第五話 適材適所 ②
翌日の昼。
ゲスオとユニコはゼルの指示を受けて、応接室に机や椅子を運び込んでいた。
「ゼルさん、椅子はこの位置でいいっすかぁ??」
「おういいぞ」
ゼルの返事を聞き、ユニコは指定された場所に椅子を置く。
「この机はどうするでゲス?」
「そっちに置いといてくれ」
ゲスオも指示された場所へと机を運ぶ。
そんな三人の様子を、ソフィは不思議そうに眺めていた。
「……あの、ゼルさん?」
「なんだよ」
「何をやっているんですか?」
ソフィは部屋に運び込まれた机や椅子を見回しながら、ゼルに尋ねる。
「見りゃわかんだろ。面接会場を作ってんだ」
「面接会場?」
首を傾げるソフィに、ゼルは自信満々に答える。
「職場とのミスマッチを避けるために、集めた人材を面接して適性を調べてから企業に紹介するんだ」
「はあ……そうですか」
一方ソフィは今ひとつ状況を飲み込めないまま、曖昧に返事をした。
「ゼルさん、面接会場が完成したでゲス!」
机の位置を整え終えたゲスオが、満足そうに声を上げる。
「後は“人材”待ちっす〜」
ユニコも準備を終え、待ちきれない様子を見せる。
「うむ。もうすぐ来ると思うんだが……」
ゼルがそう呟いた、その時だった。
――コン、コン、コン。
応接室に、扉をノックする音が響く。
「あっ! 面接希望の人材が来たでゲス!」
「待ってましたっす〜!」
ゲスオとユニコは期待に満ちた表情を浮かべる。
そしてゼルは扉の方へ向き直ると、少し改まった口調で声をかけた。
「どうぞお入り下さい」
――ガチャ。
ゆっくりと扉が開かれ、人材たちが元気よく入室してくる。
「って、魔物じゃないですかぁぁ!!」
入ってきた“人材”を目にした瞬間、ソフィは絶叫する。
「仕方ないだろ、人がいないんだから」
「だからって意思の疎通も取れない魔物を紹介してどうするんですか!?」
ソフィは目の前の魔物を指差しながら、ゼルに詰め寄る。
「おいおい、深刻なる人手不足なんだぞ? 言葉が通じないとか価値観が違うとか言ってられる場合じゃないだろ」
「それはそうかもしれませんが……」
あまりにも堂々と言われ、ソフィは思わず言葉に詰まる。
「人手不足で会社が潰れるくらいなら魔物を雇って延命したほうがマシでゲス」
ゼルの意見に賛同するゲスオ。
「でも絶対にトラブルになりますよ!?」
「そうならない為の面接っす」
ユニコは至極当然といった様子で答えた。
「そんな滅茶苦茶な……」
ソフィはもはや何を言っても無駄だと悟ったのか、呆れ果てた表情を浮かべる。
そして改めて、目の前に並ぶ魔物達へと目を向けた。
「と言うか、なんでスーツなんて着てるんですか?」
「いや面接なんだからスーツに決まってんだろ」
「『面接は私服で構いません』とか言われても、逆に困っちゃうでゲス」
当然の様に答えるゼルに、同調するゲスオ。
「そう言うものですか」
ソフィは釈然としないながらも、ひとまず納得する。
「スーツ姿のスライムさんはいつもよりカッコいいっす〜!」
「ピキー!!」
ユニコに褒められたスライムは、嬉しそうに鳴き声を上げた。
そして準備が整ったところで、ゼルが魔物達に向かって威勢よく宣言する。
「よぉし! それでは面接を始めまぁぁす!!!」
「「「ギャァァァス!!!」」」
その宣言に応えるように、魔物達が一斉に鳴き声を上げた。
「あの、本当に魔物を企業に紹介するんですか?」
「当然だ」
ソフィの心配をよそに、ゼルは自信満々に答える。
「ピキー! ピキー!!」
すると突然、一匹のスライムが何かを訴えるように鳴き声を上げた。
「スライムさんが何か言ってるっす!」
「『私は潤滑油の様な存在です』と言っているでゲス」
どうやらゲスオは人材の言葉が分かるらしく、スライムの通訳をする。
「なるほど! ではスライムさんは工場に紹介しましょう!」
