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第25話:素材集め

 再び辿り着いた水晶の広間。その中心では、先ほどSRE-SREを敗走させた『アイアン・センチピード』が、鋼鉄の節を蠢かせながら、鉱石を守るように鎮座していた。


 だが、今のSRE-SREの両脇には、不敵な笑みを浮かべる浪manと、冷静に杖を構え直すL-NAがいる。


「……作戦はさっき言った通りだ。浪man、頼むぞ」


「おう! ソロで溜まった鬱憤、こいつの腹に全部叩き込んでやるよ!」


 先陣を切ったのは浪manだった。

 彼はボスの正面から堂々と踏み込み、多脚の連撃を最小限の動きで捌きながら、掌底をムカデの節の繋ぎ目へと叩き込む。


 本来なら弾かれるはずの硬度だが、浪manの重心を乗せた崩しによって、ムカデの巨躯が僅かに浮き上がった。


「――今よ、どきなさいッ!」


 L-NAの鋭い声と共に、極低温の『スノー・パイク』が空気を切り裂いて飛来した。

 狙いは、浪manが掌底で無理やりこじ開けた装甲の隙間だ。


 氷の槍が節の内部で爆ぜ、摩擦熱を帯びていたムカデの肉体を内側から急激に冷却する。


 ギィィィィィッ……!


 急激な温度変化に金属が悲鳴を上げるような音が響き、鋼鉄の装甲に脆さが生じる。

 そこへ、SRE-SREが『跳躍』による加速を乗せて肉薄した。


「……そこだッ!」


 加速した思考の中で、SRE-SREは『蝕鎌』を振り下ろす。

 先ほどは火花を散らすだけだった刃が、氷で脆くなった装甲を深々と切り裂き、腐食の毒を内部へと流し込んだ。


 ムカデが苦悶にのたうち、巨躯を震わせて放った百本の脚による同時多発的な刺突。

 SRE-SREは一歩も引かず、左手の『鉄屑』で飛来する鋼の雨を独楽のように回転させて叩き落としていく。


 ――ガギギギィィィン!


【特殊効果:『刹那の残滓』発動】


 視界から色が抜け、世界が泥の中に沈んだように鈍化する。

 静止した時間の中で、SRE-SREは崩れた姿勢のまま固まっているムカデの、節の隙間から露出した柔らかい組織へと、次々と『蝕鎌』の刃を添えていった。


 加速が解けた瞬間、重なり合った衝撃が爆発する。

 一度リズムが刻まれれば、あとは三人の独壇場だった。


 浪manが敵を固定して攻撃の軸を逸らし、L-NAが魔法で装甲の硬度を奪い、SRE-SREがその「継ぎ目」に因果を断つ一撃を叩き込む。


 一人では突破できなかった硬度という壁を、三人の技術が鮮やかな連鎖となって粉砕していく。

 やがて、九層のエリート個体である『アイアン・センチピード』は、その巨躯を激しくのけぞらせた後、光の粒子となって霧散した。


 静寂が戻った広間に、マーロンの歓喜の叫びが響き渡る。


「よっしゃああ! どけよお前ら、俺の番だ!!」


 マーロンが巨大なツルハシを振り上げ、光り輝く壁へと叩きつける。

 三人は肩で息をしながら、互いの顔を見て、どちらからともなく小さく笑った。


「やっぱり、こうじゃないとな」


「……ふん。あんたたちの使い勝手が、少しだけ上がっただけよ」


 三人は、手に入れたばかりの希少な鉱石の輝きを、満足げに眺めていた。

 アイアン・センチピードを退けた後、三人の探索は驚くほどの加速を見せた。


 マーロンが鼻で嗅ぎ分ける魔力の流れを巡り、鉱石を集め、現れるモンスターを三人の洗練された連携で叩き伏せる。


 浪manが強引に装甲を抉り、L-NAの魔法がその内部を凍てつかせ、SRE-SREが剥き出しになった急所を『蝕鎌』で刈り取る。


 数日前まで互いの足を引っ張り合っていたのが嘘のように、九層の硬質なモンスターたちは次々と光の粒子へと変わっていった。


 数日間、彼らは晶洞の奥深くに潜り続けた。

 時には深夜まで及び、現実世界で疲労をコーラで癒しながら、再びVRの世界へとダイブする日々。


 その甲斐あって、インベントリにはアイアン・センチピードの鋼鉄節や、マーロンが掘り当てた希少な『晶洞の銀鉱石』、そしてモンスターからドロップした強靭な皮素材が積み上がっていった。


