第四話 アットホーム ①
ユニコーンがゼノビア教会で働くようになってから数日が経った。
そんなある日の朝。
いつものように四人で朝食を済ませ、一息ついていたその時――
「そういや今日、聖女様が来るから」
ゼルは思い出したかのように呟いた。
「どうしたんですか急に?」
突然の話に、ソフィが驚いて尋ねる。
「ゲスオとユニコーンの面談をしに来るんだとよ」
「「「面談?」」」
ソフィ、ゲスオ、ユニコーンの三人が揃って首を傾げる。
「今年から新入りの早期離職を防止する為に、フォロー面談をする事にしたらしいぞ」
「はえ〜、そうなんですか」
ソフィが感心したような声を漏らす。
「さすが世界で活躍する教会でゲス! オイラがこれまで働いた職場ではそんなの無かったでゲス!」
「面談って何喋ればいいんすかぁ??」
ユニコーンが不思議そうにゼルへ尋ねる。
「んあぁ……………………」
ゼルはしばらく考え込み――。
「知らね」
面倒くさそうに吐き捨てる。
「悩み事とか仕事に対する価値観なんかを話せばいいんじゃないですかね?」
代わりにソフィが、自分なりの考えを口にした。
「なるほどでゲス」
ゲスオはソフィの説明を聞き、納得した表情を浮かべる。
「言っとくけど聖女様は怒ったら面倒くせえからな。余計なことは言うんじゃないぞ」
ゼルはゲスオとユニコーンに念を押す。
「了解っす! 昨日ゼルさんが仕事をサボってパチンコ行ってたことは、絶対に喋らないっす〜!!」
「おいこらバカ!」
いきなり秘密を暴露したユニコーンに、ゼルが慌てて声を上げた。
「あっ! やっぱりサボってたんですね!? 急に『ちょっと外回りに行ってくる』なんて言うから怪しいと思ったんですよ!」
その言葉を聞き逃さず、ソフィがゼルを問い詰める。
「仕方ないだろ、昨日は新台入替の日だったんだから!」
「理由になってません!!」
悪びれる様子もないゼルを、ソフィが厳しく叱りつける。
「オイラも行きたかったでゲス……」
「ゲスオさん!?」
「じょ、冗談でゲス〜!」
ソフィの剣幕に怯み、ゲスオは慌てて誤魔化した。
「まったく貴方たちは……」
ソフィは呆れ果てたようにため息をつく。
「とにかく、絶対に余計なことは言うなよ?」
ゼルは話を戻すと、改めてユニコーンに釘を刺す。
「了解っす〜」
「ホントに分かってんのかよ……」
その様子に不安を覚えながら、ゼルは訝しげな視線をユニコーンへ向けるのであった。
★★★
それから一時間後。
ゼノビア教会に到着した聖女を迎え、一同は談話室へと集まっていた。
聖女がテーブル席に着くと、ソフィはお茶と茶菓子を差し出す。
「どうぞ」
「お構いなく」
聖女が静かに礼を返す。
「聖女様! どうぞ召し上がって下さい!」
ゼルが爽やかな笑顔を浮かべ、やけに元気よく声をかける。
普段とはまるで違うその姿に、ユニコーンは戸惑ったように首を傾げた。
「なんだかいつものゼルさんじゃないっす」
「聖女様はゼルさんの上司だから、気を遣っているでゲス」
そんなユニコーンに、ゲスオが事情を説明する。
「少しやり過ぎな気もしますが」
ソフィが苦笑すると、ゲスオも小声で付け加える。
「ゼルさんは意外と権力者に弱いでゲス」
「ゼルさんはチキン野郎っす〜」
「お前らうるさいぞ!!」
好き勝手に言う三人に、たまらず声を上げるゼル。
「……仲が良さそうで何よりです」
そんな四人のやり取りを、聖女は少し呆れたように眺めていた。
「さっ、聖女様。早速面談を始めましょう!」
ゼルは気を取り直すと、聖女に面談を始めるよう促す。
「そうですね。では応接室をお借りします」
「へ? ここでやらないんすか?」
予想外の言葉に、ゼルが間の抜けた声を漏らす。
「面談は個人情報も取り扱いますからね。当然個室で行います」
「そ、それはダメだぜ聖女様!」
「なぜです?」
聖女が不思議そうに問い返す。
「こいつらはアホでマヌケで、とても失礼な奴らで、何よりアホなんだ! だからこいつらが聖女様に失礼な事を言わないように俺が見張ってないといけないんだ!」
「貴方は一体何を言っているのですか……?」
ゼルのあまりにも意味不明な主張に、聖女は困惑した表情を浮かべた。