「えっ、工場って……大丈夫なんですか?」
あまりにも即決するゼルに、ソフィが心配そうに尋ねる。
「まあなんとかなるだろ。最悪潤滑油として機械の中にぶち込んじまえばいいしな」
「いや“潤滑油”って例え話ですからね!? 本当の潤滑油じゃないですからね!?」
言葉を文字通りに受け取るゼルに、ソフィが慌てて言葉を返す。
「いやスライムなんか只の潤滑油だろ」
しかしゼルは悪びれる様子もなく言い切る。
「スライムさんはヌルヌルっす〜」
ユニコもスライムの身体を眺めながら、楽しそうに同意した。
「ピキー!!」
当のスライムも紹介先が決まったことが嬉しいのか、張り切った様子で元気よく鳴き声を上げる。
「それじゃあスライムさんは工場で頑張って下さぁい!!」
「ピキー!!」
ゼルに励まされ、スライムは元気よく応接室を出て行った。
「じゃあ次は――」
ゼルが次の魔物へ声をかけようとした、その時だった。
「ブルルル!!」
フェンリルがゼルの言葉を遮るように、力強く鳴き声を上げる。
「フェンリルさんも気合十分っす!」
その様子を見たユニコが、嬉しそうに声を上げる。
「ブルル!! ブルルルルル!!!」
さらにフェンリルは、何かを訴えるかのように激しく鳴き続ける。
「おいゲスオ、コイツはなんて言ってんだ?」
「『座右の銘は安全第一です』と言っているでゲス」
「素晴らしい! ではフェンリルさんは配達員をして貰いまぁす!」
「ブルルルル!」
紹介先が決まると、フェンリルはやる気に満ちた鳴き声を上げる。
そんなフェンリルに、ゼルは期待を込めて声をかける。
「その自慢の脚力と高い安全意識で、この国の配達員不足を補って下さぁい!!」
「ブルァァァァ!!!」
ゼルの激励に応えるように、フェンリルが凄まじい雄叫びを上げた。
「ひぃぃぃ! とんでもない気迫でゲス〜!!」
あまりの迫力に、ゲスオが思わず悲鳴を上げる。
そしてフェンリルは居ても立ってもいられないとばかりに立ち上がると、勢いよく応接室を飛び出していった。
「……よし、この調子でどんどん面接してくぜ!」
こうして、ゼルは次々と人材を面接していくのであった。
――そして、残る魔物もあと一体となる。
「次で最後でゲス」
ゲスオが残った魔物を確認しながら、ゼルに声をかける。
「ゼルさん、最後はとんでもない人材っす!」
ユニコも興奮した様子で、最後に控える魔物へと目を向ける。
「そうみたいだな」
ゼルもその姿を見ながら、興味深そうに返事をした。
「ウゴゴゴゴ……!」
最後に現れたのは、筋骨隆々の巨体を誇るミノタウロスだった。
「これまた強烈な人材が来ましたね」
そのあまりにも屈強な姿を見て、ソフィが思わず呟く。
「ゼルさん、ミノタウロスさんはどうするでゲス?」
「いい身体してるし建設業でいいだろ」
ゼルはミノタウロスの鍛え上げられた身体を見て、あっさりと紹介先を決める。
「ウゴゴゴゴ!! ハラ、ヘッタ!!!」
ミノタウロスは腹を押さえながら、野太い雄叫びを上げる。
「でも建設業は荒くれ者が多いから職場に馴染めるか心配でゲス」
「いやミノタウロスさんも十分荒くれ者ですよ」
ソフィは冷静に指摘する。
すると突然、ミノタウロスは凄まじい勢いで自己PRをし始めた。
「ウゴゴゴゴ!! オレ、ニンゲン、クウ!!!!」
「うおおお!! 凄いハングリー精神っす!!」
「いやハングリー精神じゃなくてハングリーなんですよ! このままだと絶対に人間を食べちゃいますよ!?」
都合よく解釈するユニコに、ソフィが慌てて声を荒げる。
「やっぱり建設業で働くならこれくらい元気じゃないとな!」
「これだけ元気があるなら心配いらないでゲス!」
ゲスオもすっかり安心した様子でゼルに同意する。
「ではミノタウロスさんは建設業って事でよろしくお願いしまぁす!!」
