35話 入国
よろしくお願いいたします。
《夢見る羊》は西の防衛都市フェルガンの冒険者ギルドに、王都からここまでに倒した魔物の牙などを提出し、討伐報酬を受け取った。
ジークがいるので、馬小屋のある宿を探し、そこで一泊した。
翌日、旅で消耗した物資などを補充し、フェルガンを後にした。
ドラグネス王国方面の城門を出ようとしたとき、城門の兵士に呼び止められた。
「おい、止まれ! こっち側はドラグネス王国の方向だぞ?」
ドラグネス王国方面には、もう村や町はなかった。ドラグネス王国が戦争中のため、食料や武器などを積んだ商隊が通るくらいだった。
《夢見る羊》一行は、どう見ても商人には見えない。
「はい、神官様の巡礼のため、ドラグネス王国に向かいます」
ココが兵士に答えた。
《光の神アナ》に仕える神官たちは、全国各地の教会を巡り、信仰を深める旅をする者も珍しくはなかった。
「通行証はあるか?」
「はい、ここに」
ココは兵士に通行証を渡した。
「……リッピ子爵の通行証だな……だが、神官1人に対して物々しいな……」
通常、数名の神官が巡礼のために集まり、聖騎士などが護衛について旅をするのが普通だった。
「神官様がリッピ子爵の関係者でして……私たちはリッピ子爵の私兵なんです」
ココは、ベントーラと打ち合わせをした内容を伝えた。
「……そ、そうか。通行してよし!」
兵士は貴族の関係者と聞き、面倒ごとは避けたいと言わんばかりに通行を許可した。
「ありがとうございます」
ココは通行証を受け取り、城門を後にした。
「なんか、悪いことをしてるみたいだな……」
トーニが不満を漏らした。
「そうだな。嘘をつくのは、やはり気が引けるな……」
ココは疲れた顔をした。
「あと、関所でも同じようなことをするんでしょ?」
首を横に向け、先頭を歩くジーナが言った。
「そうなんだよな……」
「ココさん、頑張ってくださいね」
ペネロペが応援してくれた。
「はい……」
「ぜんぜん、大したことじゃないわよ! ちょっとの嘘ぐらい!」
マティルダは厳しかった。
「頑張ります……」
「確か、1日程度で関所なんですよね?」
ペソットが確認した。
「そう、この街道を真っ直ぐ進んで、1日ってところね」
ジーナが答えた。
ネグロからの一言が身に染みたようだ。
消耗品の買い出しのときなども、ジーナは1人で情報収集をしていた。
ジーナも《紅蓮の牙》のネグロとの大きな差を感じていた。
1日が経過し、関所に差しかかった。
関所は両国で管理しており、アレクスト王国とドラグネス王国の兵士が守っていた。
国同士の関係とは違い、兵士たちは仲がよさそうだった。
《夢見る羊》はフェルガンの城門と同じようなやり取りを済ませると、両国の兵士に銀貨3枚ずつを渡した。
兵士たちは何事もなかったかのように銀貨をしまい、通行を許可した。
中央から離れた場所では、どこの兵士も似たようなものだった。
不快な思いをしながらも、《夢見る羊》はドラグネス王国に入国した。
「もう、最悪。あの兵士たち、こっちの身体をじろじろ見て……うーん、気持ち悪い」
ジーナが関所を過ぎてすぐに吐き捨てた。
「胸糞悪いな、本当に……」
トーニも不快そうに顔をしかめた。
「だが、ジーナが仕入れた情報どおりだったから、すんなり入国できたな」
ココがジーナを労った。
「ま、まあね……」
ジーナは少し照れくさそうだった。
「魔女様の実家は、王都アルセリアでよろしいのですね?」
ペソットが確認した。
「そう、お父様が治めていた大きな町があったの。その町がそのまま王都になったと思うわ」
マティルダが昔の景色を思い出しながら語った。
「……王都アルセリアには《光の神アナ》様の教会があると聞いています。巡礼ということで説明できるので、大丈夫かと思います」
アーシャがジークの手綱を引きながら言った。
「もう少し詳しい地図が欲しいですね……」
ペネロペがアレクスト王国で用意した地図を見ながら言った。
その地図には、王都や大きな町、大きな川などしか書かれていなかった。
「他国の人間である我には、入手するのは難しいでしょうね……。詳細な地図は国家機密ですから……」
ペソットが言った。
「あ、本当だ! 道や橋なんかも書かれていないぜ!」
