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第21話 それぞれの考え

 破壊したハンモックの復旧の難しさと、サボタージュがこの後も起きるという噂で、プロジェクトが揺れている。

 このまま中止になると予測したスタッフが離脱を始めていると、精神・生活管理スタッフのエドナが言っていたが、まさかパイロット候補のケケまでもが、国に帰ってしまうとは思ってもいなかった。

「それほどみんなも疑心暗鬼か。まあ事故の調査復旧で一か月もかかるようじゃ、離脱する人間も出て来てもおかしくないか」

 ケケを見送ったことで、もやもやした怒りが静まった沙織。

身も心も疲れを感じたのでトレーニングを終了し、部屋に戻ってシャワーを浴びることにする。

 


 トレーニングジムの階からエレベーターで、上にある居住区の階に行く。厳密じゃないが、男女の居住は階で分けられて、一応、この階は女性のスタッフの多い階になっている。

 沙織、エレベーターを出て右に曲がって、奥にある自分の部屋に行くと、部屋の前にジンがたたずんで待っていた。

「あら、私に何か用事?・・・どのくらい待った?」

「いや今、来たところだ。留守だから出直そうと思っていたところだ」

「あれ?ジン、服が・・・」

 ケケ同様、こちらも飛行士がいつも着ているツナギのユニホームを着ておらず、スーツ姿であることに気がついた沙織。

「まさかジンまで?」

「どうかしたか沙織?」

「今、荷物を持ったケケが来て、自分の国に帰って行ったところだよ。国から送金がストップで、『お金がない』って。もう宇宙は終わりなんだって」

「そうだな。ブラジルも大変なことになってるからな」

「ストップしたまま再開されず、いつまでも待てないと、国にひき戻されちゃたみたい。・・・ジンのところもそうなの?」

「うん。ケケのブラジルと、うちはちょっと違うかな。・・・でも、待てないというのはこっちも同じだ。・・・昨日、国から戻れと連絡がきた。最後に沙織には挨拶をしておこうと思ってね」

「まさかイスラエルは革命なんて起きないわよね」

「ああ、理由はブラジルと違う。自分が戻される理由は・・・また戦争さ」

「でも落ち着いたってニュースでは・・・」

「表面上はね。だが実情は国の存亡の危機が迫ってきている。イスラエルを消滅させようとする国々が、ひそかに手をだして脅かしに来ている」

「だけど先に手を出したのは向こうでしょ?イスラエルに侵入して民衆を拉致して監禁してる」

 頷くジン、そして少し残念そうに

「もうそれを言う報道局はない。それより攻撃された被害のニュースを見て、うちをみんなが非難する」

「被害の報道、そしてそれに伴う報復。報復を受けてまた報復。長引くともうなにが原因なのかさえも把握できなくなる」

「これだけ戦いが続くと、宇宙がどうしたとか言っている状態じゃない。地球にある自国を守れと誰もが叫び出す。・・・私個人は宇宙のほうに行きたいのだが、こればかりはどうにもならない」

 廊下で立ち話が続いたので、沙織は自分の部屋のドアを開き、ジンを招くが、動かないジン。

「どうしたの?入らないの?」

「いや女の子の一人の部屋に入るのはやめておくよ」

「律儀ね」

 それに応じてドアを閉じ廊下で続きを話す沙織とジン。

「・・・でも戦争なら戦略的に衛星を含む宇宙も大事じゃないの?」

「その通り。だから我々はこの宇宙開発に参加したのだ。・・・だか今は急を要する状態になってる。・・・これから我が国に必要な宇宙関連の情報は、自国で開発して得なければならない。だから『宇宙に詳しい』私に招集がかかったのだと考えられる」

「もったいないわね。大事な宇宙パイロット候補を断念させるなんて」

「遠い未来より明日の国の存続が大事。これは優先順位だから仕方ない。うちの国は、たえず周りの国々が仕掛けてくる。なりふり構わず戦わなきゃならない」

「頑張ってねジン」

 握手をするジンと沙織。


「・・・それで沙織は、このままハンモックが再開されなかったら、どうするんだ?」

「・・・私も辞めるかも」

「日本で仕事か?」

「いえそれは決まってない。それより私が怒っているのは今のハンモックの体制。あのフランシスの秘密主義と飛行士をモルモットのように考えているハンモックの実験作業。それらが許せないのよ」