こうしてゼルは、ソフィの心配をよそにミノタウロスの紹介先を決定した。
「ウゴゴゴゴ!! ニンゲンニ! マヨネーズカケテ!! クウ!!!」
最後まで物騒な言葉を叫びながら、ミノタウロスはドスドスと重い足音を響かせて応接室を出て行く。
そして、その足音が遠ざかっていくと――。
先ほどまでの騒ぎが嘘だったかのように、応接室は静まり返った。
「ふう……。やっと終わったぜ」
すべての面接を終え、ゼルが満足そうに息を吐く。
「お疲れ様でゲス」
「お疲れっす〜」
ゲスオとユニコも、無事に面接を終えたことに満足そうな表情を浮かべる。
一方、そんな三人とは対照的に、ソフィだけはすっかりと疲れ切っていた。
「こんなんで本当に紹介料が貰えるんですか?」
「まあなんとかなるだろ」
ゼルは相変わらず楽観的に答える。
「だといいんですケド……」
ソフィは一抹の不安を抱えたまま、力なく呟くのだった。
★★★
翌日。
ゼルは昨日の魔物達の採用結果が気になり、朝から妙にそわそわとしていた。
「おい、昨日の魔物達はどうなったんだ?」
待ちきれなくなったゼルが、ユニコに尋ねる。
「音沙汰無いっす」
ユニコは特に気にした様子もなく答えた。
「なんだとォ?」
期待していた返事とは違い、ゼルが不満そうな声を上げる。
「企業は魔物達を採用しなかったんじゃないですかね?」
そんなゼルに、ソフィがもっともらしい理由を口にする。
「人手不足とか言いながらちゃっかり人を選ぶなんて随分生意気じゃねえかクソ企業共」
「でも普通に考えて意思の疎通も厳しくて何を考えているかも分からない人材なんか雇えないですよ」
あまりにも企業側に理不尽なゼルを、ソフィが呆れた様子で諭す。
「ぐぬぬぬ……小癪な……!」
正論を突きつけられ、悔しそうな表情のゼル。
その時、慌てた様子のゲスオが勢いよく談話室へ駆け込んできた。
「ゼルさん大変でゲス!!」
「あん? どうした?」
突然現れたゲスオに、ゼルが怪訝そうに尋ねる。
「出版社に紹介したオークさんが見事採用されたでゲス!」
「なに、本当か!?」
思いがけない知らせに、ゼルは驚きの声を上げた。
「本当でゲス! 紹介料もちゃんと振り込まれているでゲス!」
そう言ってゲスオは通帳を取り出すと、振り込まれた紹介料を皆に見せる。
「おお!」
そこに記された入金額を目にして、ゼルの表情が一気に明るくなった。
「オークさん凄いっす!」
ユニコも自分のことのように喜び、嬉しそうに声を上げる。
「でもオークさんは出版社でどんな仕事をするんですかね?」
そんな中、ソフィがふと疑問を口にした。
「エロ本の汁男優でゲス! 『女騎士×オーク』の定番ジャンルが、また流行り始めたらしいでゲス!」
「なるほど。流行は繰り返すと言いますからね」
妙に納得した様子を見せるソフィ。
「それで……先方はあと数体オークを採用したいそうでゲス!」
さらにゲスオが、出版社から追加の依頼があったことを伝える。
「よっしゃ! 数体と言わず百体でも二百体でも連れてきてやるよ!」
追加の紹介料が貰えると知り、ゼルは俄然やる気をみなぎらせる。
「そんなにオークさんだけいても仕方ないような気がしますが……」
「深刻なる女騎士不足になるっす」
ソフィとユニコはもっともな問題を口にする。
「じゃあついでに野生の女騎士も攫って来るか!!」
ゼルはその問題を解決するべく、さらなる暴論を口にし――
「それなら安心でゲス!」
ゲスオも迷うことなく賛同する。
そしてゼルは勢いよく立ち上がると、三人に向かって声を張り上げた。
「よっしゃ!! 行くぞお前ら!!!」
「「「はい!!」」」
ゲスオ、ソフィ、ユニコの三人は元気よく返事をして立ち上がる。
――こうして一同は、さらなる紹介料を手に入れるため、野生のオークと女騎士を探しに行くのであった。




