第八話 ヤーヤーヤー ①
とある日の深夜。
ゼノビア教会は静寂に包まれ、ゼルたちはそれぞれの部屋で眠りについていた。
――ズズズズズ……!
突如として地面が低く唸り、教会全体が大きく揺れ始めた。
そしてその直後――
ズドォォン!!!
教会の外から、凄まじい轟音が響き渡る。
「「「「ぬわーっ!!!」」」」
四人の悲鳴が教会中に響き渡る。
突然の出来事に叩き起こされた一同は、それぞれの部屋から飛び出し、慌てて談話室へと集まった。
「結構大きな地震でしたね」
ソフィがまだ少し驚いた様子で口を開く。
「怖いでゲス〜」
ゲスオも不安そうに辺りを見回す。
「なんか凄い音がしなかったか?」
「敵襲かも知れないっす!」
ゼルの言葉を聞き、ユニコが物騒なことを口にする。
「なにィ、敵だとぉ?」
「ゼルさん落ち着いて下さい! 私たちに敵なんていませんよ!」
「いやソフィさん、ゼルさんは敵だらけでゲス」
「へ?」
ゲスオの一言に、ソフィがきょとんと首を傾げる。
「ゼルさんは”フェミニスト”と”ヴィーガン”と”動物愛護団体”と”人権団体”と”環境保護団体”と”難民支援団体”から命を狙われているでゲス」
「どんな生き方すればそんなに敵が増えるんですか……」
ソフィは呆れた視線をゼルへ向けた。
「安心しろ。俺はそんな奴らには負けん」
「そういう問題じゃありません!」
ソフィの声が深夜の談話室に響き渡る。
「まあまあ。とにかく皆が無事で良かったでゲス」
「そうですね」
ゲスオが話をまとめると、ソフィも気を取り直して同意する。
「安心したら眠くなっちゃったっす」
大きなあくびをするユニコ。
「もう寝ようぜ」
「「「賛成〜」」」
ゼルは眠そうに声を上げ、三人も揃って気の抜けた返事をする。
そして四人がそれぞれの部屋へ戻ろうとしたところで、ユニコがニヤニヤしながらソフィに声をかけた。
「ソフィさん、地震が起きた時はおヘソを隠して寝るんすよぉ??」
「もう、ユニコさんったら何を言ってるんですか」
ソフィは呆れたように笑いながら、得意げに訂正する。
「おヘソを隠すのは火事の時ですよ」
「これは失敬したっす」
誤魔化すように笑うユニコ。
「二人とも違うでゲス」
「「へ?」」
二人は揃ってゲスオの方へ振り返る。
「おヘソを隠すのは吹雪の時でゲス」
「あれ? そうでしたっけ?」
「う〜ん、なんか違うような気がするっす」
「……相変わらずアホだなお前らは」
三人の会話を聞いていたゼルが、呆れたように口を挟む。
「おヘソを隠すのは、吹雪じゃなくて津波の時に決まってるだろ?」
「こりゃあ一本取られたでゲス」
「「「「HAHAHAHAHA!!!」」」」
四人の陽気な笑い声が、深夜の教会に響き渡った。
「それじゃ、おやすみ」
ひとしきり笑ったところで、ゼルが三人に声をかける。
「「「おやすみなさ〜い」」」
三人も揃って挨拶を返し、一同はそれぞれの部屋へと戻っていった。
★★★
翌朝。
「ひょえええ!!」
教会の外から、ユニコの悲鳴が響き渡る。
「おいどうした!?」
声を聞いたゼルが慌てて外へ駆けつける。
「十字架が落ちてるっす!」
「うおっ、マジか」
ユニコが指を差す先には、教会の頂上に掲げられていた、大きな銀の十字架が転がっていた。
地面に叩きつけられた十字架は、表面が傷だらけになり、見るも無残な姿になっている。
騒ぎを聞きつけ、少し遅れてソフィとゲスオもやって来た。
「夜中の凄い音はコレだったんですね」
「傷だらけになっているでゲス」
ソフィとゲスオは、地面に落ちた十字架をまじまじと眺める。
「これは新しい十字架を発注しないといけませんね」
ソフィがそう判断すると、ユニコが興味を示す。
「十字架って何処に発注するんすかぁ??」
「教会本部です」
「おい、それいくらかかるんだ?」
ソフィの言葉を聞いたゼルは、すかさず費用について尋ねる。
「お金はかかりませんよ。十字架は教会の備品ですからね」
「なにっ、タダで十字架が手に入るのか!?」
食いつくゼルに、ソフィは呆れたように釘を刺す。
「そんなに都合の良いものじゃありません。ちゃんと発注書に理由を書いて、本部に提出しないといけないんですから」
「なるほど……」
ゼルは何やら考えるように、傷だらけの十字架へ視線を落とす。
「それじゃあ早速、発注書を書いて来ますね」
「アタシも手伝うっす〜!!」
ソフィとユニコはそう言い残すと、二人で教会の中へ戻っていった。
二人の後ろ姿を見送りながら、ゼルは口元に邪悪な笑みを浮かべる。
「なあゲスオ」
「……なんでゲス?」
ゼルに名前を呼ばれた瞬間、ゲスオは嫌な予感を覚えた。
「銀の価格って、今いくらか知ってるか?」
「確か……一キロで三十万ゴールドくらいだったような気がするでゲス」
「ふーん」
ゼルは改めて地面に転がる銀の十字架を眺める。
ゲスオの嫌な予感が、さらに膨らんでいく。
「そういやお前って炎魔法が使えたよな?」
「まあ使えるでゲス」
その返事を聞いたゼルは、満面の笑みを浮かべた。
「なあ、ちょっと手伝えよ」
「へ?」
ゼルはゲスオの肩に腕を回すと、その耳元へ顔を近づけ、周囲に聞こえないようこっそりと耳打ちをする。
「ひそひそひそ……ひそひそひそひそ……」
「そ、そんなのダメでゲス! 絶対にバレるでゲス!」
計画の内容を聞いたゲスオは、顔を引きつらせて拒絶する。
「バレないようにする為にお前がいるんだろ」
ゼルが当然のように言い放つと、ゲスオはますます慌て出す。
「で、でも! そんな事――」
「そんじゃ、よろしく」
ゲスオの返事など聞く気もなく、ゼルは一方的に話を終わらせ、ご機嫌な様子で教会へと戻っていった。
残されたゲスオは、地面に転がる十字架の前で呆然と立ち尽くす。
「ゲスゥ…………」
こうしてゲスオは今回もまた、ゼルの悪巧みに強制参加させられるのであった。