 微笑むジン。

「・・・沙織は子供だな」

「 だって奴らは、私たちが必死にもがいていたのに、ほっといて観察してたんだよ。許せないじゃない」

「・・・いや私の見解はちょっと違うな」

「どんな見解?」

「私は、さすがフランシスって、リスペクトしてる。・・・今回のハンモックの事故は崩壊しそうなほどの被害なのに死人は出なかった。・・・それは過去のパルテノンの事故を分析してバックドアを作っていたからだ」

「しかし私たちはそれを知らされてなかった。うらぎられた。実験材料にされていた」

「それでもいいさ。『生きている』それが大事なんだ。秘密でもなんでもエスケープのための逃げ道を作ってくれていた。それで助かったんだ」

「でもフランシスたちにも役にたつか確信がなかったのよ。今回はたまたま偶然、私たちは助かったのかも知れない」

「うん。それは、それでもいいんだ。・・・とにかく生き残り、戦い続けられることが大事だと思っているから」

 ジンの冷静な意見に、ちょっと納得が出来ない沙織。

「・・・いま、フランシスと会った。再開を頑張るって言ってたわ。こっちは頭に来てたんで、『命をかけて挑む』と言わせたわ」

 笑いだすジン。

「そうだな、私たちも命をかけたんだ、それなりにしてくれなきゃ困るな」

「ジンとは、結構、考え方が違ってるわね」

「そうだね。人それぞれ違っているから面白い」

「それは私も思うわ」

 ジン笑いながら頷き、立ち去ろうとするが、ふと気が付き立ち止まって沙織の顔を見直す。

「・・・それで最後だと思うから、気になっていたことを一つ聞いていいか?」

「え、なにかしら?」

「ハンモックの最終試験だが、『一緒に仕事をしたくない人間』に、私を入れたろ?」

「どうして?それを?」

 笑うジン。

「やっぱりそうか」

「ごめんなさいね。私はどうもジンのデータ主体の冷たい言論が苦手で」

「私と沙織は正反対だからな。・・・。私は嘘をつきまくる。君はどんな時でも、正直であろうとする。笑顔で陽気で、たまには度を越して厳格であろうとする態度。まったく正反対だ」

 笑うジン。・・・ふと、そういえばこんなに笑うジンを初めて見たかも。これで最後となると本来の姿の陽気な一面が出てきたのかも知れないと思う沙織。

「しかし沙織、私が仲間のことを考えている場合、嘘をつき通すことは間違いじゃないと信じている。『嘘は百回言えば本当になる』という言葉通り、『本当と嘘の違い』なんて相手次第なんだ・・・そう、殺されそうになって生き残れた者にとって、嘘か本当かなんて、どうでもいい。なんとしても生きる。それが一番大事で、あとはどんなことでも、なんとかなってしまう。私はいつもそう考えて生きてきた。・・・でも不思議なことに、自分と正反対の沙織が好きだ。一つ一つ真正面からぶつかる沙織に感心している。・・・私は『一番一緒に仕事したい人』に沙織を選んだ。沙織がぶつかりながらも立ち向かい、嘘で裏切られたり驚かされても、折れないで進んでいく。そんな沙織が信頼できたからだ。だからね・・・ぜひ沙織にはそのまま突き進んでほしいと思っているんだ」

