51話 キマイラ
よろしくお願いします。
「役立たず共め! あいつらに、今まで払っていた金は何だったんだ!」
ハマンは、20人もの部下たちが何の成果も上げられないまま倒されたことに腹を立てていた。
「まあいい、ここからが本番だ!」
ハマンはキマイラに向き直り、声を張り上げた。
「奴らを皆殺しにしろ! キマイラ!」
命令を受けたキマイラが、咆哮を上げた。
「グルァァァァッ!」
巨体が地面を蹴り、ココたちに向かって突進してくる。
そのとき、フリンクスの額に小さな氷の粒がぶつかった。
「イテッ!」
「あなた! 何を呆けているの! 死ぬわよ! 気を引き締めなさい!」
マティルダが、威力を抑えた氷魔法を放ったのだ。
額を押さえたフリンクスは、ようやく我に返った。
「は、はい!」
目の前には、キマイラが迫っている。
「《聖域の加護》!」
アーシャが祝福を唱えた。
《夢見る羊》の後方から、まばゆい光が放たれる。
《聖域の加護》は、アンデッドなどの穢れを浄化する祝福だ。だが、強い光を放つ性質を利用し、アーシャは目くらましとして使ったのだ。
「グガッ!」
キマイラは光に目をくらまされ、一時的に動きを止めた。
「ナイス! アーシャ!」
トーニが叫ぶ。
その隙を逃さず、ペネロペが精霊魔法を唱えた。
「《大地の蔓》!」
足元から蔓が伸び、キマイラの脚に絡みつく。
動きを封じられたキマイラに、ココとトーニが斬りかかった。
だが――。
キマイラの尾に生えた蛇の頭が、ムチのようにしなって襲いかかってきた。
「くそっ!」
ココは盾を使って蛇の攻撃の軌道をそらし、2人への直撃を防いだ。
その間に、ペソットが杖を掲げる。
「《火球》!」
放たれた火球がキマイラへ飛んでいく。
しかし、火球は見えない魔法障壁にぶつかり、砕け散った。
「ヤギの頭が魔法を使うわ! 気をつけて!」
マティルダが注意を促す。
キマイラのヤギの頭上に、青白い光が発生した。
次の瞬間、電撃がココとトーニを襲う。
「《魔力障壁》!」
マティルダが素早く魔法を唱えると、2人の前に障壁が展開された。
電撃は障壁に阻まれ、霧散する。
その間に、キマイラの獅子の頭が目くらましから回復していた。
獅子は身体を大きく振り、ペネロペがかけた蔓を引きちぎった。
「グガァァァッ!」
拘束から解放されたキマイラが、再び咆哮を上げる。
ココとトーニは、いったん後方へ下がった。
マティルダが牽制のために《氷柱の槍》を放つ。
だが、氷の槍は見えない壁に阻まれ、粉々に砕け散った。
「アハハ! 子猫と馬鹿にしたわりには、手こずっていますね!」
ハマンは満足そうに笑っていた。
「あのヤギの頭が厄介ね」
マティルダが悔しそうに呟く。
「ジーナの矢で攻撃しますか?」
ココが提案した。
「無理ね。防御魔法に弾かれるわ」
マティルダは即座に却下した。
「キマイラの思考は3つの頭で別々なの。その連携を崩すしかない――」
マティルダが説明している途中、獅子の頭が爪を振り下ろしてきた。
ココとトーニは、すんでのところで飛びのいた。
「ココ、前を頼む。蛇の尻尾は俺が相手にする!」
着地したトーニは、キマイラの背後へ回り込もうと走り出した。
「蛇は毒のブレスを吐くから、気をつけるのよ!」
マティルダが忠告する。
「了解ッス!」
返事をしながら、トーニは蛇の尾へ大剣を叩きつけた。
ガキンッ!
しかし、斬撃は硬い鱗に阻まれ、傷ひとつ負わせられなかった。
「硬いなっ!」
トーニは愚痴をこぼしながらも、素早くキマイラの背後へ回り込んだ。
だが、そこから戦況は膠着状態に陥った。
ココは盾を構え、慎重に攻撃を続けている。しかし、キマイラに致命傷を与えるには至らない。
トーニも蛇の攻撃を避けながら斬りかかっていたが、硬い鱗に阻まれていた。
ペネロペは精霊魔法で動きを封じようと試みる。だが、キマイラは蔓を巧みにかわし、拘束を許さなかった。
マティルダとペソットが放つ魔法攻撃も、ヤギの頭が展開する魔法障壁に阻まれてしまう。
一方、キマイラの魔法攻撃はマティルダが防いでいた。
しかし、このまま戦いが続けば、体力に勝るキマイラに軍配が上がるのは明らかだった。
「いいぞ! いいぞ! 私の実験は成功だ!」
ハマンは、自らの実験結果に酔いしれていた。
自分が戦闘に加わる必要はないと考え、後方から戦いを眺めている。
一方、フリンクスは震えていた。
仲間たちが劣勢に追い込まれつつあることは分かっている。だが、自分ではあの戦いに加わることができない。
正直、怖かった。
死が間近に迫っている。その事実が、フリンクスの心を恐怖で満たしていた。
(怖い……怖い……私は無力だ……)
フリンクスは、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
そんなときだった。
トーニが足を滑らせ、バランスを崩した。
「シャアアアアァ!」
蛇の頭は、その隙を見逃さなかった。
口を大きく開き、毒のブレスを吐き出す。
「うがっ!」
トーニは、毒のブレスをまともに浴びてしまった。
「トーニ!!」
アーシャが悲鳴を上げる。
トーニの身体が、みるみるうちに赤くただれていく。
(熱い……寒い……身体が動かない……ち、力が……)
トーニは剣を落とし、両膝から崩れ落ちた。
「トーニ!!」
前方で戦っていたココも、トーニの異変に気づいて叫んだ。
(意識が……ああ……俺、死ぬのかな……?)
薄れゆく意識の中、トーニは誰かが駆け寄ってくる気配を感じた。
(……あれ? フリンクス?)
フリンクスが、トーニのもとへ駆け出していた。
ありがとうございました。




