第三話 馬主 ②
――ポンッ!
地面に落ちた魔球が軽快な音を立てて開くと、中から眩い光が勢いよく飛び出した。
「「「うおっ、眩しっ!」」」
三人は突然の光に目を細め、思わず顔を背ける。
そして眩い光が収まると、その中心から一頭の獣がゆっくりと姿を現した。
絹のようになめらかな毛並みに、宝石のように輝く瞳。そして、その気高さを象徴するかのように額から伸びた、立派な一本の――ツノ。
「「えっ……ツノ……?」」
ゲスオとソフィは、その額から伸びる立派なツノを見つめて目を丸くする。
「って、これ馬じゃなくてユニコーンじゃないですか!?」
その正体に気づいたソフィは、驚いてゼルに詰め寄った。
「いや馬もユニコーンも似たようなもんだろ」
「全然違うでゲス」
「いやどっからどう見ても馬だろ。な? そうだよな?」
二人に否定されたゼルは、今度は同意を求めるようにユニコーンへ問いかける。
「ヒヒ〜ン(泣)」
ユニコーンは悲しげに鳴き声を上げる。
「絶対に嫌がってますよ」
「可哀想でゲス」
「うるせえなぁ」
二人から責めるような視線を向けられ、ゼルは鬱陶しそうに頭を掻く。
「解放してあげましょうよ」
「ダメだ。俺は馬主になるんだ」
ソフィは不憫なユニコーンの解放を訴えるが、ゼルは聞く耳を持たない。
「でもこんなに立派なツノが生えてたらレースに出られないでゲス」
「うむ。一理あるな……」
ゲスオの指摘を受け、ゼルはユニコーンのツノを見つめながら考え込む。
そして何かを思いついたのか、ふと顔を上げた。
「よし! じゃあ切り落としちまうか!」
そう言うや否や、ゼルは腰に差していた剣を鞘から引き抜いた。
「ヒヒーン!?」
身の危険を察したユニコーンが、怯えて後ずさる。
「ゼルさんダメですよ!」
「そうでゲス! さすがに人の道から外れすぎているでゲス!!」
ソフィとゲスオはユニコーンを庇うように、ゼルの前へ立ちはだかる。
「ええい、うるさいぞお前ら! 俺の馬主で一攫千金計画の邪魔をするな!!」
二人の制止など聞く耳を持たず、ゼルはユニコーンへと詰め寄る。
そして額のツノをがっしりと掴み、剣を振り上げた、その瞬間――
「いやちょっと待って欲しいっす!!!」
突然、ゼルにツノを掴まれていたユニコーンが言葉を発した。
「「しゃ、喋ったぁ!?」」
まさかの出来事に、ソフィとゲスオは揃って驚きの声を上げる。
「あっ! おいこらバカ! お前は馬なんだから喋るなって言ってただろ!!」
「ゼルさん酷いっすよ! 無理矢理連れてきてアタシのプリティ〜なツノを切ろうとするなんて!!」
ユニコーンはゼルにツノを掴まれたまま、涙目になって抗議する。
「仕方ないだろ、ツノが生えてたらレースに出られないんだから!」
「ツノはユニコーンのアイデンティティっす! 簡単に切り落としていい物じゃないっす!!」
互いに一歩も譲らず、言い争いを続けるゼルとユニコーン。
そんな二人のやり取りを見ていたソフィは、ふと我に返り慌てて口を挟む。
「ゼルさん! そんなことよりユニコーンって喋るんですか!?」
「そりゃそうだろ。ユニコーンなんだし」
「意味がわかりませんよ!」
あっさりと答えるゼルに、ソフィは困惑した様子で声を上げる。
「というか、喋れるなら尚更罪悪感があるでゲス」
ゲスオは人の言葉を話すユニコーンを見て、ますます不憫そうな表情を浮かべる。
「ゼルさん、やっぱり帰してあげましょうよ。さすがに可哀想ですよ」
「う〜ん。そう言われると少しだけ悪い事した気がするな……」
さすがのゼルも罪悪感を覚えたのか、悩ましげに考え込む。
――その時だった。
グゥゥゥ……。
不意にユニコーンのお腹から、大きな音が鳴り響いた。
「なんだお前、腹が減ってるのか?」
「そらそうっすよ。ゼルさんに捕まってから何も食べてないんすから」
「それではお詫びの印に何か食べ物を持って来ますね」
ソフィはそう言い残すと、食べ物を取りに教会の中へと戻っていった。
「やったぁ! タダ飯が食えるっす〜!」
ユニコーンは先ほどまでの不満も忘れ、嬉しそうにはしゃいだ。
「感謝しろよな」
「……そもそも、ゼルさんが誘拐してきたからこんなことになったでゲス」
ゼルの偉そうな態度に呆れたゲスオは、聞こえるか聞こえないか程の声でポツリと呟く。
