第八話 ヤーヤーヤー ②
数日後。
「ガハハハ!!」
ゼノビア教会の倉庫に、ゼルの邪悪な高笑いが鳴り響く。
「おいゲスオ! 見てみろよコレ!!」
ゼルが自慢げに両手を広げると、その先には大量の銀の十字架が、所狭しと並べられていた。
その数――実に五百本。
「まさか本当にタダで銀の十字架が手に入るとはな!」
「…………」
山のように積まれた十字架を前に、ゲスオは呆れて言葉を失っていた。
「わざわざ大量に発注書を書いたかいがあったぜ!」
「発注するゼルさんも、受注する教会本部も、本当にどうかしてるでゲス……」
「まあ細かい事は気にすんなって!」
ゼルは豪快に笑いながら、ゲスオの背中をバシバシと叩く。
「よし、早速溶かして売っちまおうぜ!」
「なんでわざわざ溶かしてから売るんすかぁ??」
「あのなあ、十字架のまま売ったら本部にバレるだろ? だから銀塊にして闇市に流すんだよ」
「なるほど、そりゃ賢いっす〜!!」
「だろぉ?」
得意げに答えたゼルだったが――そこでピタリと動きを止める。
「――って、なんでお前が居るんだよ!?」
いつの間にか倉庫内にいたユニコに、ゼルが勢いよく振り返る。
「アタシに黙って面白そうなことするなんて、絶対に許さないっすよ〜!?」
「嗚呼……もう絶対にロクな事にならないでゲス」
頭を抱えるゲスオ。
「おいユニコ! 絶対にソフィには言うなよ! 絶対にだぞ!?」
ゼルはユニコに詰め寄り、念を押すように言い聞かせる。
「もちろんっす! アタシは口が堅いことで有名っす!」
「くそっ、信用できん……。ここで始末しておくか」
ゼルが剣に手をかける。
「ゼルさん絶対にダメでゲス! ユニコさんは大切な仲間でゲス!」
ゲスオが慌ててゼルを止めようとした、その時だった――
「ゼルさ〜ん、ちょっといいですか〜?」
倉庫の外からソフィの声が聞こえてくる。
「ゲッ!」
ゼルはビクリと肩を震わせると、慌てて倉庫の外へ飛び出した。
「ど、ど、どどどうしたんだソフィ!?」
「? そんなに慌てちゃってどうしたんですか?」
「あ、いや、何でもない。ちょっと倉庫の掃除をしてただけだ」
ゼルは何食わぬ顔で誤魔化す。
「はあ……」
ソフィが腑に落ちない様子で見つめる中、ゼルは強引に話題を変える。
「そんな事よりどうしたんだ? なにか用があったんじゃないのか?」
「あっ、そうでした」
ソフィは思い出したように、本来の用件を告げる。
「このあと聖女様が来られるみたいなので、お茶菓子を買って来ますね」
「へ? 聖女様が来るのか?」
思いもよらない展開に、ゼルが目を丸くする。
「私も直接聞いた訳ではないんですが、『十字架の使用量がおかしいから監査する』とか仰ってたそうですよ?」
「……なん……だと……?」
ゼルの表情が固まる。
「先日に一本発注しただけだから、聖女様の勘違いだと思うんですけど……」
「…………」
ゼルは何も答えない。
いや、答えられなかった。
「……?」
そんなゼルの様子を不思議に思いながらも、ソフィは話を続ける。
「それでは買い出しに行ってきますね」
「あ、ああ……」
何も知らないソフィは、そのまま買い出しへと向かっていった。
その後ろ姿が見えなくなると、倉庫の中からユニコとゲスオがそっと姿を現す。
「こりゃ大変な事になったっす」
「聖女様が来るなら誤魔化せないでゲス」
二人が不安そうな表情でゼルを見る。
「……なあゲスオ」
「なんでゲス?」
ゼルは少し考え込んだあと、真顔でゲスオに問いかける。
「全部お前が勝手にやったって事にしていいか?」
「いいわけないでゲス!!!」
ゲスオが即座に拒否すると、今度はユニコが口を挟む。
「ゲスオさん男気を見せるっす!」
「そんなの男気じゃなくて濡れ衣でゲス!」
当然のように罪を押し付けようとする二人に、ゲスオが全力で反論する。
「くそっ! 一体どうすりゃいいんだ……!」
ゼルが頭を抱えながら必死に考えていると、ユニコが得意げに声をかける。
「そんなの簡単っすよ」
「あん?」
ゼルが顔を上げると、ユニコは自信満々に続ける。
「要は〝正しく〟十字架を使用してればいいっす」
「正しくって言ってもなあ……」
「十字架を五百本も使うなんて無理でゲス」
二人が困惑する中、ユニコは自信たっぷりに胸を張る。
「アタシに任せるっす!!」
そう言うと、ユニコは倉庫から十字架を持ち出し、教会の窓へと貼り付けた。
「おいユニコ、これは一体どういう事だ!?」
突然の奇行に困惑するゼルに、ユニコは得意げに答える。
「これが十字架の正しい使用法っす! クリスマスパーティの装飾みたいでイカしてるっす!!」
