃないですか」
「なんだとォ!?」
二人の冷たい反応に、怒り出すゼル。
そんな一連のやり取りを、リザードマンは心底呆れた様子で見つめていた。
「――ゴホン」
するとゲスオがわざとらしく咳払いをして、皆の注目を集める。
「では、次はオイラの話をするでゲス」




