第四話 アットホーム ②
「仕方がありませんね。ソフィ、ユニコーンに名前をつけて差し上げなさい」
「へ? 私がユニコーンさんに名前を?」
突然の指名に、ソフィが驚いた声を上げる。
「そうです。大切な仲間から名前をつけて貰うのは“アットホーム”ですからね」
「そうっす! とっても“アットホーム”っす!!」
ユニコーンもその提案をすっかり気に入ったようで、嬉しそうにはしゃぐ。
「ええっと、じゃあ――」
突然の大役に、ソフィは腕を組んで考え込む。
「…………」
しばらく悩んだ末、何か思いついたのか、ソフィはパッと顔を上げた。
「――愚羅帝雨寿という名前でどうですかね?」
「ダメに決まってんだろぉ!!」
ユニコーンは間髪入れずに声を上げた。
「そうか? 俺は結構カッコいいと思うけどなぁ」
「一発で読めない名前は駄目っす!」
ユニコーンは納得できない様子で、ゼルに反論する。
「オイラは威厳のある良い名前だと思ったでゲス」
「全然良くないっす! 絶対に就職活動で苦労するヤツじゃないっすか!!」
「いやお前は就活なんかしないだろ」
「そういう問題じゃないっす!!」
冷静に指摘するゼルに、ユニコーンは間髪入れずに言い返す。
「中々個性的な名前だと思ったんですが……」
二人のやり取りを見ていたソフィは、自分の考えた名前が不評だったことに、少し残念そうな表情を浮かべる。
「もう少し分かりやすくて、書きやすい漢字の方が良いのかも知れませんね」
聖女がユニコーンの意見を汲み取り、別の案を考えるよう促す。
「愚羅帝雨寿は書くのも読むのも難しすぎるっす」
「じゃあ食男とかはどうでゲス?」
するとゲスオが、閃いたように新たな名前を提案する。
「ふむ。良い名ですね」
聖女が感心する一方で、ユニコーンはプリプリと怒り出す。
「ムキーッ! 愚羅帝雨寿も食男も、とんでもないキラキラネームっす!!」
「う〜ん、名付けって大変なんですね」
ソフィは困ったように首を傾げると、ゼルが投げやりに口を開いた。
「もう面倒くせえから“うん子”とかでいいだろ」
「いいわけあるかぁ!!!」
あまりにも適当な名前に、ユニコーンはついに怒りを爆発させた。
暴れ始めるユニコーンを、ゼル、ソフィ、ゲスオの三人が慌てて宥める。
そんな騒ぎを眺めていた聖女は、ふと思いついたように口を開いた。
「では聖職者らしく、女神様に決めて貰いましょう」
「どういうことっすかぁ??」
不思議そうに首を傾げるユニコーンに、聖女は淡々と答える。
「女神様に祈りを捧げ、その神託によって名前を授かるのです」
「なんだか漫画の主人公みたいでカッコいいっす!」
先ほどまでの怒りはどこへやら。ユニコーンは目を輝かせてその提案に食いつく。
「では祈りを捧げましょう」
そう言って聖女は豊満な胸元に十字架を掲げると、静かに目を閉じた。
そして女神からのお告げを求め、厳かに祈りの言葉を口にする。
「女神様――どうかこの迷えるユニコーンに、ふさわしき名をお授け下さい」
聖女が祈ると、その周囲に色鮮やかな光が漂い始める。
「おお! なんか光ってるぞ!」
突然の光景に、ゼルが驚きの声を上げる。
「神秘的でゲス」
ゲスオは漂う光を見つめながら、感嘆の声を漏らす。
「やっぱりいつ見ても聖女様の祈りは凄いです!」
ソフィも目を輝かせ、祈りを捧げる聖女を見つめる。
「うおおおお! イカした名前が付きそうっす〜!!」
ユニコーンはこれから授かる自分の名前に、大きく期待を膨らませる。
やがて漂っていた光が、聖女の掲げる十字架の前へと集まり始めた。
その神秘的な光景を前に、一同はゴクリと唾を飲む。
「……神託が下されました」
聖女は静かに告げる。
すると集まった光が一際強く輝き、その中から徐々に文字が浮かび上がってきた。
「おい、なんか書いてあるぞ!」
光の中に現れた文字に気づき、ゼルが声を上げる。
「なんて書いてあるんすか!?」
ユニコーンは待ちきれない様子で、浮かび上がる文字を覗き込む。
「ええっと……『コ』……?」
ソフィが最初に現れた文字を読み上げる。
「二文字目は『カ』でゲス!」
ゲスオも続いて二文字目を読み上げた。
そしてゼル、ソフィ、ゲスオの三人は、浮かび上がった二文字を揃って読み上げる。
「「「コ……カ……?」」」
それを聞いたユニコーンも、不思議そうに呟く。
「コカ?」
――次の瞬間、残りの文字が一斉に浮かび上がった。
「って◯薬じゃねえかぁぁ!!!」
神託によって授けられたまさかの名前に、ユニコーンは激しく声を荒げる。
「〇カイン、これからもよろしく頼みますね」
聖女は何事もなかったかのように、その名を受け入れる。
「コ〇イン、よろしくな」
ゼルもあっさりと続く。
「コカ〇ンさん、よろしくお願いしますね」
ソフィも笑顔で頭を下げる。
「コカイ〇さん、よろしくでゲス」
ゲスオも新たな名前を歓迎するように挨拶する。
「全然よろしくないっす! こんな名前は絶対に許されないっす!!」
一人だけ納得できないユニコーンの叫び声が、教会中に響き渡る。
「ではどの様な名前が良いと言うのですか?」
聖女が困ったように尋ねる。
「う〜ん、そう言われても……」
ユニコーンは言葉に詰まる。
「ユニコーンだし、“ユニコ”とかでよくね?」
すっかり名付けに飽きたゼルが、心底面倒くさそうに口を挟む。
「あっ、ちょっといいかもっす」
ところがユニコーンは、意外にもその名前を気に入った様子を見せる。
「可愛らしくていいんじゃないですか?」
「あだ名っぽくてとっても“アットホーム”でゲス!」
二人もその名を気に入ったようで、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「えっ、いいの? 今すげえ適当に言ったんだけど」
予想外の好評ぶりに、名付けた本人であるゼルが一番困惑する。
「アタシ、気に入ったっす〜!」
ユニコーンは新しい名前がよほど気に入ったのか、嬉しそうに笑う。
「では“ユニコ”に決定ですね」
聖女がそう告げ、ようやく名前問題に決着がついた。
「よかったですね、ユニコさん!」
ソフィが自分のことのように嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「ユニコさん、おめでとうでゲス!」
ゲスオも笑顔で新たな名前の誕生を祝福した。
二人から祝福されたユニコは、すっかり上機嫌になって喜びを爆発させる。
「プリミティブで、クリエイティブで、アットホームな名前っす〜!!」
そんなユニコを見ながら、ゼルは呆れたように呟く。
「いや本人がいいならいいけどよ……」
――なんだかよく分からないけど、本人が気に入ったから、ヨシ!!
◇◆◇ 第四話 完 ◇◆◇




