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48話 宰相

よろしくお願いいたします。

ドラグネス王国、王城グラン・アルセリア。

国王ユルゲンと宰相カルステンの前に、1人の男が跪いていた。

ユルゲンは太った腹をさすりながら、口を開いた。

「何? ローゼンベルク家の小僧が、ドワーフ族のもとへ向かっていると……」

「はっ! 私の手の者が情報を持ち帰りました」

答えたのは、宮廷魔術師のハマンだった。

「カルステン、どう思う?」

ユルゲンは宰相に意見を求めた。

「……助力を求めに行ったと考えるのが妥当でしょうな」

カルステンはそう答えた。初老を迎えているように見えるが、体つきは引き締まっていた。

「ふむ。うまくいくと思うか?」

「……難しいと思われますが、万が一ということもございます。それに、反乱軍の代表が単独で行動しているのは、絶好の機会かと……」

国王の問いに、宰相は落ち着いた口調で答えた。

「なるほどな……。小僧の手勢は何人ほどだ?」

「はっ! 男爵と冒険者7名です」

ハマンが答えた。

「少ないな……。しかも、冒険者とは……」

ユルゲンは怪訝そうに呟いた。

「ヨームは一緒ではないのか?」

宰相のカルステンが尋ねた。

「ヨームは戦の準備などがあるため、同行しておりません」

ハマンが答えた。

「陽動か?」

ユルゲンは二重顎に手をやり、考え込んだ。

「その可能性はありますな。ドワーフ王国に守備兵を割かせ、本戦に投入できる戦力を少しでも削る作戦かもしれません」

「小癪な手を……」

「反乱軍にはヨームに加え、頭の切れるアンドレア男爵もおります。何らかの策があると考えてよろしいかと……。あえて情報を掴ませている可能性もございますな」

カルステンはそう推測した。

(……私の情報網をバカにしやがって……)

ハマンは心の中で悪態をついた。

「ヨームは分かるが、あの男爵に何ができる!」

ユルゲンはアンドレアを嫌っていた。貴族らしからぬ、あの態度が気に入らないのだ。

「……」

カルステンは、アンドレアの才能を見抜いていた。かつては王に重職を任せるよう進言したことさえある。

だが、アンドレアの貴族らしからぬ態度が災いし、その進言は何度も却下されていた。

「では、小僧も偽物である可能性があるな……。カルステン、どう思う?」

「そこは本人かと思いますな。さすがに、ハマン殿の密偵もそこまで間抜けではないでしょう」

実は、カルステンの密偵もフリンクスがドワーフ王国へ向かっていることを掴んでいた。目的を探っている最中にハマンからの報告があっただけで、情報網の規模も精度も、カルステンの方が数段上だったのだ。

(……当たり前だ! 俺の情報網を何だと思っていやがる!)

そんなことを知らないハマンは、フリンクスが出立したという情報を掴んだだけで有頂天になり、国王への面会を求めてきたのだった。

「小僧は陽動か? それとも、本気でドワーフに助力を求めに行ったのか?」

「おそらく、その両方でしょう。フリンクス男爵が少数の手勢で動いていることは事実です。好機と見るべきでしょうな」

ユルゲンの問いに、カルステンは答えた。

「今のうちに叩ければ、反乱軍の動揺を誘うことができるでしょう」

「ふんっ! あんなちっぽけな反乱軍など、動揺を誘うようなことをせずとも余裕で倒せるわい」

「ですが、犠牲は少ない方がよろしいかと……」

カルステンは国益を第一に考えていた。この男の内政手腕があればこそ、ドラグネス王国は幾度も戦争を起こせるだけの国力を維持できているのだった。

「陛下、我が配下のベルントを向かわせては――」

カルステンが言い終える前に、ハマンが口を挟んだ。

「宰相閣下のお手を煩わせる必要はございません。その任、このハマンにお命じいただければと思います!」

「ハマン殿……。大丈夫でしょうか?」

カルステンは、この宮廷魔術師を嫌っていた。

確かに、魔法の実力は本物だ。だが、どこからか手に入れた魔道具を国王に献上し、今の地位に就いたにすぎない。これといった実績がないのだ。

「まあ、カルステン。ハマンに任せてみようではないか。相手は少数だ。騎兵100人ほどを差し向ければ、問題あるまい」

ユルゲンはハンスを気に入っていた。

(……ヨーム殿もアンドレアも、あえて少人数で向かわせているのだ。騎兵100人で足りるのか……?)

