第七話 人を呪わば穴二つ ③
結局、リリーさんはゼルの魔の手から逃げ切ることはできなかった。
捕まったリリーさんは何度も闇市に出品され、そのたびにゼルの元へ戻ってきては、再び売り飛ばされるという日々を送っていた。
「いやぁ、儲かって儲かってしょうがねえぜ!」
談話室では、ゼルが椅子にふんぞり返りながら上機嫌に笑っていた。
「そんなに儲かっているのなら、もう少しお給料を増やして欲しいでゲス」
羽振りのいいゼルを見て、ゲスオがここぞとばかりに要求する。
「おういいぞ」
「えっ、本当でゲス!?」
ゼルのまさかの即答に、ゲスオが驚きの声を上げる。
「ほら、臨時ボーナスだ」
ゼルは懐からお金を取り出すと、ゲスオに手渡した。
「ゼルさんありがとうでゲス!」
臨時収入に大喜びするゲスオ。
「ゼルさん、アタシもボーナス欲しいっす!」
それを見たユニコも、すかさずゼルにお金をねだる。
「わかってるって」
ゼルは気前よく、ユニコにもボーナスを手渡す。
「やったあ! これでうんまい棒がいっぱい買えるっす〜!」
ボーナスを手に、嬉しそうにユニコがはしゃぐ。
そんなお金に汚い三人の様子を、少し離れたところからリリーさんとソフィが眺めていた。
『もう嫌……』
リリーさんがすっかり疲れ切った声を漏らす。
「リリーさん、もう諦めましょうよ」
そんな彼女を見かねて、ソフィが優しく声をかける。
『違うの!』
「何がですか?」
『人間が呪いの人形から逃げられない様に、呪いの人形も一度呪った人間を呪い殺すまで離れられないの!』
リリーさんは半ばヤケになりながら、自分がゼルの元へ戻ってきてしまう理由を打ち明ける。
「ある意味リリーさんも呪われているって事ですか?」
『まあ、そういう事になるわね』
リリーさんは力なく認める。
「それなら話は簡単ですね」
『何が簡単なのよ!?』
不機嫌そうに聞き返すリリーさんに、ソフィは懐から一枚の札を取り出した。
そして何のためらいもなく、リリーさんの額にぺたりと貼り付ける。
『へ?』
次の瞬間、札が淡い光を放ち、リリーさんの呪いがみるみる消えていく。
「解呪のお札を使用しました。これでゼルさんから解放されます」
『なんでアンタがそんな物持っているの?』
思わぬ展開に、リリーさんが驚いた声を上げる。
「昨日、聖女様に貰ってきたんです」
ソフィはそう説明すると、さらに言葉を続ける。
「本当はゼルさんに使おうと思ったんですけど、中々使用する隙がなくて困っていたんです」
『ソフィ、あんたって結構いい奴なのね』
事情を知ったリリーさんの声が、少しだけ柔らかくなる。
「さあ、早くゼルさんから逃げて下さい」
ソフィはゼルに気づかれないよう、小声で逃げるよう促した。
『ありがと』
リリーさんは短く礼を言う。
「もう人間を呪ったりしちゃダメですよ?」
ソフィが優しく言い聞かせると、リリーさんは少し黙り込んだあと、照れくさそうに小さく呟いた。
『考えとく』
「それではお元気で」
ソフィは満足そうに微笑みながら、リリーさんに別れを告げる。
『バイバイ』
リリーさんは短く返し、そのまま教会の出口へと向かう。
しかし外へ出る直前、何かを思い出したように足を止め、ソフィの方へ振り返った。
『お礼に良いものあげる』
そう言うと、リリーさんはソフィに向かって謎の魔法をかける。
「? ありがとうございます」
何をされたのか分からないまま、ソフィがとりあえず礼を言うと、リリーさんは満足そうに再び出口へと向かった。
「さようなら、リリーさん」
ソフィに見送られながら、リリーさんは今度こそ教会を後にするのであった。
★★★
――数日後。
「くそっ、リリーの野郎どこ行きやがった!」
ゼルは苛立ちながら教会内を探し回っていた。
「多分もう逃げちゃったでゲス」
ゲスオが呆れたように言う。
「ゼルさんが酷いことするからっすよぉ」
ユニコも当然の結果だと言わんばかりに口を挟む。
「俺だけのせいにするな! お前らも金を受け取ったんだから同罪じゃボケ!!」
「あっ! また共犯者を増やして責任を分散させる作戦っすね!?」
「理不尽すぎるでゲス!」
二人から非難されても、ゼルはまるで気にする様子もなく辺りを見回す。
「くそっ、どこだリリー!? 絶対に逃さないからな!!」
ゼルは諦めきれない様子で叫ぶと、リリーさんを探すため教会を飛び出していった。
騒がしいゼルがいなくなり、教会にようやく静けさが戻る。
「ふう……」
ソフィが疲れたように息を吐く。
その表情はどこか辛そうだった。
「ソフィさんどうしたんすかぁ??」
ユニコが心配そうに尋ねる。
「なんだか数日前から身体が重いような気がするんです」
ソフィは心当たりがないのか、困ったように首を傾げる。
「体調不良でゲス?」
今度はゲスオが心配そうに顔を覗き込む。
「う〜ん、体調は悪くないと思うんですケド……」
ソフィは自分でもよく分からないといった様子で、身体の調子を確かめる。
しかし、そんなソフィの背後には――。
――こうして、ソフィはリリーさんからの〝贈り物〟に数日間苦しめられるのであった。
◇◆◇ 第七話 完 ◇◆◇