「ずいぶん勝手ないいぐさね」

 うなづくジン。

「頑張ってくれ沙織」

「そうね。じゃあまたいつかどこかで・・・」

「いや、もう会うことはないだろう。でも沙織の進んでいく道を見守っているから、頑張ってくれよ」

 そういうと去っていくジン。

「あいつ、最後までなんくせつける意見を吐くのね」

 沙織、そんなジンがエレベーターに乗り込むまで見送ると部屋に入る。




 汗で湿ったトレーニングウエアを脱ぎ、シャワールームに入る。

シャワーを浴びて、

「ジンは戦争で、ケケは経済破綻で断念か。なんか世の中が怪しくなっていくな。・・・このまま夢のある『宇宙への道』は、消えていくのか?・・・」

 頭をワシワシ洗い、考える沙織。


 シャワーを浴びて出てくると冷えた炭酸水をグラスに入れて、リビングに戻る。するとPCのメールサービスに、『メッセージが届いている』と表示されているのに気がついた。

 沙織、受信箱を開くと、日本のJAXAにいる秋月さつきからメールが届いていたのだった。

「懐かしい。さつきさんだ」

 バスタオルで頭を拭きながらメールを開いてみると

『ケガはない?大丈夫?』

 短い文だが心配してくれているのが判るメール。事故をニュースで知って送ってくれたのだろう。

「事故の詳細は、日本では説明されてないだろうな。・・・とにかくこちらは無事であることは報告しておくべきだね」

 と、メールブラウザを立ち上げて、返信メールを書き始める。・・・するとテレビ電話のコールがなりだす。

「え?」

 画面右端に表示されている友人の欄の所にあるJAXAの『秋月さつき』にアクセスマークがついており、そこからのテレビ電話でのコールであった。

「あ、しまった。自分がネットにアクセスしているがバレた。・・・邪魔なんだよね、このアクセスお知らせの緑ランプ・・・まいったな。どうしよう?これって逃げられないよね?」

 沙織、観念してテレビ電話のマークをクリックしてさつきとラインを繋げる。

「久しぶりです、さつきさん」

「ハロー、元気?生きてる?」

 能天気で陽気なさつきの声が返ってくる。相変わらず第一声から、ひどい。

「生きてます・・・」

「やはりいわくつきのドッキング分離作業訓練だったわね。ケガはないの?」

「ないです」

「まったく不運ね。何回も事故に会って」

「訓練なんで仕方ないですよ」

「こっちじゃマイケルの亡霊のせいだって、もっぱら噂よ」

「やめてくださいよ。縁起でもない」

 さつき、躊躇せずガンガンと言いたいことを言ってくる。

これは返事する言葉をうまく選ばないと、エラいことになりそうだと思う沙織。

「日本はそういう迷信を信じている人が多いんだから、すぐに結びつけるの。でも井上さんはどう思う?」

「・・・まあ・・・少し信じるかな」

 酷い。あまりに酷い意見なので否定はしたいが、反論すると色々とボロが出そうなのでやめた。まさかハンモック内でサポタージュがあったとは外部に漏らす訳にはいかない。仕方ないので、さつきに合わせておくが、

「こっちでは幸運の井上。死なない沙織ってみんなが噂してるわよ」

「それって・・・その変な噂はもしかして、さつきさんが流しているんじゃないでしょうね?」

「ばれた?するどいね沙織さんは」

 やっぱりか。本当、このひとは自由すぎる。


「・・・それでハンモックだけど、破壊しちゃったんでしょ?プロジェクトはストップになるの?」

「責任者のフランシスは、やる気でいます。だから一応、いまは待機中になります」

「待機といっても船体が全損で作り直しだって聞いたけど。それって中止が濃厚なんじゃないの?」

 なるほど、そうなのか。ハンモック計画は、世間でも『諦め』の噂が蔓延しているようだ。

「そしたらどうするの沙織さんは?」

「私は待ちます。なんど繰り返しても、宇宙に行く夢は諦めません」

 すると突然、画面が黒くなる。

「・・・?」

「あ、所長。邪魔、邪魔」

「え、どうした?私が邪魔か?」

 黒い物体が、カメラ前から離れると人間だと判り、それが所長の名村であることが判った。

「お、そこにいるのは井上さんか?」

「所長、お久しぶりです」

「よう、ご無沙汰ご無沙汰。・・・元気そうだね。なによりなりより」

 閉ざされたハンモックプロジェクトのエリア内にいると、世間が疎くなる。イスラエルやブラジルのこともあり、ちょっと日本がどうなっているか気になって名村に聞いてみた。

「所長さん、いま、どうですか日本は?」

「世界中が戦争モード。きな臭い話ばかり。それに伴い日本もなんとなく巻き込まれている感じかな」

「こちらもイスラエルの人間が帰りました。あとブラジルも革命で経済が低迷してるって。日本は被害は出てないでしょうね?」

「これが不思議なんだ。世界は連動しているはずなんだが、なぜか日本は悲壮感はない。なんとなく免れているんだ。不思議不思議。いまは円安でがっぽがっぽ稼ぎまくっている状態だ」