カルステンは慎重に考えていた。

「陛下、騎兵は100人も必要ございません。私の部下20人と、実験で生み出したアレを連れて行けば、問題ないかと存じます」

ハマンが自信たっぷりに提案した。

「おお、あの実験はもう使えるのか?」

「はい。問題ございません。今後の戦に備えた試運転とお考えいただければ……」

「よし、ハマン。お前に任せよう!」

「はっ! ご期待にお応えいたします!」

ユルゲンが決定を下すと、ハマンは深々と頭を下げた。

「しかし、陛下――」

「もうよい! カルステン! 決まったことだ!」

カルステンが反対しようとしたが、ユルゲンに一蹴されてしまった。

その様子を見ていたハマンの顔には、笑みが浮かんでいた。



その頃――。

《夢見る羊》は、フリンクスと共にドワーフ王国のもとへ向かっていた。

あの話し合いのあと、すぐに用事を済ませたフリンクスが戻ってきた。

フリンクスには、ドワーフ族との交渉を自分自身で成功させなければならないことを説明した。彼は迷うことなく承諾した。

ただし、マティルダの存在や、彼女の魔法を使うことは伏せておいた。


ドワーフ族が住むガルドラン山脈は、ヴァイゼンの町から北西に位置している。ドラグネス王国とグランヴァルト帝国にまたがる山脈だ。

普通に進めば、片道約20日の旅となる。

だが、北側のルートを西へ進む必要がある。その道は、帝国との戦争から撤退するドラグネス王国軍などが行き来しているため、彼らに見つからないよう注意しなければならない。そのため、予定よりも日数がかかりそうだった。

もちろん、魔物の襲撃にも備える必要がある。周囲の警戒を担うジーナの負担は、かなり大きくなっていた。


《黄金の麦》とドラグネス王国が直接対決する日は、刻一刻と迫っていた。

《黄金の麦》に参加する若い貴族の中には、帝国との戦いで王都の守りは手薄になっているのだから、今こそ好機だと主張する者までいた。今にも戦いを始めかねない勢いだった。

そんな彼らを説得して回っているのが、ヨームだった。

ヨームはローゼンベルク家の家臣でありながら、その剣術の腕は国内でも有名だった。

かつて剣術道場を構えていたこともあり、各貴族の当主や、その家臣たちの中にはヨームの教えを受けた者が少なくない。そのため、彼の言葉を無視することはできなかった。

だが、それでも抑え込めるのは30日が限度だろうと、フリンクスは話していた。

一方、作戦立案者のアンドレアはというと、

「人徳もないし、剣もダメ、魔法も使えない。だから、俺はここで待ってるわ。頑張れ!」

そう言い放ち、居残ることになった。


フリンクスは冒険者風の格好をしていた。

そして、ロバのジークは2つの小さな樽を運んでいた。

フリンクスが、酒好きのドワーフには酒の土産がいいと言い出し、特産の麦酒(エール)を用意したのだ。

もちろん、ジークは嫌がった。だが、アーシャの言うことには逆らえず、嫌々ながら樽を運んでいた。

ココとトーニは、フリンクスを挟むようにして歩いていた。

「……この護衛の依頼は、ココさんから言い出したとヨームに聞きました……」

フリンクスがココに話しかけた。

「……まあ、成り行きで……」

2人の関係は、まだぎこちないままだった。

「でも、他の家臣たちは戦の準備で忙しいので、言い出していただいて本当にありがとうございます」

「いやいや……感謝なんて、お金目当てですので……」

ココは本音を言えなかった。

「素直じゃないねー。ウチのリーダーは、結構フリンクスのことを気に入ってるんだぜ!」

トーニが話に割り込んできた。

「お前は! うるさい! 黙れ……」

ココはトーニの口を塞ごうとした。まるで子供がじゃれ合っているかのようだった。

「集中!!」

ジーナの怒りの声が飛んできた。負担が大きいジーナは、機嫌が悪かった。

「はい! すいません!!」

ココとトーニは慌てて離れた。

「アハハ! やっぱり皆さんといると楽しいですね」

フリンクスはその光景を見て笑っていた。

《夢見る羊》の一行は、王都で渦巻く陰謀など知る由もなく、こうして旅を続けていた。

ありがとうございました。

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