「おいゲスオ、何か言ったか?」
「な、なんでもないでゲス!」
慌てて誤魔化すゲスオ。
そして次の瞬間――
「お待たせしました〜」
教会へ食べ物を取りに行っていたソフィが戻って来た。
「どうぞユニコーンさん、お食べ下さい」
ソフィはそう言って、持ってきた食べ物をユニコーンの前へと差し出す。
「なんすかこれ??」
見たこともない食べ物に、ユニコーンは不思議そうに首を傾げる。
「“うんまい棒”というお菓子です。とっても美味しいんですよ?」
そう言ってソフィは、ユニコーンの口元にうんまい棒を差し出した。
「じゃあ遠慮なく頂くっす」
ユニコーンは差し出されたうんまい棒にかぶりつくと、ボリボリと音を立てながら食べ始めた。
「うん!?!?」
すると突然、ユニコーンはうんまい棒を咥えたまま、目を大きく見開いて硬直した。
「おいどうした」
動かなくなったユニコーンを見て、ゼルが怪訝そうな顔をする。
「そもそもユニコーンにお菓子を与えていいんでゲス?」
「やっぱりダメでしたかね?」
「いや食わせてから言うなよ」
今更心配する二人に、ゼルが呆れた様子で呟く。
「…………う……」
その時、硬直していたユニコーンが小さく声を漏らす。
「「「う?」」」
三人が揃って首を傾げる。
「……う……」
ユニコーンがもう一度、先ほどと同じく小さく声を漏らす。
「「「う?」」」
それにつられるように、再び三人は揃って首を傾げる。
そして次の瞬間――。
「うんま〜〜い♡♡♡」
目を輝かせながら歓喜の声を上げるユニコーン。
「気に入って貰えたようですね」
その喜びようを見て、ソフィは嬉しそうに微笑む。
「滅茶苦茶おいしいっす! 人間はいつもこんなに美味しい物を食べてたんすかぁ!?」
ユニコーンは興奮した様子で三人に問いかける。
「そうだぜ。羨ましいだろ?」
「羨ましいっす! アタシも毎日うんまい棒食べたいっす!!」
その言葉を聞いたゼルは、何かを企むようにニヤリと悪そうな笑みを浮かべた。
「レースに出てくれるんなら、毎日食べさせてやるよ」
「本当っすかぁ!?」
「本当だ。そんで、レースに勝てば追加でもう一本やるよ」
さらに条件を付け加えるゼル。
「なんと!?」
追加の一本と聞いて、ユニコーンはさらに目を輝かせた。
「出るっす! アタシ、レースに出るっす!!」
そしてユニコーンは勢いよく首を縦に振り、自らレースへの出場を宣言する。
「交渉成立だな。お前らもこれなら文句無いだろ?」
「まあ本人がいいなら良いですケド……」
ソフィはまだ少し納得がいかない様子だったが、本人が乗り気ならと渋々引き下がる。
「でもツノはどうするでゲス?」
「こんなもん魔法でどうにでもなるっす! そいやっ!!」
ユニコーンが気合いの入った声を上げると、額のツノが淡い光に包まれ、跡形もなく消えてしまった。
「ツノが……消えちゃいましたね」
「本当に馬みたいでゲス」
二人はその姿をまじまじと眺めながら、感心したように呟いた。
「これでレースに参加できるな」
ゼルはツノの消えたユニコーンを見て、満足そうな笑みを浮かべる。
「ゼルさん! アタシ、レース頑張るっす〜!!」
ユニコーンはすっかりやる気になり、元気いっぱいに声を上げた。
「よし! じゃあ行くぞお前ら!」
「行くって……どこにでゲス?」
突然のゼルの号令に、ゲスオが不思議そうに尋ねる。
「競馬場に決まってんだろ」
「えっ、今からですか!?」
当然のように答えるゼルに、ソフィは驚いて聞き返す。
「当たり前だ! 俺は一刻も早くレースの賞金を手に入れて、夢の“脱サラFIREでスローライフ生活”を実現するんだ!!」
「そんなに馬くいかないと思いますけど」
「一攫千金なんて狙わず、地道に頑張るべきでゲス」
呆れ混じりに呟くソフィとゲスオ。
「うるせえ! 行くぞ!!」
ゼルはそんな二人の忠告を聞き流し、競馬場へ向かって歩き出した。
「うおおお! やってやるっすよ〜!!」
ユニコーンもやる気満々で声を上げると、意気揚々とゼルの後をついていく。
「「はあ……」」
ソフィとゲスオは揃って深いため息をつくと、仕方なくゼルとユニコーンの後を追って歩き出した。
――こうして、一同は一攫千金を夢見て競馬場へ向かうのであった。




