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33/49

33話 好み

よろしくお願いいたします。

「どうやら我々は、知らず知らずのうちにペネロペ嬢の自由の翼を狭めていたらしい。チョコ君たちの危険な旅の話を聞いて、心を奪われたようだ……」

ベントーラが格好をつけて言った。

「素敵よ、ベントーラ」

ミカエラの様子が変だ。

「どうかな? チョコ君?」

「ど、どうと言われましても……本人の意思なのですか? 元気がないようですが……」

ココは、うつむいてブツブツと何かを呟いているペネロペを見ていた。

「……どうせ、私の胸は小さい……私の美貌が……」

聞き取れない言葉を、瞬きもせず、呪文のように呟き続けている。

ペネロペの様子を見て、ココは思わず口を開いた。

「ベントーラさん! ペネロペさんに何か酷いことをしました!? 喧嘩別れじゃないですよね!?」

「か、勘違いしないでくれよ……円満に話し合った結果だ」

「じゃあ、何でペネロペさんはこんなに落ち込んでいるんですか!?」

「ん?……なんでだ? ミカエラ、わかる?」

ベントーラには、ペネロペにセクハラ発言をした自覚がない。

「えー? わかんなーい」

ミカエラは考える気すらなかった。

「ペネロペさん」

ココが呼ぶ。

「ブツブツ……」

ペネロペは反応しない。

「ペネロペさん!」

ココが叫ぶ。

「ブツブツ……」

ペネロペは反応しない。

「ペ・ネ・ロ・ペさん!!」

ココが大声で叫んだ。

「!?……ココさん!? あれ?」

ペネロペは、初めてココがいることに気づいた。

「ペネロペさん、確認ですが、《紅蓮の牙》を抜けることは、皆さんも納得しているんですよね?」

ココが心配そうに尋ねた。

「あ、はい! 快く送り出してくれました。円満です!」

「何か酷いことをされたとか、喧嘩別れしたわけじゃないんですね?」

「酷いこと……ブツ……」

ペネロペの表情が変わり、再びうつろな目で呟き始めた。

「ペネロペさん!」

「あっ! 大丈夫です! 本当に大丈夫です!」

ペネロペは慌てて取り繕った。

「情緒不安定じゃない、この子……」

ジーナが呟いた。

「あ、あの、精神安定の祝福を唱えましょうか?」

アーシャが心配そうに尋ねた。

「だ、大丈夫です。本当に大丈夫です」

ココは少し困った顔をしながらも、改めてペネロペに向き直った。

「……それで、ペネロペさん。俺たちと一緒に旅をしたい、というのは本当ですか?」

「はい。皆さんの旅に同行させていただきたいと思っています」

「ですが、この前のようなことがまた起こるかもしれません。これから先、もっと危険なことに巻き込まれる可能性もあります」

謎の男2人に襲撃されたときのことだ。

「……覚悟の上です!」

ペネロペは、ココの目をまっすぐに見つめた。

「ですが……」

ココはためらった。自分とマティルダのために、これ以上、誰かを巻き込んでいいのだろうか。


ペネロペは、少しだけ視線を落とした。

「私はエルフです。人間よりも、ずっと長い時を生きます」

静かに言葉を続ける。

「でも、だからこそ……数百年もの間、森の中だけで暮らすことが、どうしても我慢できなかったんです」

ペネロペは顔を上げ、ココたちを見つめた。

「森を飛び出して、王都で暮らすようになりました。知らなかったものを見て、知らなかった人たちと出会って……たくさんの経験をしました。最初は、それだけで十分満足していたんです」

そこで、ペネロペは少し言葉を切った。

「でも……いつからでしょう。王都での暮らしに慣れてくると、また外の世界を見てみたいと思うようになったんです」

彼女は、困ったように微笑んだ。

「そんなときに、危険を承知で大陸を横断しようとしている《夢見る羊》の話を聞きました。皆さんの旅の話を聞いているうちに、私も一緒に行ってみたいと思ったんです」

「私は、まだ知らない世界を見てみたい。新しいものに触れて、もっといろいろな経験をしてみたいんです……」

ペネロペは少し恥ずかしそうに目を伏せた。

「……わがままな女ですよね」

「足を引っ張るようなことはしません。どうか、一緒に旅をさせてください。お願いします」


「女性がここまで言ったんだ。断るのは無粋だ」

ベントーラが言った。

ココは頷き、《夢見る羊》のメンバーを見た。

皆、頷いた。

「わかりました。こちらこそ、よろしくお願いします」

ココは握手を求めた。

「はい、よろしくお願いいたします」

2人は握手を交わした。

「よし! 決定だね!」

ベントーラが言った。

「ペネロペ嬢をよろしく頼む」

「はい!」

「通行証の代金は、我々からペネロペ嬢への餞別だ。タダでいい!」

「ベントーラ……」

ペネロペは、ベントーラらしいと思った。

「ちょっと、いい男じゃないの!」

ジーナは大喜びだ。

「でしょー? ウチのベントーラはいい男なの」

終始機嫌のいいミカエラが言った。

「よ、よろしいので?」

金額が金額だけに、ココは驚いた。

「ああ、受け取ってくれ」

ベントーラは通行証をココに渡した。

「あ、ありがとうございます。何から何まで……」

ココは頭を下げた。

その時――

「チョコ君! ちょっといいかい? 男同士、大事な話がある」

ベントーラがココの肩を抱き、少し離れた場所へ移動した。

「なっ! 何ですか、ベントーラさん?」

「少し声を落とせ……非常に大事な話だ……」

ベントーラは、いつになく真面目だった。

「だ、大事な話ですか?」

「……」

「……」

「……チョコ君は、胸が大きい女性と小さい女性、どっちが好きだい?」

「なっ! 何ですか、いきなりその質問は?」

「し、静かに……重要なことなんだ……」

「……重要なんですか?」

「そう、重要だ……さあ!」

「うーん!」

ココは真面目に考えた。

「あまり気にしないですね!」

「おお、君は大した男だ! チョコ君!」

「いやー、そんな……」

ココは照れた。

「いやー、これで安心してペネロペ嬢を預けることができるよ」

ベントーラは、こちらを見ているペネロペに親指を立てた。

「?」

ペネロペは首を傾げた。

「ペネロペ嬢は胸のことを気にしていてな。今後は扱いに気をつけてくれよ」

「……ん?」

「いや、その……この前、そのことに触れたら、大泣きしてしまってな」

「……」

「泣き止ませるのに、モリエーロが大変そうだった……」

「……それで、ペネロペさんは元気がないんですか?」

「……?」

ベントーラは考え込んだ。

「そう言えば、そうだな……」

「そうだな、じゃないでしょ! 女性にむ、胸の話をするなんて……」

ココが取り乱した。

「あー! ペネロペ嬢が元気のなかった原因は俺か!」

「申し訳なかったな!」

ベントーラに、申し訳なさそうな素振りは一切なかった。

「わ、わ、わ、胸の……」

朴念仁のココは、アタフタしていた。


姿を隠したマティルダも、顔を赤らめていた。

(胸の大きさは気にしないのね……私は普通だわ)

マティルダは、心の中でそう思うのだった。


ありがとうございました。

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