「そうなのよ日本の株価、急上昇。日本が宇宙開発する絶好のチャンスなのよ。ただ今、大フィーバー中」

 さつきが嬉しそうに小さく手を叩く。

「今、どこの国もドローンとミサイル開発にやっきなってる。そして日本もロケット開発のスケジュールがどんどん前倒しになり、物凄い勢いで開発が始まっている。・・・今まで国に『軍事に抵触する』と言われてロケット開発は制限がかかっていたが、これからは武器などの軍事を自国で生産できるように方針が変ったため、技術開発の案件がバンバン始まっている。そして日本は今、経済が潤って来てるので、バカすか大型ロケットを開発するプロジェクトが立てられているんだ」

 所長の名村も、ニコニコとして語りだす。

「それって制空権から落とす長距離ミサイルの開発と同じでですよね?」

「そう、軍用にも転用できるものに、急ピッチで開発費が注ぎ込まれているんだよ」

「でもそれは攻撃用の弾道ミサイルと同じものなわけですよね?」

「シー!何言ってるの沙織ちゃん。ミサイルじゃないわロケットよ。ロケット。・・・軍事と同じものでも、こちらは平和のための宇宙開発に決まってるじゃない。・・・だけどね。軍拡競争のこういうご時世、この波に乗って、ちょいと解釈を広げ、なんにでも転用できるキャパシティーを持って、開発ラッシュしていくの」

 相変わらずたくましい女性だ。

しかしさつきは興奮してくると、こっちの呼び名がころころ変わる。

『井上さん』から『沙織さん』になって、段々と自分が乗って来ると『沙織ちゃん』になる。これもさつきの凄さというか、めちゃくちゃというか、『不思議ちゃん』といわれる所以だ。


「井上くん。これから本格的に日本が武器輸出が認められそうだ。これは同時に『宇宙に転用できる開発の認可』にもなり、戦後いままで止められてた自国の『技術の開放』が実現できるようになるのだ。・・・これで日本はどこの国にも気兼ねなくロケットの開発を邁進して行くことが可能になった。非常に喜ばしいことなんだ」

 なんか所長が熱く語りだした。

「それに今回の解釈は凄く広く運用できる。技術の転用を他の産業と融合することも認められたことにより、国として企業として宇宙だけじゃなく、海洋、マントル、天候などの地球上のあらゆるところに進出して行けるようになってくれた。これは技術の制限が解除されたに等しく、いままで出来ずにため込んでいたノウハウを存分に発揮させ、日本はこれから『世界を動かす工業大国』になって行けるのだ」

「私たちも忙しくなって来ているの。・・・でもね忘れちゃいけないの。いくら技術が開発できようと、それを動かす人間の意識が大事だということ。すべてにおいて必要なのは、それを動かす人間の資質が健全であるということなの。・・・・それは人間のもつ可能性で、AIだろうがなんだろうが、人間の感覚に勝るものはないから」

「そう機械ばかりつくっても、人間がコントロール出来ないものはダメだ。仏像つくって魂いれなきゃ何にもならない。・・・それで井上さんはいつ日本に戻るんだ?」

「え~と、今はちょっと・・・」

「戻ったらぜひとも、その人間を作ってほしいと考えているわけなの。魂を持った後輩をバンバン育成してちょうだい」

 相変わらず『熱さ』は半端ない二人だった。

でも自分としても二人の考えに賛成だ。

「わかりました。もう少しで、ここの結論が出ると思います、そうしたら連絡入れます」

「待ってわ。・・・・それで沙織ちゃん、なんか少し雰囲気変わったわね」

「え?そうですか?別に・・・変ったことは・・・」

「男が出来たの?」

「ちがいますよ!」

 さつきは辛らつだ。

「私の感じる印象は、冷たくなったというか、りりしくなったというか、足でたっている感じがする」

 と、名村も沙織が変ったと言い出した。

「そうですか?おほめいただいて、ありがとうございます」

「まあ2度も死にそうになればそうなるか」

 やはり名村所長もデリカシーないことを言う人だ。

「また連絡します」

「待ってるわよ」

 画面の中で手を振るさつきと名村の二人。

「相変わらず自分の言いたいこといいまくる二人で、なんか毒気に当てられたが、・・・しかしまあ一応は元気がもらえた」

 長く話していたためか、空腹感が起きる沙織。

持ってきた炭酸水を飲むが、そんなものでは全然足りず、部屋から出て食堂に向かう。





 

