46話 策
よろしくお願いいたします。
王国と帝国が最初から手を組み、反乱勢力をあぶり出すために戦争を演じていたという。
「やはり、戦いを止めるべきでは?」
ココが尋ねた。
「もう無理だね」
アンドレアは、あっさりと首を横に振った。
「俺たちは、すでに正体を知られてしまった。今さら何もしなくても、いずれ捕まる」
そう言って、アンドレアは親指で自分の首を横になぞる仕草をした。
「そして、そのまま首を刎ねられるってわけだ」
冗談めかして笑うアンドレアだったが、その目には笑みがなかった。
「なら、戦って死のうと思うのが貴族の美学さ……馬鹿らしいがね」
「戦力差は、どの程度なのですか?」
ペソットが尋ねた。
「うーん……帝国側に1万。王国内に残っている兵も含めれば、全部で2万人といったところかな」
アンドレアは、ぶつぶつと呟きながら計算を始めた。
「対して、こちらの兵力は?」
ジーナが尋ねる。
「俺たちは3千人ってところだね。笑えるだろ?」
アンドレアは、まるで他人事のように答えた。
「でもよ、アレクスト王国のご先祖様は、十万の兵を五千人で破ったって有名だぜ! やってみないと分からないんじゃないのか?」
トーニが口にしたのは、アレクスト王国の初代国王が、かつて大国を少数の兵で打ち破ったという有名な逸話だった。
アレクスト王国の国民なら、誰もが知っている話である。
「ああ、若者は夢があっていいね! 《ネーヴァルの戦い》だろ?」
アンドレアは、にやりと笑った。
「その手の話は、かなり盛られているんだよ。その方が『うちの王様はすごい』って話になるだろ? それに、吟遊詩人たちも物語を面白くするために脚色する」
夢を壊すようなことを、アンドレアは平然と言ってのけた。
「あの話は嘘なのか?」
「いや、真実が半分、嘘が半分ってところかな」
「じゃあ……やっぱり、やってみないと分からないじゃねえか!」
トーニは食い下がった。
「《魔法戦争》の後、群雄割拠の時代に、少数の兵で大軍を破った戦いがあったのは事実だ」
アンドレアは、そこで一度言葉を切った。
「だがな、その戦いが珍しかったからこそ、有名になったんだよ。歴史に残らなかった戦いなら、数千……いや、数万はある。名もなき戦いってやつだ。そのほとんどは、大軍が少数の軍勢を打ち破ったものさ」
アンドレアは、トーニをまっすぐ見つめた。
「今回の戦いも、名もなき戦いになるのだよ、若者!」
「じゃあ、どうするんだよ……」
トーニは悔しそうに拳を握った。
「戦って死ぬか、国外逃亡かな?」
アンドレアは肩をすくめた。
「ジーナさん、俺と一緒にアレクスト王国に逃げてくれないかな?」
「お断りよ! 一文無しの男爵なんて、何の魅力もないわ」
アンドレアの誘いを、ジーナはあっさりと断った。
「戦に勝って、政権を奪回して宰相にでもなったら考えてあげるわ」
ジーナが冗談めかして言う。
「……ああ、駄目か。俺は宰相になる気なんてないんだよ……」
アンドレアは、ため息交じりに答えた。
「なぜ?」
ジーナが尋ねた。
「新しい国家ができるとき、有能な家臣はほとんど殺されるんだよ。新しい国王が嫉妬するからね。政権交代の後は、報酬をもらって、さっさと隠居するつもりさ」
「フリンクスさんは、そんな人じゃない!」
ココは、思わず声を荒らげた。
その様子を、ヨームは黙って見つめていた。
「……まだ、フリンクスが王になると決まったわけではないんだが……」
アンドレアは苦笑した。
「まあ、大将なら大丈夫かもしれないけどな。だが、人間は権力を持つと変わるものだ」
そして、言葉を続けた。
「うちの大将は、確かに王の器だ。だが、二代目や周囲の人間が、有能な者に疑心暗鬼を抱くこともある。俺は嫌だね。長生きしたいんだよ」
アンドレアは、まだ見ぬ未来を想像してうんざりしたように肩をすくめた。
「なんだか、いつでも宰相くらいにはなれるような口ぶりね」
ジーナが面白がって言う。
「なる気になれば、なれるさ」
アンドレアは、事もなげに答えた。
「戦に勝てれば、の話でしょ?」
ジーナが、すかさず釘を刺した。
「俺の策を使えば、勝てる……かも?」
アンドレアが、思いがけないことを口にした。
「勝てる見込みがあるのですか?」
ココが、思わず尋ねる。
「あっ、いや……なしなし。机上の空論だ。忘れてくれ」
アンドレアは慌てて否定した。
「興味がありますな。話だけでも聞かせていただけませんか? 現状は、藁にもすがりたい状況ですので……」
ヨームが静かに言った。
「……爺さんまで……」
アンドレアは頭を抱えた。
「……いいか? 問題は二つある」
渋々、アンドレアは話し始めた。
「一つ目は、数千人規模の敵を一度に吹き飛ばしたいということだ。1回でいい!」
「数千人を吹き飛ばす……それは可能なのですか?」
ペソットが尋ねた。
「穴を掘って、そこに魔素をためる。それから蓋をして隠し、敵が近くを通ったところで魔法によって爆破する。昔、この作戦が使われた記録がある」
「実際に使われた作戦なのですね。それなら――」
「いや、その記録は防衛戦でのものだ。敵の配置がある程度分かっていたから、あらかじめ罠を仕掛けられた。今回は、どこが戦場になるか分からない。準備するのは難しい」
アンドレアは、さらに付け加えた。
「それに、魔素をためる魔道具がない!」
お手上げだと言わんばかりに、両手を上げる。
「なんだよ……期待させやがって!」
トーニが吐き捨てるように言った。
「悪かったね。策とも呼べない、お粗末な案なんだ。ワハハッ!」
アンドレアは、なぜか楽しそうに笑った。
「そう、昔……古代魔法王国の時代には、そんな魔法があったらしいんだよ。数千、いや、数万の人間を吹き飛ばす魔法が……。それさえあれば……」
アンドレアは両手を上げたまま、神に願うように呟いた。
「その魔法なら、あるわよ」
不意に声が響いた。
姿を消していたマティルダが、そこに姿を現していた。
ありがとうございました。