トーニが地図をのぞき込んだ。
「戦争中に道や橋の場所を知られたらまずいでしょう? だから書いていないんです。まあ、アレクスト王国の中央なら、それなりの地図は持っているとは思いますが……」
博識のペソットが説明した。
「魔女様、やはり500年前とは大分違いますか?」
ココが駄目もとで聞いてみた。
「多分、大丈夫だと思うわ。時が経っても人の流れはそう変わらない。人の流れは道だから、王都周辺なら私の記憶で行けると思うわ」
こちらも本好きで博識なマティルダが答えた。
「おお……流石、魔女様! 後でこの地図に書き込みましょう!」
ココが素直に褒めた。
「こ、こんなことは当たり前よ!」
「……」
その2人の様子を面白くなさそうに見ているペネロペがいた。
その後ろでは、3人の様子を目を輝かせて見ているジーナがいた。
「では、この関所から西へ向かって進みましょう」
ココが指示を出した。
その後、1日歩いたが、村の1つもなかった。
日が沈んできたので、野営をすることにした。
皆で夕食の準備をした。移動中、トーニが弓で鳥を仕留め、ペネロペは食べられる山菜やキノコなどを採っていた。
「流石、森の住人エルフですね……こんなに沢山!」
ココがペネロペを褒めた。
「こんなこと、朝飯前ですよ」
その2人の様子を面白くなさそうに見ているマティルダがいた。
食事の準備をしながら、そんな3人を目を輝かせて見ているジーナがいた。
「なあ、アーシャ。俺も褒めてくれよ……」
鳥を仕留めたことを誰にも褒めてもらえないトーニが、アーシャに近づいた。
「イテッ!」
アーシャの近くで草を食べていたジークが、トーニに噛みついた。
「こら! ジーク!」
「誰か俺を褒めてくれーーー!!」
アーシャはジークを叱り、トーニは叫んでいた。
そして、黙々と食事の準備をするペソットの姿があった。
食事も終わり、交代で就寝することになった。
ココとアーシャが見張りの当番だった。
「魔女様、すいません。いつも見張りもしてもらって……」
ココは感謝を伝えた。
「別に……大丈夫よ。肉体がないから寝なくてもいいし……」
マティルダは精神体なので、肉体的な疲労はない。
マティルダがココの体に憑依してから、夜の魔物の夜襲はなくなった。
マティルダが秘密裏に夜襲に対応したことも何度かあった。
「でも、お姉ちゃんは精神的には疲れないの?」
アーシャは心配そうだった。
「たまに昼間に……そうね、寝る感じって言ったらいいのかしら。この人以外の呼びかけ以外を完全に閉じているときがあるの。そのときに休んでいるから大丈夫よ」
アーシャが言うとおり、精神的に休む必要はあった。マティルダはその時間が嫌だった。そのまま目覚めず、このまま消えてしまうのではないかと不安だった。
唯一の救いは、ココとのつながりだけだった。
「そっか、良かった……」
アーシャは、そばで横になるジークを撫でながら言った。
「あっ! だから俺以外の人が話しかけても、姿を消して無視してたんですね」
ココが言った。
「皆、魔女様は機嫌が悪いのかと思っていますよ」
「えっ!」
「誰もいないときに姿を消して黙っていると、皆、魔女様は機嫌が悪いと思って話しかけないのが定着してますよ」
「……私もそう思っていました……」
アーシャも同意した。
「なんか私、感じ悪くない? ……皆に説明した方がいいわね……」
「そうですね。皆に説明しましょう。心象が悪いですからね」
マティルダが焦り、ココが笑顔で答えた。
そんな2人を見ながら、アーシャが呟いた。
「何か家族みたいですね、わたしたち」
ニッコリと笑った。
「や、やっぱり、そう思うか、アーシャ!」
ココは大喜びだ。
「ア、アーシャ、な、何を言っているの。この男とはそんなんじゃないから!」
マティルダは慌てた。
「ウフフ……」
アーシャは笑った。
そんな会話をしていると、鉄と鉄がぶつかり合う高い音がした。
近くで剣を交え、戦闘が行われているようだ。
ココは急いで焚き火の火を消した。
「アーシャ、皆を急いで起こしてくれ!」
ココが指示を出すと、アーシャは頷いた。
「先に行く! 魔女様、お願いします」
「わかったわ」
ココは、剣戟の音がする方向へ走り出した。
ありがとうございました。