 食堂についてみると時間はまだ15時。ガラーンとしている。

昼飯後の夕食前で、誰もいない。

「まだ夕食には早すぎたか」 

 ドリンクバーにてダイエットコーラを注ぎ、食品ケースからドーナッツとプリンを出してお盆にのせて、席を探す沙織。

「流石にこの時間は誰もいない・・・」

 と思っていたら、ルームの端で本を読んでいるレイがいる。

 

「お邪魔?こんな端っこで・・・隠れているの?」

「誰から隠れる?・・・ここは太陽の光も差し込まず、ほどほど観葉植物があって、居心地がいいんだよ」

「ふーん。・・・相席しても、いいかしら?」

「どうした?急に」

「なんかゴタゴタしていて、気が晴れなくてね。・・・かと言ってぼんやりしているのも性に合わないし」

「なんか大変だな。・・・どうぞ。ご自由に」

 レイのテーブルにつく沙織。席に座ると持ってきたコーラを飲み始める。

そんな沙織に、何気なくレイが聞く。

「見たか?ハンモック」

「ええ、ボロボロだったわね」

「あれじゃ全面やり直しだな・・・修理に相当掛かる。長くなりそうだ」

「フランシスから、しばらく休憩してもらうかもって言われた」

「パルテノンと同じ船体爆破。・・・嫌な流れになってきたな。ここも無期延期の停止にならばきゃいいけど」

「フランシスは頑張って続けるって」

「そうは言っても予算はもうないだろ。並行してやってるロケット製造の金を止める訳にはいかない。そうなると何処からか新たに持ってくるしかない」

「ブラジルとか参加国に追加料金を打診してるようだけど、どこもいっぱいいっぱいで追加金なんて無理だと断れているようよ」

「・・・このまま中止の公算が高いな」

「やっぱりそうなるか」

 レイもそのように見てるかと思う沙織、ドーナツを食べ始める。

「・・・何かかが起きている。これは単なる事故ではない。こうなると余計に融資する人間はいなくなる」

 「スタッフで辞める人間が出て来たって、エドナが言ってた。さっきここを去るってジンとケケにも挨拶された」

「船体爆破の死の寸前を経験して、ビビって逃げたか?奴らにとっては『死の恐怖』は相当ハードだっただろうに」

「私だって、死んだマイケルの顔がチラついたわ」

「上等、上等、それぐらいビビりでないと一緒に仕事はできない」

「でも彼らは、自国の事情で呼び戻されるみたい」

「そうだな。イスラエルもブラジルも色々抱えているからな。そして・・・世界中が狂気を帯びて今にも爆発しそうなところばかりだ」

 レイ、読んでいた本をとじて

「なんか酒でも飲みたくなってきたな」

「おごり?」

「まあ、いいだろう。おごってやるよ・・・ビールでいいか?」

 レイ、そういうとカウンターに行ってビールを2缶買ってきて沙織に一つ渡す。

「ありがとう。・・・(封をあけて)出来るだけ早く再開することを祈って乾杯」

「沙織はポジティブだな。こっちは、とりあえず死ななかったことに乾杯」

 二人で、微笑んで乾杯する。

 そしてレイ、数口飲むと、

「それで沙織。気になることがある」

「何?」

 飲む手を止めてレイを見る沙織。

「ジョンの行く先を知らないか?」

「ジョン?・・・ここしばらく見てないわね」

「奴の消息が不明なんだ」

「・・・ジョンもいなくなったの?」

 飲んでるビールをいったんテーブルに起き、話すレイ。

「ジンやケケとは違う・・・ジョンは消えたんだ」

「消えたって・・・そんなはずないじゃない。この前、結婚して今は幸せの真っ盛りじゃないの?消えるはずは・・・」

 首をふるレイ。

「それがどこ探しても見つからないようだ。・・・今回の事故を調査しているスタッフが、システム、整備記録、故障部品発注などに、ジョンのアクセスコードを見つけ、事情を聞ききに近所に住むジョンの家に行ったら、ジョンはおらず、そして驚いたことに家の中の家具も服も装飾品も、何もかも無くなって、空っぽの状態になっていたそうだ」

