↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/31

第六話 あの聖 ③

 その後、俺たちは無事に山を下りて教会本部へとやって来た。


 聖女様に応接室へ通され、俺たちはテーブルを囲むように席についている。


 持ってきた満月草はすでに職員に渡しており、廊下では何人もの職員が慌ただしく行き来していた。


「ご協力感謝します」


 俺の向かいに座る聖女様が、静かに礼を述べる。


「いえ、当然のことをしたまででありまぁす!!」


 俺は胸を張って答えた。


 よっしゃ! 報酬ゲットだぜ!!


 すると忙しそうに働く職員たちを見ていたソフィが、居ても立ってもいられず席を立つ。


「私も手伝います!」


「アタシもやるっす!」


 ユニコもソフィに続いて立ち上がる。


「オイラも手伝うでゲス!」


 そしてゲスオまで二人に続き、三人は職員たちを手伝うため応接室を出ていった。


 部屋に残ったのは、俺と聖女様の二人だけ。


 三人が出ていくのを見届けると、聖女様は表情を崩さないまま口を開いた。


「まさか貴方が手伝ってくれるとは思いませんでした」


 奇遇ですね。


 まさか俺も手伝うことになるとは思いませんでした。


「困ったときはお互い様ですからね!」


 俺は爽やかな笑みを浮かべて答える。


 さあ聖女様!


 さっさと報酬を寄越すんだな!


「それで、報酬の件ですが……」


 俺の期待に応えるように、聖女様が静かに口を開いたその時――。


「大変です聖女様!!」


 応接室の扉が勢いよく開き、一人の職員が血相を変えて駆け込んでくる。


「どうしたのです?」


 聖女様が職員へ視線を向ける。


「新しい患者が運び込まれてきたのですが、満月草が足りなくて……!」


「それはいけませんね」


 聖女様の表情が僅かに険しくなる。


「かなりの重症で、今すぐ満月草を投与しないと命が危ない状況なんです!」


 職員は焦った様子で言葉を続ける。


「あと一本……あと一本でも満月草があれば助かるんですが…………!!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の身体が固まった。


 一本。


 ある。


 俺の懐に。


 ……いや待て。これは俺の物だ。


 俺が自分のために、自分で取ってきた物だ。


 魔物が蔓延る危険な山を、命懸けで攻略して手に入れたんだ。


 他人のために使う義理なんかない。


「なんで……なんで子供たちがこんな理不尽な目に遭わなきゃいけないんだ……!」


 職員が悔しそうに拳を握りしめる。


 関係ないね。


 これは俺の満月草だ。


 俺の状態異常を治すために使うんだ。


「私にもう少し力があれば……!」


 聖女様も悔しそうに呟く。


「おい」


 俺は職員に声をかける。


「へ?」


「使えよ」


 懐から満月草を取り出し、職員へ差し出す。


「えっ……?」


 職員は目を丸くする。


「なんでゼル殿が満月草を持ってるんですか……?」


「ポケットに入ってたんだよ」


 俺が適当に誤魔化すと、職員は困惑した様子で満月草と俺の顔を見比べる。


「あの……その……」


「いいから持ってけって!」


 俺が苛立ったように満月草を押しつけると、職員は慌てて受け取った。


「ありがとうございます! ありがたく使わせていただきます!」


 職員は深々と頭を下げると、満月草を大事そうに抱え、急いで応接室を出ていった。


 閉まった扉を、俺は黙って見つめる。


 くそっ、なんでこうなるんだよ……。


 俺は椅子の背もたれに身体を預け、天井を仰ぎながら深いため息を吐く。


 これで俺の満月草はなくなった。


 あの地獄みたいな山に、また挑まないといけないのか……。


 俺がそんなことを考えていると、不意に聖女様が口を開いた。


「――それで、どこが悪いのですか?」


「へ?」


 突然の問いかけに、俺は聖女様へ顔を向ける。


 聖女様は相変わらず表情を崩さず、じっと俺を見つめていた。


「貴方が子供たちの為に動く訳がありませんからね。どうせ自分で使うために満月草を取りに行ったのでしょう?」


「ギクッ」


 図星を突かれ、思わず肩が跳ねる。


 聖女様はそんな俺の反応を見て、小さく息を吐いた。


「満月草のお礼です。私が治して差し上げましょう」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は勢いよく身を乗り出す。


「マジすか聖女様!? ありがとうございます!!」


 助かったぁぁぁぁ!!


