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第三話 馬主 ④

 レースの表彰式が終わると、三人はユニコーンのいる馬房(馬の控室)へと集まり、先ほどのレースについて談笑していた。


「凄かったですねユニコーンさん!」


「オイラ、感動したでゲス!」


 二人は興奮冷めやらぬ様子で、ユニコーンを褒め称える。


「やってやったっす!」


 得意げに胸を張るユニコーン。


「ほら、報酬のうんまい棒だ」


 ゼルは約束していたうんまい棒を取り出し、ユニコーンの前へ差し出した。


 ユニコーンは嬉しそうにうんまい棒にかぶりつくと、ボリボリと音を立てながら夢中で食べ始める。


「うんま〜〜い♡」


 幸せそうに声を弾ませるユニコーンを見て、ゼルはさらなる条件を持ちかけた。


「今後も協力してくれるんなら毎日食べさせてやるぞ」


「本当っすかぁ!? こんな美味しい物食べられるんなら何でもやるっす! ずっと人間の町に居たいっす〜!」


 ユニコーンは目を輝かせながら、すっかりその気になっている。


「おおそうか、偉いなお前は」


 ゼルは満足そうに笑みを浮かべると、ユニコーンの頭を優しく撫でた。


「ゼルさん、駄菓子じゃなくてもっといい物あげればいいじゃないですか」


「ソフィさん! 余計なことは言わない方がいいでゲス! ユニコーンさんはうんまい棒で満足しているでゲス!」


 ソフィの提案に、ゲスオが慌てて口を挟む。


「そうだぞソフィ。ユニコーンはうんまい棒が、良いんだもんなぁ〜??」


 ゼルは邪悪な笑みを浮かべながら、ユニコーンに問いかける。


「そうっす! うんまい棒最高っす!!」


「お〜よしよし、お前は可愛い奴だなあ」


 ゼルは上機嫌でユニコーンの頭を撫で回す。


「いやぁ、褒められちゃったっす〜」


 嬉しそうに照れるユニコーン。


「………………」


 ソフィはゼルの邪悪さとユニコーンの純粋さに呆れて、言葉を失ってしまう。


「ソフィさん、何が幸せかは本人が決めることでゲス」


「そうですね……。また一つ勉強になりました」


 ソフィは戸惑いながらも、ゲスオの言葉を素直に受け入れた。


 ――その時、にわかに競馬場全体がざわつき始める。


「あん? なんの騒ぎだ?」


 突然の騒ぎに気づき、ゼルが怪訝そうに馬房の外へ目を向けた。


 すると一人の馬主が、ユニコーンのいる馬房へと近づいてきて、ゼルに声をかける。


「ゼルさん、なんか騒ぎになってますよ?」


「騒ぎ?」


 ゼルが不思議そうに馬主へ聞き返す。


「なんでも、ゴール直前でユニコーンにツノが生えていたとかナントカ……」


「そ、そ、そんな訳無いじゃないすか! 冗談キツイなぁもう! ガハハハ!!」


 ゼルは明らかに動揺しながらも、大声で笑って誤魔化そうとする。


 そんな挙動不審なゼルを前にしても、馬主は特に気に留めることなく話を続けた。


「ですよね(笑)。でも念のため係員が確認しに来るみたいですよ」


「そ、そうすか」


 ゼルの表情が僅かに引きつる。


「では私は失礼しますね」


 馬主はゼルたちに軽く頭を下げると、足早に馬房を後にした。


 すぐさまユニコーンに詰め寄るゼル。


「おいユニコーン!! どういうことだ!?」


「いやぁ、頑張って走ったらツノが出ちゃってたみたいっす〜」


「なんだと貴様ぁぁ!!」


 悪びれる様子のないユニコーンに、ゼルは怒りの声を上げた。


「どうするんですかゼルさん! 係員さんが来たらバレちゃいますよ!?」


「大ピンチでゲス!」


 ソフィとゲスオも事態の深刻さに焦りを見せる。


「どうやら本当にツノを切り落とすしかないみたいだな」


 ゼルはそう呟くと、腰に差していた剣を引き抜いた。


「それだけはダメっす〜!」


 ユニコーンは慌ててゼルから距離を取る。


「ゼルさん落ち着いて下さい!」


 ソフィも慌ててゼルを止めようとする。


「ええい、うるさいぞ! 俺が助かる為にはこれしか無いんだ!」


「ゼルさんはとんでもない暴君っす!! 人間のクズっす!!!」


 身の危険を感じたユニコーンが、ゼルに罵声を浴びせたその時――。


 馬房の外を見張っていたゲスオが、慌てて二人の間に割って入る。


「大変でゲス! 係員さんが来たでゲス!」


「クソッ、時間が無い! 今すぐ切り落とすぞ!」


「絶対にダメっす〜!!」


 ユニコーンは必死になってゼルから逃げ回る。


「ゼルさんいけません! ゲスオさんも止めて下さい!」


「こうなったら最後の手段でゲス!」


 追い詰められた状況の中、ゲスオが咄嗟にユニコーンへ手をかざした。


「変身魔法(擬人女体化)!!」


 ゲスオが魔法を唱えた瞬間、ユニコーンの身体が真っ白な煙に包まれる。


「ぬわーっ!!」


 ユニコーンの悲鳴が馬房中に響き渡った。


 そして煙が晴れると、先ほどまでユニコーンがいたその場所には――


 まだ幼さの残る銀髪の少女が、ぽかんと口を開けたまま立ち尽くしていた。


「……って、あれ??」