「え、じゃあ一緒に住んでいた奥さんは?」

「誰もいないそうだ。夫婦ともども行方不明」

「でもそれなら警察やFBIに頼んで・・・」

 再び首を振るレイ。

「もちろん捜査は開始されている。それでFBIによる調査では、何日間もジョンのスマホの通信使用がなく、街中でのジョンのカードの決済がないことがわかった。現在、町中の監視カメラで身体照合装置を使って監視しているが、まったくヒットがない」

「それなら、もう街を出て行って・・・」

「出て行くなら、出て行った姿の映像は残っているはずだよ。それさえもない。・・・突然、足跡も残さず消える。これは普通に生活しているならありえないことだ。不思議なことにジョンの痕跡がこの地球上から消え失せてしまった」

 ことの異常さに気が付く沙織。

「おかしな話ね。・・・でもなんでそこまでしてジョンを探しているの?」

「サポタージュの疑惑さ」

「今回の事故にジョンが関係しているということ?」

 頷くレイ。

「データーアクセスはジョンのID。部品の発注はジョンの部署。酸素流動装置のバルブ交換、電磁制御停止プログラム、船体電池切り替えプログラム。他にもシステム内にも暴走のプログラムまでが組んであった。そしてそこには全てジョンのアクセス記録が残っていた。ゆえに今回のサポタージュは、ジョンが犯人ではないかと疑われている」

「ジョンが、何でそんなことする必要があるの?」

「それは本人に聞かないとわからんよ」

 再びビールを飲むレイ。

どうも沙織はレイの言葉を信じきれない。

レイ、再び沙織に聞く。

「・・・沙織は、身辺調査は受けたか?」

「何のこと?知らないわ」

 プリンを食べ始めた沙織は戸惑う。

「ジョンのことから、ここの人間はパルテノンのシステムを知る元・パルテノン関係者を調査している。・・・今、長引いているいるのはパルテノンから来たメンバーたちを一斉に調べ始めたからだとも言われている」

「なんで?パルテノンなんてもう関係してないじゃない」

 あっけにとられる沙織。

「でも元・パルテノン関係者は、ここにあるパルテノンの機械の知識を持ち、システムに精通しているスタッフなら、容易に細工が出来ることを知っている」

「そんなことして、実際に被害を受けてるのはこっちでしょうに」

 レイ、周りを見回し、誰も他に人がいないことを確認して話し出す。

「ハンモックの偉い人たちの中には、『パルテノンのサポート』を疑っている人もいる。ここで使用し進化した『パルテノンのデーター』を、また再び回収し、次に控える新たなプロジェクトを立ち上げるために、サポートしたんじゃないかってね」

「あ~、陰謀渦巻く宇宙産業ということ?」

「まあな。自分も、なんとなく何かが起きる予感は感じ始めていた。・・・連続のデーターの改ざん、フランシスたちの船体作業、何か腑に落ちない行動が頻繁に起き始めていたからな」

「・・・フランシスの船体作業?レイ、知ってたの?」

「訓練を始める前に、今更、何を工事をしているだと、なんとなく違和感を持って見ていた」

「作業を知っていたらなら、なぜみんなに言わないの?」

「俺たちは何かを学んでいる立場じゃないか。改良やカスタムについては、こちらの範疇じゃない」

「そりゃそうだけと・・・」

 考えてみれば自分も疑惑でいろいろとフィリップと調べたことを思い出す。

「・・・しかしジョンの消息が警察もFBIも、どこにもつかめないというのは不思議だよな。生活の痕跡が突然、消えるなんて、・・・ジョンは殺されてしまったのか?」

「やめてよ。そんな縁起でもないこと。」

 ビールを飲み干すレイ。

「・・・まあ今はそういうことだ。沙織の方で何か判ったことがあったら、こっちにも教えて欲しい」

 そういって立ち上がると、食堂の隅にあるゴミ箱に缶を捨てて出て行くレイ。


 残された沙織、プリンを食べながら考える。

『犯人がジョンだとしたら理由がわからない。3人も爆発で失うというあんな悲惨な事故を、また起こそうとしたのか?・・・誰かに頼まれたのか?現金を掴ませられたか?だがこれは、まぎれもない殺人行為になる事件だ』

 沙織の疑問は頭の中で渦巻く。

でもどうしてもジョンがサボタージュの犯人だとは信じたくない沙織だった。



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