47話 面白い男
よろしくお願いいたします。
「数万は誇張ね。数千ってところかしら」
マティルダは、当然のように話し始めた。
「魔女様!!」
ココは、突然姿を現したマティルダに驚いた。
「なに?」
「す、姿を現しちゃ……」
「ああ、この方が早いでしょ? 何か問題でも?」
マティルダは、何とも思っていない様子だった。
「待て! 待て! まーて……」
アンドレアが慌てて止めに入る。
「なに?」
マティルダは、ココと同じ質問をした。
「『なに?』じゃないでしょ!」
「その出で立ちからして、【黒の魔女】マティルダかい?」
アンドレアに動揺した様子はなかった。
そのとき――
「お前!! ふざけんな! 魔女様の名前を呼び捨てにしやがって!!」
ココが突然、怒り出した。
「うおっ!! な、なんだよ!」
ココの剣幕に、さすがのアンドレアも動揺する。
「俺ですら、名前を呼び捨てにしたことはないんだぞ!」
ものすごい剣幕だった。
「あーー! もう、うるさい!」
マティルダが怒鳴った。
「コイツ、魔女様のことを呼び捨てに!」
「別に気にしないわ!」
「で、ですが……」
「う・る・さ・い!!」
「うっ!」
マティルダの一喝に、ココは黙り込んだ。
「アンドレアさん、魔女様のことは『さん』か『様』を付けて呼んでもらっていいか? コイツがうるさいんだよ……」
いつの間にかココを羽交い締めにしていたトーニが言った。
「ウハハ! いろいろ面白いな!」
アンドレアは手を叩いて、大喜びしていた。
「それにしても、大物の登場だな……」
「へえ……あなたは私を見ても動じないのね」
アンドレアの態度に、マティルダは感心した。
「まあ、驚き4割、好奇心6割ってところですよ!」
「……好奇心は大事よ。あなた、本当に面白いわね」
マティルダは、アンドレアに自分と似たものを感じていた。
「で……爺さん、うちの大将はこのことを知っているのか?」
「知りません」
アンドレアの問いに、ヨームは端的に答えた。
「正解だな……。うちの大将は、黒の魔女が大嫌いだからな……」
「こうなっている経緯を説明した方がよろしいですかな?」
ヨームが尋ねた。
「いや、いいや。後で聞くよ。今は、こうなっていることの方が大事だからね!」
アンドレアは、ヨームにそう答えた。
「それよりも、もっと簡単に勝つ方法を思いついた!」
アンドレアは、ポンと手を叩いた。
「魔女さんは、7日間も火球を降り注がせることができるんですよね? それをやっちゃえば、簡単に勝てる!」
「それは嘘よ! 本調子なら3日間くらいは可能だけど、今は事情があって本調子にはほど遠いの。だから無理ね!」
マティルダは、アンドレアの作戦を即座に却下した。
「ちぇっ! 簡単だったのに……」
アンドレアは残念そうに舌打ちした。
「数千人を吹き飛ばすことは任せてちょうだい。それで、2つ目の問題は?」
「……魔女さん、何だと思う?」
アンドレアは、マティルダを試すように尋ねた。
「……吹き飛ばした後に、とどめを刺したい。だけど、戦力が足りない……そんなところかしら?」
「ウハッ、正解!」
「でも、あなたには戦力の心当たりがある」
「そう……。でも、それが難しいんだよね……」
2人は、互いの考えを探り合うように話していた。
「魔女さん、何だと思う?」
アンドレアは、先ほどと同じ質問を繰り返した。
「……ドワーフ族かしら?」
「ドワーフ!」
マティルダの答えに、ペネロペが反応した。
そんなペネロペを見て、アンドレアが答える。
「……正解! さすが、ドワーフに愛された娘だ!」
「へえ……よく知っているわね、そんなこと」
マティルダが感心したように言った。
「ドラグネス王国の書庫で見たんだよ」
「昔の話よ」
マティルダとアンドレアの会話は続いた。
「つまり、ドワーフを仲間に引き入れたいと……」
マティルダが言った。