 さすが聖女様だぜ!


 一生ついていきます!!


 俺は勢いよく椅子から立ち上がると、聖女様のそばまで歩み寄った。


 そして、おもむろに腰のベルトへ手をかける。


「? 何をしているのです?」


 聖女様が怪訝そうに俺を見る。


 いや〜、助かった。


 これでようやく、この忌々しい痛みから解放されるぜ。


「それじゃ聖女様! よろしくお願いします!」


 俺は治療してもらうため、何の迷いもなくズボンを下げて患部をさらけ出した。


ボロン。


挿絵(By みてみん)


「GYAAAAAAA!!!!!」


 聖女様の絶叫が応接室に響き渡った。


「回復お願いしまぁす!!」


 俺はそんな聖女様の反応など気にも留めず、治療を催促する。


「あ、あ、貴方は一体何をしているのですか!?」


 聖女様は顔を赤らめながら、慌てて俺の患部から目を逸らした。


「そんなモノ早くしまいなさい!!」


「えっ、そんな……!」


 聖女様の予想外の反応に、今度は俺が困惑する。


「そりゃないぜ聖女様! もう痛くて痒くて限界なんだよ!」


 俺は納得がいかず、聖女様に食ってかかった。


「痛くて……痒い……?」


 聖女様が眉をひそめる。


「そうなんだ! 小便するたびに、とんでもない激痛がするんだ!」


「……そういうことですか」


 俺の話を聞いた途端、聖女様はすべてを察したように深いため息を吐く。


「頼むよ聖女様ぁ!」


 俺が懇願すると、聖女様は恐る恐る患部へ視線を向けた。


 途端に、その顔がみるみる赤くなっていく。


「私が……コレを……触る……?」


 聖女様は頬を真っ赤に染めたまま、動揺した声を漏らす。


「いいだろちょっとくらい! オトナなんだから男の患部(チ◯コ)なんていくらでも見てきたでしょ!?」


 俺のその言葉に、聖女様の肩がピクリと跳ねる。


「そ、そ、そそそそそそそそうですね!」


 なぜか聖女様が声を張り上げる。


「私はオトナの女ですから! 殿方のモノなんて腐るほど見てきました!!!」


「…………?」


 なんだ?


 急にどうしたんだこの人?


 ……まあいいか。


「じゃあ頼むぜ、聖女様!」


「…………」


 聖女様は真っ赤な顔のまま固まっている。


「さあ!」


 俺は治療を急かすように、聖女様との距離を詰める。


「さあ!!!」


挿絵(By みてみん)


「~~~~~~っ!!」


 聖女様は耳まで真っ赤に染めながら、声にならない声を漏らす。


 そして覚悟を決めたのか、震える手を恐る恐る患部へと伸ばす。


 やがて、まるで牛の乳を搾るかのように、そっと俺の患部を握りしめた。


「…………っ!」


 聖女様の顔がさらに赤くなる。


 だが、その手は離さない。


 恥ずかしさに耐えるように唇をきゅっと結び、聖女様は覚悟を決める。


 そして――。


「リフレッシュ(状態異常回復魔法)……!」


 聖女様は目をぎゅっと閉じたまま、震える声で呪文を唱えた。



★★★



 夕方。


 教会本部を後にした俺たちは、ゼノビア教会への帰り道を歩いていた。


 状態異常(性病)もすっかり治り、俺の足取りは軽い。


「子供たちの病気が良くなってよかったですね!」


 ソフィが嬉しそうに笑う。


「そうだな」


 俺のムスコも良くなってよかったですね!


 心の中でソフィの真似をしてみる。


「それにしても忙しかったでゲス」


 ゲスオが疲れたように呟く。


「目が回るようだったっす!」


 ユニコもぐったりと肩を落とす。


「本部の人たちは特に大変そうでしたね」


 ソフィの言葉に、ユニコが何かを思い出したように口を開く。


「聖女様もお顔が真っ赤っ赤だったっす!」


 確かに。


 ……でもなんであんなに顔が赤かったんだろ?


 俺は帰り道を歩きながら、ぼんやりと考える。




 ………………ま、どうでもいいか。



 ――あの日見た聖女様の赤面の理由を、俺達はまだ知らない。


◇◆◇ 第六話 完 ◇◆◇

次回からまた三人称に戻る予定です。


今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。