「……よし、これだけあれば十分だろ」


 SRE-SREが溢れんばかりの素材リストを閉じ、二人に告げた。


「ハッ、やっとこのキラキラした穴ぐらともおさらばか。俺の拳も、もっと広い場所で暴れたがってるぜ」


 三人は九層の拠点キャンプへと戻り、中央に位置するな転送ゲートの前に立った。

 行き先に指定するのは、全ての始まりの場所。


「――迷宮都市アークへ」


 視界が眩い白光に包まれ、重力感が一瞬だけ消失する。


 次に目を開けたとき、三人の耳に届いたのは、晶洞の静寂とは無縁の、何千、何万というプレイヤーたちが発する地鳴りのような喧騒だった。


 活気に満ちたアークの中央広場。

 その中心にそびえ立つ『深淵の石碑』を横目に、黒いローブを翻すSRE-SREを先頭に、三人は見慣れた路地裏の鍛冶屋へと足を進めた。


 いよいよ、彼らの「紙装備」が終わりを告げる時が来たのだ。


 アークの喧騒を抜け、路地裏に佇む煤けた鍛冶屋の扉を開けると、重厚な熱気と鉄を打つ高い音が三人を迎えた。奥から現れた老鍛冶師は、SRE-SREの顔を見るなり、そのボロボロになった装備に鼻で笑った。


「……また死に損なってきたか。今度は随分と賑やかな連れだな」


「親父さん、冗談はいいよ。今日は装備の依頼をしに来たんだ」


 SRE-SREはカウンターに、九層で死線を潜り抜けて集めた素材を次々と並べた。

 アイアン・センチピードの鈍く光る鋼鉄節、マーロンが命懸けで掘り当てた晶洞の銀鉱石、そして屈強なモンスターから剥ぎ取った極上の皮素材。それらが並ぶたび、老鍛冶師の隻眼が鋭く細められていく。


「……ほう。九層のエリート素材か。これを揃えるにゃ、ただの運じゃ済まなかったはずだ」


「あぁ、大変だったよ。だから、それに見合うだけのものを作ってほしい」


 SRE-SREは、自分の新装備について具体的なイメージを伝えた。


「俺のは、全身を覆うような重いのはいらない。この銀鉱石を薄く精錬して、急所を守る最小限のアーマープレートにしてくれ。あと、回避の邪魔にならない肘当てと、足の防具。……機動力ともしもの時の硬度が欲しいんだ」


 続いて、浪manが自身の拳を突き出し、要望を重ねる。


「俺は、こいつだ。自分の拳の威力を逃がさないための反動抑制、それと敵の懐に飛び込むための衝撃吸収が欲しい。この皮と金属をうまく混ぜて、軽量かつ頑丈な手甲と防具に仕立ててくれ」


 最後に、L-NAが重い杖をカウンターに立てかけ、冷徹に言い放った。


「私は、このクリスタル装飾を魔力伝導率の極致まで高めてほしいわ。それと、詠唱中に万が一掠っても耐えられるだけの防御力。美しさは二の次でいいから、機能性だけを追求しなさい」


 老鍛冶師は三人の無理難題を黙って聞き終えると、並べられた素材を一つずつ、まるで魂の重さを量るように丁寧に撫でた。


「……銀鉱石で軽量化し、鋼鉄節で硬度を担保するか。反動抑制に魔力伝導……全部完璧になるからわからんがやってみよう。ふん、小僧共、金も時間もかかるぞ」


「あぁ。イベントの賞金で金ならたっぷりある。最高の一式を頼むよ」


 SRE-SREが1,000,000 Gの一部を提示すると、親父さんは初めて不敵な笑みを浮かべ、巨大なハンマーを握り直した。


「……良かろう。数日後にまた来い」


 鍛冶屋を後にした三人の背中には、既に新しい鉄を打つ音が響き始めていた。

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