第六話 あの聖 ②
結局、俺たちは四人で山に挑むことになった。
山に入ってからというもの、俺は先頭に立ち、襲いかかってくる魔物を次々と斬り伏せながら山道を進んでいた。
ズキズキ。
歩くたびに患部がパンツに擦れ、尿道に鈍い痛みが走る。
「ぐっ……」
ああ痛ぇ。もう勘弁してくれよ……。
なんか変な汁まで出てきたし……。
俺は痛みに顔をしかめながら、黙々と山道を突き進む。
「すごい気迫でゲス……」
後ろをついてくるゲスオが、感心したように呟く。
「とっても気合い入ってるっす」
ユニコも俺の背中を見ながら感心している。
「よほど子供たちが心配なのでしょう」
ソフィがしみじみと呟いた。
俺は三人の言葉など気にも留めず、ひたすら山を進んでいく。
コイツらには絶対に満月草は渡さんぞ!!
…………うん? いや待てよ?
よく考えたら、一人で満月草を探すより、四人で探した方が見つかる可能性は高いよな……。
俺の分さえ確保できれば、ガキ共がどれだけ使おうと知ったこっちゃないワケだし……。
よし!
せっかくだし、アホなコイツらにも満月草探しを手伝わせるか!
そう考えて振り返ると、三人は少し疲れた様子を見せていた。
うむ。少し飛ばしすぎたようだな。
仕方ない。
「少し休憩にするか」
俺は足を止め、三人に声をかけた。
「賛成っす〜」
「ふぃぃ……疲れたでゲス」
「私も少し疲れちゃいました」
三人はほっとした様子で答える。
俺たちは休めそうな場所を探しながら、山道を少し進んでいく。
すると、木々の向こうに数人の冒険者たちが休んでいるのが見えた。
「先客がいたか」
俺が何気なく呟くと、その声に気づいた冒険者の一人がこちらへ顔を向ける。
そして俺の顔を見るなり、大きく目を見開く。
「あ、貴方は……ゼルさん!?」
「まあな」
俺は軽く返事をする。
それにしても、なんで冒険者がこんなところにいるんだ?
俺たちが近づいていくと、別の冒険者がこちらの装備を見て、何かに気づいたような顔をする。
「まさか貴方たちも満月草を?」
「まあな」
その問いかけに答えながら、俺はようやく察する。
そうか。
コイツらも、満月草を採りに来たのか。
「私たちも子供たちが心配で居ても立ってもいられなくて……!」
別の冒険者が真剣な表情でそう語る。
まあ俺はガキ共なんてどうでもいいけどな。
「満月草は山頂に生えているらしいんですけど……」
「なにィ!? 山頂に生えているのか!?」
思わぬ情報に、俺は食い気味に聞き返す。
「はい。でも僕たちの力では、これ以上進めなくて……」
「わかった、後は俺たちがやる! お前たちは危険だから無理をするんじゃない!!」
俺は冒険者たちを気遣うように言い放つ。
満月草は絶対にコイツらには渡さんぞ!
ここから先は俺たちだけで行かせてもらうからな!
……よし。
満月草が山頂にあると分かった以上、休憩なんてしてる場合じゃねぇ。
他の冒険者共に先を越されてたまるか!
「行くぞお前ら!」
俺は三人に向かって声を張り上げる。
「「「はい!!」」」
三人の威勢のいい返事を聞き、俺たちは休憩を取りやめ、そのまま山頂を目指すことにした。
――その後も、山頂までの道のりは散々だった。
落とし穴に落ちたり、底なし沼に足を取られたり、挙げ句の果てには魔物の群れに追いかけ回されたり――。
幾度となく酷い目に遭いながらも、俺たちはどうにか山を登り続けた。
そして――。
「おい見ろよアレ!」
俺は前方を指差し、思わず声を上げる。
木々の間から差し込む光の先。
そこには、見覚えのある草が一帯に生い茂っていた。
「アレはまさか……!」
ソフィが目を見開く。
「満月草でゲス!」
「これで子供たちが救われるっす〜!!」
ゲスオとユニコも興奮した様子で声を上げる。
よっしゃぁぁぁぁ!!
これでこの忌々しい尿道の痛みともオサラバだぜぇぇぇ!!
「よしお前ら、満月草を回収するぞ!」
「「「はい!!」」」
俺たちは手分けして、辺りに生えている満月草を摘み取っていく。
その最中、俺は三人の様子を横目で窺った。
ソフィは向こう。
ゲスオとユニコも採取に夢中だ。
――今だ。
俺は手にした満月草を一つ、素早く懐へ忍ばせた。
よし。
これで俺の分は確保した。
後は満月草を患部に巻き付けて擦れば、性病ともオサラバだ。
「ゼルさん、回収し終わったでゲス!」
ゲスオが満月草でいっぱいになった袋を高らかに掲げる。
うむ。
目的のブツも手に入ったことだし、さっさと帰って――。
「それじゃあ教会本部に行くっす!」
思わぬ言葉に、俺はユニコへ顔を向ける。
「へ? 本部に行くのか?」
俺が聞き返すと、今度はソフィが当然のように答える。
「病に侵された子供たちは、教会本部で保護されていますからね」
「ふーん」
俺は興味なさげに相槌を打つ。
「一刻も早く満月草を届けるっす〜!」
ユニコが張り切った様子で声を上げる。
「じゃあ任せたぞ」
そう言って、俺は帰り支度を始める。
「ゼルさんは行かないんでゲス?」
ゲスオが意外そうに俺を呼び止めた。
「まあな」
俺は振り返りもせず軽く答える。
こっちは一刻も早く帰って、この忌々しい状態異常を治さなくちゃならないんだ。
ガキの看病なんかに付き合ってられるかよ。
「おや? 珍しいですね、ゼルさんが報酬を貰わないなんて」
背後からソフィの声が聞こえてくる。
「えっ、報酬?」
思わず足を止め、俺はソフィたちの方へ振り返った。
「満月草を持ち込んだら報酬が貰えるでゲス」
ゲスオが補足する。
う〜む……。
報酬が出るのか。
それを先に言えよな。
「やっぱり俺も行く」
俺は即座に三人のもとへ引き返した。
「やっぱり子供たちのことが気になってるんすね!」
「報酬を理由に付いて来ようとするなんて、素直じゃないでゲス」
「ゼルさんらしいですね!」
三人は優しい笑顔で俺を見つめてくる。
くそっ、コイツらいい加減にしろよ……。
……まあいい。金のためだ。
あと少しくらい、この茶番と忌々しい尿道の痛みに付き合ってやるか。
――こうして俺たちは、満月草を届けるため教会本部へと向かうことになった。