「とにかく、個室での面談なんかダメだ! お前らもそう思うよな!? なっ!?」
ソフィが冷ややかな視線を向ける中、ゼルは必死になってゲスオとユニコーンに同意を求める。
「オイラはどちらでもいいでゲス」
「アタシも何でもいいっす〜!」
二人は深く考えることなく、能天気に答えた。
「そうですか。ではここで面談を始めたいと思います」
本人たちが気にしていない様子を確認し、聖女はこの場で面談を続けることを決断した。
その様子を見て、ゼルはホッと胸を撫で下ろす。
「では改めて、軽い自己紹介と経歴をお願いします」
そう言って聖女は、ゲスオとユニコーンに自己紹介を求める。
「オイラの名前はゲスオで、四十〇歳でゲス! Y〇uTuber養成大学卒業後は正社員としての就職が叶わず、アルバイトや派遣社員として働いていたでゲス。その後転職を重ね、今回ご縁があってこの教会に拾って貰ったでゲス!」
「ありがとうございます。では次の方お願いします」
「はいっす! アタシは――」
元気よく自己紹介を始めようとしたユニコーンだったが、突然言葉を止める。
「? どうしたのです?」
不思議に思った聖女が声をかける。
「…………あれ?」
ユニコーンは何かに気がついたように首を傾げる。
「おい、どうした?」
「ユニコーンさん、大丈夫ですか?」
「緊張しちゃったでゲス?」
ユニコーンを心配して様子を窺う三人。
するとユニコーンは、何かに気づいたようにハッと目を見開き――。
「大変っす!!!!」
「「「「うおっ」」」」
突然のユニコーンの大声に、四人は揃って驚きの声を上げる。
「なんだよ急に騒ぎ出して」
ゼルが驚きながらユニコーンに尋ねる。
「ゼルさん大変っす! アタシ、“名前”がないっす!!」
「何言ってんだ? お前は“ユニコーン”だろ?」
ゼルは何を今さらと言わんばかりに答える。
「それは種族名っす! アタシがみんなを“ニンゲン”って呼んだらおかしいっす!」
「確かにそう言われてみるとおかしいでゲス」
ユニコーンの主張に、ゲスオが納得したように頷く。
「今更変えるのも面倒くせえし、“ユニコーン”のままで良いだろ」
ゼルは面倒くさそうに話を終わらせようとする。
「ゼル、それはいけません。名前というものは、その人のアイデンティティの象徴です。そして名前を呼び合うことは、お互いの信頼関係を築くための大切な手段なのです」
そんなゼルを諭すように、聖女が名前の大切さを説く。
「さすがです聖女様! 私、感動しちゃいました!」
ソフィからの称賛に、聖女は少し得意げな表情を浮かべる。
そして聖女の話に感銘を受けたユニコーンは、ここぞとばかりに自分の不満を口にする。
「聖女様の言う通りっす! 名前を呼んでもらえない職場なんて全然“アットホーム”じゃないっす! アタシはもっと“アットホーム”な職場で働きたいっす!!」
「ユニコーンさんアットホームな職場に夢を見すぎでゲス! 実際は仕事とプライベートの境界線が曖昧になるし、既存の人間関係が濃すぎて意外と新人に優しくないでゲス!」
「おいどうしたゲスオ? まるで実際に経験したような口ぶりじゃないか」
あまりに具体的な話をするゲスオに、ゼルが不思議そうな視線を向ける。
「もう休日のBBQやフットサル大会はこりごりでゲス〜!」
「大丈夫ですゲスオさん! この地獄のゼノビア教会には休日という概念はありません! だからプライベートと仕事の境界線なんてものは存在しません!!」
そんなゲスオを励まそうと、ソフィは胸を張り、自信満々に言い放つ。
「ひえ〜! それならアットホームの方がマシでゲス〜!!」
「アットホーム万歳っす〜!」
ユニコーンもゲスオに同意し、嬉しそうに両手を上げた。
「――ゴホン」
その時、聖女がわざとらしく咳払いをした。
「面談が途中なのですが」
「おいお前ら、早く終わらせろよな」
ゼルも面倒くさそうに話を戻そうとする。
「ダメっす! まだアタシの名前問題が解決してないっす!」
しかしユニコーンは、まだ納得していない様子で食い下がる。
その言葉に、聖女は小さくため息をついた。
「仕方がありませんね。ソフィ、ユニコーンに名前をつけて差し上げなさい」




