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「グレードボアの鉄板焼き、お待ちどう」
熱々の鉄板にじゅうじゅうと脂をはねさせる肉塊。ナイフを差し入れると赤い肉汁が滴り、こんなときでも食欲をかき立てる。肉なら何でもいいというファングの希望で適当に入った屋台だが、なかなか当たりだったようだ。
「とりあえず食べようぜ。ラビンを探すにも空腹じゃ動けない」
尖った犬歯を見せながら肉にかぶりつくファング。黙々と食べ進める。
皿が空になると、ふたたび彼は口を開いた。
「あいつが勝手に五日も帰らないなんてあり得ねえ。事件に巻き込まれたんだと思う」
「私もその可能性が高いと思う。不慮の事態に巻き込まれたか、怪我をして動けなくなっているか。荷物を取りに帰らないのはやっぱりおかしい」
食事中、エリーナもずっと考えていた。
たとえラビンがカイレンの件でショックを受けていたとしても、勉強道具だけ持って行方をくらますのは現実的ではない。
それに、あの日ラビンが走り去っていったのは四番街方面だ。つまりコット子爵家ーーラビンの住むメイド舎がある方角になる。仮にそのまま家出するつもりなら貴族街とは反対方向に向かうはずだ。貴族街で意味もなく平民がうろついていたら通報されてつまみ出されてしまう。
「手がかりを探そう。シュバルツーー一緒によろず屋をやっている狼獣人を呼ぶ」
「衛兵は俺らなんて相手にしないだろうからな。賛成だ。学校の連中にも声をかけようぜ」
エリーナは目を瞬かせた。
「しかし、事件だったら巻き込むことになってしまわないか?」
「そういう奴らは俺と一緒に行動させればいい。みんな心配してるんだ」
「……いや。私が行動を共にしよう。それが一番安全だ」
「おいおい無理すんな。どう見てもか弱い人間だろ!」
冗談だと思ったファングは笑い飛ばしたが、エリーナはニヤリと唇の端を持ち上げた。
「じゃあ、やってみるか?」
「別にいいけど……おまえってやっぱり変わってるよな」
お互いの手を握り、肘を屋台の机につく。興味を持った屋台のおやじが「始めっ!」と合図をすると――。
轟音とともに木の破片と食材が飛び散り、屋台がぐらりと傾いた。
腕ごと半分地面にめり込んだファングと、大事な商売道具が一瞬で破壊されたおやじは茫然自失としている。
「し、しまった。オーガ族が相手だからと張り切りすぎてしまった!」
エリーナは恥ずかしさで顔を赤くする。片手でファングを引っこ抜くと、店のおやじに頭を下げた。
「すまない! 弁償させてくれ」
とりあえず手持ちの金をすべて差し出し、残りは明日必ず持ってくると約束する。無言で目をキラキラさせるファングと一緒に学校に向かった。
ラビンが行方不明になっていることを告げると教室からは驚きと悲鳴があがった。
「俺とエリーナでこれから探しに行く。手伝える奴は着いてこい」
「無理はしないでほしい。私たちだけでも大丈夫だから、よく考えてくれ」
ーーその後。教室にやってきた教師がもぬけの殻の教室を見て、これは夢かと目をこすったことはまた別の話。