「そうしたいね……。そこのエルフさんは嫌そうだけど……」
「ああ、エルフ族とドワーフ族は仲が悪いんだっけ?」
アンドレアとマティルダに話を振られ、ペネロペは顔をしかめた。
「頑固で無神経で欲深く、無骨な種族は嫌いなだけよ……」
「エルフさん、ドワーフに会ったことは?」
アンドレアが尋ねた。
「ないわよ!」
「ウハッ! すごい偏見だな!」
ペネロペは、ますます嫌そうな顔をした。
「今はそんな話、どうでもいいわ」
マティルダが話を戻した。
「ドワーフとは、まだ付き合いがあるの?」
「魔女さんの父上の時代が最後だね。今は、数人のドワーフが個人的に装飾品を売りに来るくらいさ。人間には、さほど興味がないみたいだね」
マティルダの問いに、アンドレアが答えた。
「じゃあ、増援を頼むなんて無理じゃねーか!」
トーニが言った。
「まあ、普通の人間が行っても駄目だね」
アンドレアは、意味ありげに言った。
「……若ですか?」
ヨームが静かに尋ねた。
「そう! ローゼンベルク家の大将が行けば、話くらいは聞いてくれるかもしれないな?」
「……フリンクスさんが……」
アンドレアの言葉に、ココが呟いた。
「魔女さんの父上は、ドワーフ族に自治権を認め、同盟国として扱っていたらしい」
「ですが、現当主が行ったからといって、効果があるのでしょうか? 500年前の盟約ですよね?」
ペネロペがアンドレアに尋ねた。
「それは、何とも言えないね」
アンドレアは笑って答えた。
「無責任ね……」
ジーナが額を押さえながら言った。
「でもね、さっきエルフさん……名前は?」
「ペネロペです」
「ペネロペさんが言ったでしょ? ドワーフ族は頑固で無神経で欲深く、無骨だって。頑固な奴ほど、一度結んだ約束は忘れない。それに、欲深い! 条件さえよければ、交渉に応じる可能性は高いと思うね」
アンドレアは、ドワーフ族の短所を逆手に取ることを考えていた。
「良い条件とは?」
ペソットが尋ねた。
「500年間、ローゼンベルク家以外とは盟約を交わしていない。ドラグネス王国だって交渉したことがある。交易でドワーフ族の装飾品をかなりの高値で買い取る条件を提示しても、駄目だったと聞いたことがある。だから、金じゃないんだよ」
アンドレアは、ドラグネス王国の歴史にも詳しかった。
「お金以外に何があるのよ……?」
お金が一番のジーナには、理解できない話だった。
「そこは、ドワーフに愛された娘が知っているさ!」
アンドレアは、マティルダに目を向けた。
「……正直、分からないわ。私は小さかったから……お父様が何を条件に交渉したのかまでは知らないのよ」
マティルダは、幼い頃に父と一緒にドワーフの国を訪れたことがあった。しかし、当時は盟約の内容など気にも留めていなかった。
「うーん……困ったな……」
そう口にするアンドレアだったが、困っているようには見えなかった。
「ですが、ドワーフ族の力を借りる必要があるのは確かです!」
ココが力強く言った。
「まずは、フリンクスさんにドワーフの国へ行ってもらう必要があります!」
ココはヨームを見つめた。
「提案があります。フリンクスさんの護衛を、《夢見る羊》に依頼していただけませんか?」
その言葉に、ヨームの表情がわずかに変わった。
アンドレアも、先ほどまでの軽薄な笑みを消し、ココを見つめる。
「……なるほど。そう来たか」
「何か問題があるのですか?」
ココが尋ねると、アンドレアは口元を歪めた。
「問題? そりゃあ、あるさ。何しろ、俺たちは国を敵に回しているんだからね」
アンドレアは、楽しそうに笑った。
「それでも行くのかい?」
「もちろんです!」
ココは即答した。
ヨームは、しばらくココを見つめていた。
やがて、静かに口を開く。
「……若に、相談せねばなりませんな」
その一言で、場の空気が変わった。
ありがとうございました。




