40話 何者
よろしくお願いいたします。
《夢見る羊》の一行は、夜通し移動してきたため、仮眠を取ることにした。
ペネロペの精霊魔法によって眠りについていたココが、先に見張りを務めることになった。
また、ここまで運ばれてきた際に気を失っていたフリンクスも、「眠れそうにない」と言って見張りを申し出た。
最初は、依頼主に見張りをさせるわけにはいかないと断ったココだったが、フリンクスが「どうせ眠れないから」と言うので、彼に見張りを頼むことにした。
こうして、ココとフリンクスの2人で見張りをすることになった。
見張りの間、2人の間には、なんとも気まずい空気が流れ続けていた。
仮眠を終えた一行は、洞窟を後にした。
目的地は、ドラグネス王国の東にあるヴァイゼンの町。徒歩で10日ほどの距離だった。
道筋はフリンクスから聞いている。
先頭はジーナが務め、その後に一行が続いた。
フリンクスは鎧を脱ぎ、《夢見る羊》のメンバーに紛れている。
脱いだ鎧や盾には布を巻き、ジークに運ばせていた。ジークはかなり嫌がったが、アーシャに頼まれ、渋々ながらも運んでくれている。
トーニとフリンクスは、ココが激高した一件の後、一緒に外の空気を吸いに行ってから、すっかり仲良くなっていた。
今も2人は並んで歩き、楽しそうに話をしている。
ココはマティルダと念話で話をした。
『魔女様、大丈夫ですか?』
ココはマティルダのことが心配だった。
『ええ、大丈夫よ』
『500年前の話だから、家族がもういないことは分かっていたから……』
姿を消しているため、マティルダの表情は分からない。だが、その声は寂しそうだった。
『お父様は、魔法使いとしては今ひとつだったの……。それでも、領民や領地を守るために、自ら戦場へ赴いたなんて……お父様らしいわ』
『立派です』
ココは心からそう思った。
『叔父様もいたのですね?』
『ええ……トーマス叔父様ね。お父様と違って、魔法使いとしては優秀で、お父様の代理として、よく戦場に赴いていたわ』
『私を可愛がってくれたわ……。私の魔法の師匠と言ってもいいわね』
『へえ、魔女様の師匠なんだ』
『師匠といっても、小さい頃の話よ。私、すぐに王都魔法学院へ行ってしまったから。でも、叔父様は王都に来たときは、必ず私のところへ来てくれたわ。いつも珍しい魔導書や魔道具をお土産に持ってきてくれて……』
『叔父様も戦死していたとは、思わなかった……』
『……でも、お兄さん2人のどちらかの存在は、フリンクスさんが言っていましたね』
重苦しい話題から意識をそらすように、ココが話を変えた。
『ええ、マルコ兄様かハンス兄様のどちらかね……』
『フリンクスさんの家臣の方から、お母様やお兄様たちの話が聞けるといいですね』
ココは元気づけるように、明るく振る舞った。
『ええ……』
だが、マティルダの心には、知りたいという気持ちと、これ以上は知りたくないという気持ちが渦巻いていた。
『でも、話が聞けたら、早めにこの国を出ましょう! 魔女様のためにも、ここに長居するのはよくないですから!』
ココは、いまだにフリンクスの言葉に怒りを感じていた。
『……ありがとう……』
マティルダは、かすれるような声で礼を言った。
ココがあそこまで激高したことには驚いた。だが、冷静になって考えると、嬉しかった。
『はい? 何か言いました?』
『……何も言ってないわ! お母様たちの情報が分かったら、とっとと出ましょう! それには賛成だわ!』
マティルダも、ココのためにもこの国に留まるべきではないと思い始めていた。
それから3日が経った。
旅は順調だった。1度だけ、小規模なゴブリンの群れと遭遇して戦闘になった程度で、フリンクスを追う者たちの姿もなかった。
野営の後片付けを終え、少し歩き始めたときだった。
遠くに砂塵が見えた。
「騎馬が数頭、こっちに来るわ」
ジーナが言った。
「フリンクスさんの顔を知っている人がいるかもしれません。あの茂みに隠れていてください」
ココが指示を出した。
全員が隠れると不自然になると考え、フリンクスだけを茂みに隠すことにした。
やがて、ドラグネス王国の騎馬が近づいてきた。
「そこの集団、止まれ!」
騎士の1人が叫び、こちらへ近づいてくる。
「どこまで行く?」
騎士が尋ねた。
他の4騎は、少し離れた場所で様子をうかがっている。
「王都アルセリアまでです」
ジーナは通行証を見せながら答えた。
「アレクスト王国からか……目的は?」
「はい。光の神アナの巡礼の旅で、王都の教会へ向かうところです」
騎士はアーシャに目を向けた。
アーシャは黙ってお辞儀をした。
「だいぶ道がそれているが……」
「そうなんですか? 土地勘がないもので……」
「ふんっ! だが、王都へは入れないぞ!」
「えっ! そうなんですか? なぜですか?」
ジーナは知らないふりをして、上目遣いで尋ねた。
女性に話しかけられて気をよくした騎士は、他の騎士たちに聞こえないよう、小声で答えた。
「内乱が勃発している。だから、王都への出入りは厳しくなっているんだ」
「そうなんですか! どうしたらよろしいでしょうか?」
「王都の教会は諦めろ。アレクスト王国に戻るか、サハリエル王国の教会に向かうといいだろう」
騎士はジーナに親切に教えてくれた。
「ご丁寧にありがとうございます。皆と話し合って決めたいと思います」
「ああ、そうするといい。道中、気をつけるように。では」
「はい、ありがとうございました」
ジーナが頭を下げ、騎士が去ろうとした、そのときだった。
離れていた騎士の1人が近づいてきた。
他の騎士よりも立派な鎧を着ている。そして、何より体が大きいのが特徴的だった。
「少し待て……」
男はココを見ていた。
そして、フリンクスが隠れている茂みに目をやったが、さほど興味を示すこともなく、すぐにココへ視線を戻した。
「何でしょうか……?」
ジーナが尋ねた。
「……」
男はジーナを無視して、黙っている。
「何か問題でも……?」
ジーナが再び問いかけた。
男はやはりジーナを無視し、ココに話しかけた。
「お前は、何者なんだ?」
ありがとうございました。




