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翌日、ラビンは学校に来なかった。
その次の日も、次の次の日も欠席していた。
今日もからっぽの席を見てエリーナの胸は痛む。
「ラビンちゃん、もう四日も休んでるね」
「仕事が忙しいのかな」
「風邪ひいてるんじゃね?」
事情を知らないクラスメイトのやりとりを耳にしたエリーナは、『風邪』という言葉を聞いて、そういう可能性もあったかとハッとする。
(私のせいだと思っていたが、そういう理由もなくはないな。あの夜は結構涼しかったし……)
初夏とはいえまだ夜は冷える。
ラビンの家は遠いのだろうか。やっぱりあのときすぐに追いかけて、きちんと家まで送ればよかったと悔やむ。草食系の獣人、特に小型の獣人は可愛らしい見た目どおり身体があまり強くないのだ。
(ラビンははるかに年下なのに。真に受けてショックを受けるなんて私らしくないし、大人げなかった)
あの日返された菓子を持って帰宅するとまだシュバルツが起きていて、すぐに問い詰められた。正直に事の顛末を話すと彼は今にもラビンを食い殺しそうな顔で出ていこうとしたものだから、止めることに意識が持っていかれて落ち込み過ぎずにすんだのだった。
(シュバルツが居てくれてよかった)
自分よりも悲しんだり怒ってくれる人がいると、不思議と気持ちが落ち着いていくことを知った。
シュバルツはまさに家族のような存在で、最近は言葉がなくてもお互いの考えていることが分かることさえある。
(そういえば、昔も同じように――)
エレンディラだったときも、誰もが彼女を恐れる中、唯一側にいてくれた存在がいて――。
(――――? おかしいな)
エリーナはひどく奇妙な気持ちになった。あの人生でなによりも大切にしていた『何か』を思い出せなくなっていることに気がついたからだ。
(……それとも、最初からそんなものは存在しなかったのか?)
それもあり得る話だ。なにしろ百年も昔のことだし、悪逆無道の悪女だったのだから。身勝手な自分に寄り添ってくれた存在なんていないと考えるのが自然だろう。
けれども拭いきれない違和感があるのも確かだ。そこだけ記憶が抜け落ちてしまったかのような、ピースが一つだけ足りないパズルを無理矢理繋ぎ合わせているような感覚だった。
(……とりあえず今はラビンだ)
体調を崩しているなら力になりたい。病は気からというし、依頼の件も全くの無関係というわけではないだろう。
「お見舞いに行きたいんだが、ラビンの家を知っている人はいるか?」
「確かコット子爵のお屋敷に住み込みで働いてるぜ。あそこは無料のメイド舎があるんだ」
そう答えたのはエリーナのことを「変わり者だ」と笑い飛ばした不良風の少年、オーガ族のファングだ。筋骨隆々とした肉体に精悍な顔。頭にはオーガ族特有の角が二つ生えているが、左側は途中から折れてしまっている。
見た目だけでいえば勉強の場であるこの学舎にはあまり馴染んでいないが、ボロボロの教科書をそのまま小脇に抱えてきちんと毎日通学している。噂によれば、あまり頭が良くないためずいぶん長く通っているらしい。つまり古株だ。
「ファング。よかったら案内してくれないか。明日の授業前に時間をとれたりするか?」
番地がわかれば一人で行けなくもないが、万が一迷ったら遅刻してしまう。エリーナは少し慎重になって訊ねた。
「鐘一つ分くらいなら早く来れるぜ」
「助かる。礼に夕食をごちそうしよう」
「おっ、儲かった」
そうしてエリーナとファングは翌日一緒にコット子爵家に向かった。お見舞いの花と休んでいる間の授業をノートにまとめたもの手提げを携えて、門の外にいる警備の人間に取り次ぎを頼むと。
「あー、ラビンってふわふわした兎獣人の? あの子ならしばらく帰ってきてないぞ」
「えっ? ここで働いてるんじゃないのか」
「働いてるよ。だけど、もう五日くらい欠勤してる。夜番のやつによると、そもそも帰ってきてないらしい。逃げたんじゃないか?」
「……」
エリーナとファングは顔を見合わせた。
「……俺たちを舐めて嘘をついてるんじゃねえだろうな?」
「そんなことをしてどうなる。たかがメイドの一人なんだ、誰も気にしていない」
すごむファングに一瞬怯んだ門番だが、毅然として言い放った。
「おまえたちはあの子の友人なのか? じゃあちょうどいい。荷物を持ち帰ってくれよ。新しいメイドが雇われることになるはずだから」
「いや、突然そんなこと言われても。はいそうですかって言えるかよ」
「なら帰った帰った。とにかくここにはいないから」
しっしっと追い払うような動きをして、門番は定位置に戻っていった。
「なあエリーナ。どうなってんだ?」
「……分からない。移動して情報を整理しよう」
五番街まで戻った二人は手ごろな屋台に入った。