「意味わかんねえよ! なんで十字架で装飾するんだよ!!」
ゼルが理解できずにいると、ゲスオがふと思い出したように口を開く。
「ゼルさん……オイラ、クリスマスと教会には深い関わりがあると聞いたことがあるでゲス」
「えっ、そうなの?」
初耳だったゼルが驚く中、ユニコもゲスオの話に便乗する。
「ゲスオさんの言う通りっす! 十字架なんてクリスマスパーティで使ってナンボっす!!」
「なるほど! それなら俺でも出来そうだぜ!」
あっさり納得したゼルは倉庫から十字架を持ち出すと、敷地内の木へと貼り付け始めた。
「おいユニコ! こんな感じで良いのか!?」
ゼルは十字架を貼り付けた木を、得意げにユニコへ見せる。
「クリスマスツリーみたいでサイコーっす!!」
ユニコから太鼓判を押され、ゼルはすっかり調子に乗る。
「よっしゃ! まだまだやるぜ!」
「オイラもやるでゲス!」
「うおおお!! アタシもやるっすよ〜!!」
三人は勢いよく倉庫から十字架を運び出すと、敷地内にある木々へ次々と飾り付けていった。
そして――。
「よし、こんなもんだろ」
気がつけば、辺りの木々は大量の十字架で埋め尽くされていた。
「ゼルさん、十字架はまだ半分以上残ってるでゲス……」
「畜生! なんでこうなっちまったんだ……!!」
苦悶の表情を浮かべ、頭を抱えるゼル。
「もう飾り付けられそうな場所がないっす……」
「もう終わりでゲス〜!」
ユニコとゲスオが絶望する中、ゼルは黙り込んで必死に打開策を考える。
「…………よし」
そして何かを思いついたのか、ゼルはゆっくりと顔を上げた。
「こうなったら〝アレ〟しかないな……」
「「アレ?」」
二人が揃って首を傾げる中、ゼルは倉庫へと視線を向ける。
「よっしゃ! お前らちょっと見張っとけ!」
二人にそう言い残すと、ゼルは大量の十字架が残された倉庫へ一人で入っていく。
「よし、やるぞ……!」
ゼルは目の前に積み上げられた十字架の山を見つめると、早速作業に取りかかる。
「ええっと、コレをこうして、アレをああして……」
独り言を呟きながら、十字架を次々と組み合わせていく。
「こうなったらこうで……」
その後も一人、黙々と作業を進め――。
「出来たぁ!!!」
倉庫内にゼルの歓声が響き渡る。
「おいお前ら! 入って来ていいぞ!」
ゼルが外に向かって声を張り上げると、ユニコとゲスオが倉庫へと入ってきた。
「何やってたんすかぁ??」
「十字架は使い切ったんでゲス?」
「当たり前だ!」
ゼルは自信満々に胸を張ると、二人に自らの力作を披露する。
「見ろ! コレがゼノビア教会の守護神、〝ジュウジカイザー〟だぁぁぁ!!!!」
「「うおおおおおお!!! カッケェェェェェェェェ!!!!!」」
その姿を目にした瞬間、二人から大歓声が上がる。
「ゼルさん、なんすかコレ!?!?」
「滅茶苦茶カッコいいでゲス!!」
二人の反応に気を良くしたゼルは、得意げにジュウジカイザーを紹介する。
「コレはジュウジカイザーと言ってな、ゼノビア教会がピンチになると現れるんだ!」
「凄いっす! 日曜日の朝とかに現れそうっす!!」
「十字架の剣もイカしてるでゲス!」
ゲスオが興奮気味に剣を褒めると、ゼルはニヤリと笑う。
「武器はそれだけじゃないぜ?」
ゼルはジュウジカイザーの腕を掴むと、そのまま取り外して自慢げに続ける。
「ロケットパンチもある」
「うひぃぃぃ! 堪んないでゲスゥゥ!!」
男心をくすぐる仕掛けに、ゲスオの興奮は最高潮に達した。
「ゼルさん、アタシもジュウジカイザー欲しいっす!」
「オイラも欲しいでゲス!」
二人にせがまれたゼルは、さらに調子に乗る。
「じゃあ三体作って合体させちゃおうぜ!」
その提案に、二人はさらに目を輝かせる。
「うっひょぉぉ! イカしてるっす!」
「ゼルさん、色も付けるでゲス!」
「そうだな!」
ゼルが快く了承すると、ユニコが真っ先に希望を口にする。
「アタシ、赤がいいっす!」
「あっ、オイラも赤がいいでゲス!」
「バカ言うな! 赤はリーダーの俺に決まって――」
三人がすっかり監査のことなど忘れて盛り上がっていた、その時だった。
「随分と楽しそうですね」
低く冷たい女の声が、三人の背後から聞こえてきた。
先ほどまでの騒がしさが嘘のように、倉庫内が静まり返る。
「「「………………」」」
三人はその場で固まったまま、どうしても後ろを振り返ることができなかった。
なぜなら――。
振り返れば〝ヤツ〟がいるからだ。
◇◆◇ 第八話 完 ◇◆◇