 少女となったユニコーンは、不思議そうに自分の身体を見下ろす。


「に、人間になってるっす〜!?!?」


「でかしたぞゲスオ!」


 見事にユニコーンの姿を隠したゲスオに、ゼルが嬉しそうな表情を向ける。


 ――その直後。


 不正を確認するためにやって来た係員が、馬房へと到着した。


「ゼルさん、先程のレースのことなんですが――」


「係員さんすんません! ユニコーンの奴、逃げちゃいまして!」


 しかしゼルは係員の話を遮り、先手を打って告げる。


「えっ、逃げた……? 何を言ってるんですか……?」


「だから! 逃げちゃったから、ユニコーンはもういないんだって!!」


「は、はあ……」


 係員はゼルの勢いに押され、戸惑った様子で返事をした。


「じゃあ俺たちは逃げたユニコーンを探しに行くんで帰りますね! さいなら!」


 ゼルは一方的にそう告げると、係員の横を通り抜けて馬房から出ていこうとする。


「ちょっとゼルさん!?」


「行くぞお前ら!」


 係員の呼び止める声を無視し、ゼルが三人に声をかけた。


「「「はい!」」」


 ソフィ、ゲスオ、そして人間の姿になったユニコーンは元気よく返事をすると、ゼルの後を追って馬房を飛び出していく。


 ――こうしてゼルたちは、強引にその場から逃げ出し、危機を脱したのであった。



 ★★★



 競馬場から逃げるように立ち去ったゼルたちは、無事にゼノビア教会へと帰還した。


「ふう……なんとか誤魔化せたぜ」


 教会に入るなり、ゼルが安堵した様子で息を吐く。


「あれで誤魔化せたんですかね?」


「まあ大丈夫だろ」


 不安そうなソフィに、ゼルは楽観的に答える。


「ゲスオさん、そろそろ元の姿に戻して欲しいっす」


 人間の姿になったユニコーンがゲスオに声をかけた。


「それは無理でゲス」


「へ??」


 あまりにもあっさりとした返答に、ユニコーンが間の抜けた声を漏らす。


「変身魔法は元の姿には戻せないでゲス」


「それじゃあアタシは、ずっとこのままってことっすか……?」


 ユニコーンは自分の身体を見下ろしながら、恐る恐るゲスオに尋ねる。


「残念ながらそうなるでゲス」


「そ、そんな……」


 ユニコーンは絶望してその場にガクリと膝をつく。


 そんなユニコーンのもとへ、ゼルが静かに歩み寄った。


「ユニコーン」


 ゼルはそっとユニコーンの肩に手を置く。


「ゼルさん……!」


 半べそになったユニコーンは、ゆっくりと顔を上げる。


 ゼルとユニコーン。二人はしばらく無言で見つめ合い――


「もう帰っていいぞ」


「ユニコーンさん、お元気で」


「新天地でも頑張って欲しいでゲス」


 ゼルに続き、ソフィとゲスオもユニコーンに温かい言葉をかける。


「って何でそうなるんすか!? アタシが可哀想じゃないんすか!?」


 慰めてもらえると思っていたユニコーンは、思わず声を荒らげながら続ける。


「酷いっす! この教会の人間はみんな悪魔っす!!」


「なにィ!? 俺たちが悪魔だとォ!?」


「私たちは勤勉な聖職者ですよ!」


「オイラたちほど心優しい人間はいないでゲス!」


ユニコーンの言葉に、三人は怒りの反論をぶつける。


「ムキーッ!! もう怒ったっす! この教会の恐ろしさを、町中の人に言いふらしてやるっす!」


「ちょっとユニコーンさん、何を言い出すんですか!?」


 突然のユニコーンの宣言に、ソフィが慌てて声を上げる。


「この教会の人間は、罪の無い女の子を攫ってきて人生を滅茶苦茶にしてるっす〜!!」


「おいバカ! 出鱈目なこと言うな!」


「ユニコーンさんやめるでゲス! これ以上この教会の悪評が広まったら信者がいなくなるでゲス!」


 事実を広めようとするユニコーンを、ゼルとゲスオは慌てて止める。


「そんなの知らないっす! 日頃の行いで、身から出た錆っす〜!!」


「ゼルさん、どうしましょう……」


 ソフィは困り果て、オロオロしながらゼルに助けを求めた。


 ゼルは大きくため息をつくと、騒ぎ続けるユニコーンに声をかける。


「……おいユニコーン。この教会に居ていいぞ」


 その瞬間、騒いでいたユニコーンがピタリと大人しくなった。


「本当っすかぁ!?」


 目を輝かせるユニコーンに、ゼルが念を押すように答える。


「ああ本当だ。毎日うんまい棒も食わせてやるから、変な噂を流すんじゃないぞ」


「やったぁ! 毎日うんまい棒っす〜!」


 先ほどまでの怒りはどこへやら。ユニコーンは一転して嬉しそうにはしゃぎ始めた。


「ゼルさん、いいんですか?」


「仕方ないだろ」


 ソフィの問いに、ゼルは諦めたように答える。


「ゼルさんの悪行がバレるよりマシでゲス……」


 ゲスオも仕方なさそうに呟いた。


「それじゃあ皆さん、よろしく頼むっす〜!」


 ――こうして、ユニコーンもゼノビア教会の一員として働くことになったのであった。



 ◇◆◇ 第三話 完 ◇◆◇

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