33話 好み
よろしくお願いいたします。
「どうやら我々は、知らず知らずのうちにペネロペ嬢の自由の翼を狭めていたらしい。チョコ君たちの危険な旅の話を聞いて、心を奪われたようだ……」
ベントーラが格好をつけて言った。
「素敵よ、ベントーラ」
ミカエラの様子が変だ。
「どうかな? チョコ君?」
「ど、どうと言われましても……本人の意思なのですか? 元気がないようですが……」
ココは、うつむいてブツブツと何かを呟いているペネロペを見ていた。
「……どうせ、私の胸は小さい……私の美貌が……」
聞き取れない言葉を、瞬きもせず、呪文のように呟き続けている。
ペネロペの様子を見て、ココは思わず口を開いた。
「ベントーラさん! ペネロペさんに何か酷いことをしました!? 喧嘩別れじゃないですよね!?」
「か、勘違いしないでくれよ……円満に話し合った結果だ」
「じゃあ、何でペネロペさんはこんなに落ち込んでいるんですか!?」
「ん?……なんでだ? ミカエラ、わかる?」
ベントーラには、ペネロペにセクハラ発言をした自覚がない。
「えー? わかんなーい」
ミカエラは考える気すらなかった。
「ペネロペさん」
ココが呼ぶ。
「ブツブツ……」
ペネロペは反応しない。
「ペネロペさん!」
ココが叫ぶ。
「ブツブツ……」
ペネロペは反応しない。
「ペ・ネ・ロ・ペさん!!」
ココが大声で叫んだ。
「!?……ココさん!? あれ?」
ペネロペは、初めてココがいることに気づいた。
「ペネロペさん、確認ですが、《紅蓮の牙》を抜けることは、皆さんも納得しているんですよね?」
ココが心配そうに尋ねた。
「あ、はい! 快く送り出してくれました。円満です!」
「何か酷いことをされたとか、喧嘩別れしたわけじゃないんですね?」
「酷いこと……ブツ……」
ペネロペの表情が変わり、再びうつろな目で呟き始めた。
「ペネロペさん!」
「あっ! 大丈夫です! 本当に大丈夫です!」
ペネロペは慌てて取り繕った。
「情緒不安定じゃない、この子……」
ジーナが呟いた。
「あ、あの、精神安定の祝福を唱えましょうか?」
アーシャが心配そうに尋ねた。
「だ、大丈夫です。本当に大丈夫です」
ココは少し困った顔をしながらも、改めてペネロペに向き直った。
「……それで、ペネロペさん。俺たちと一緒に旅をしたい、というのは本当ですか?」
「はい。皆さんの旅に同行させていただきたいと思っています」
「ですが、この前のようなことがまた起こるかもしれません。これから先、もっと危険なことに巻き込まれる可能性もあります」
謎の男2人に襲撃されたときのことだ。
「……覚悟の上です!」
ペネロペは、ココの目をまっすぐに見つめた。
「ですが……」
ココはためらった。自分とマティルダのために、これ以上、誰かを巻き込んでいいのだろうか。
ペネロペは、少しだけ視線を落とした。
「私はエルフです。人間よりも、ずっと長い時を生きます」
静かに言葉を続ける。
「でも、だからこそ……数百年もの間、森の中だけで暮らすことが、どうしても我慢できなかったんです」
ペネロペは顔を上げ、ココたちを見つめた。
「森を飛び出して、王都で暮らすようになりました。知らなかったものを見て、知らなかった人たちと出会って……たくさんの経験をしました。最初は、それだけで十分満足していたんです」
そこで、ペネロペは少し言葉を切った。
「でも……いつからでしょう。王都での暮らしに慣れてくると、また外の世界を見てみたいと思うようになったんです」
彼女は、困ったように微笑んだ。
「そんなときに、危険を承知で大陸を横断しようとしている《夢見る羊》の話を聞きました。皆さんの旅の話を聞いているうちに、私も一緒に行ってみたいと思ったんです」
「私は、まだ知らない世界を見てみたい。新しいものに触れて、もっといろいろな経験をしてみたいんです……」
ペネロペは少し恥ずかしそうに目を伏せた。
「……わがままな女ですよね」
「足を引っ張るようなことはしません。どうか、一緒に旅をさせてください。お願いします」
「女性がここまで言ったんだ。断るのは無粋だ」
ベントーラが言った。
ココは頷き、《夢見る羊》のメンバーを見た。
皆、頷いた。
「わかりました。こちらこそ、よろしくお願いします」
ココは握手を求めた。
「はい、よろしくお願いいたします」
2人は握手を交わした。
「よし! 決定だね!」
ベントーラが言った。
「ペネロペ嬢をよろしく頼む」
「はい!」
「通行証の代金は、我々からペネロペ嬢への餞別だ。タダでいい!」
「ベントーラ……」
ペネロペは、ベントーラらしいと思った。
「ちょっと、いい男じゃないの!」
ジーナは大喜びだ。
「でしょー? ウチのベントーラはいい男なの」
終始機嫌のいいミカエラが言った。
「よ、よろしいので?」
金額が金額だけに、ココは驚いた。
「ああ、受け取ってくれ」
ベントーラは通行証をココに渡した。
「あ、ありがとうございます。何から何まで……」
ココは頭を下げた。
その時――
「チョコ君! ちょっといいかい? 男同士、大事な話がある」
ベントーラがココの肩を抱き、少し離れた場所へ移動した。
「なっ! 何ですか、ベントーラさん?」
「少し声を落とせ……非常に大事な話だ……」
ベントーラは、いつになく真面目だった。
「だ、大事な話ですか?」
「……」
「……」
「……チョコ君は、胸が大きい女性と小さい女性、どっちが好きだい?」
「なっ! 何ですか、いきなりその質問は?」
「し、静かに……重要なことなんだ……」
「……重要なんですか?」
「そう、重要だ……さあ!」
「うーん!」
ココは真面目に考えた。
「あまり気にしないですね!」
「おお、君は大した男だ! チョコ君!」
「いやー、そんな……」
ココは照れた。
「いやー、これで安心してペネロペ嬢を預けることができるよ」
ベントーラは、こちらを見ているペネロペに親指を立てた。
「?」
ペネロペは首を傾げた。
「ペネロペ嬢は胸のことを気にしていてな。今後は扱いに気をつけてくれよ」
「……ん?」
「いや、その……この前、そのことに触れたら、大泣きしてしまってな」
「……」
「泣き止ませるのに、モリエーロが大変そうだった……」
「……それで、ペネロペさんは元気がないんですか?」
「……?」
ベントーラは考え込んだ。
「そう言えば、そうだな……」
「そうだな、じゃないでしょ! 女性にむ、胸の話をするなんて……」
ココが取り乱した。
「あー! ペネロペ嬢が元気のなかった原因は俺か!」
「申し訳なかったな!」
ベントーラに、申し訳なさそうな素振りは一切なかった。
「わ、わ、わ、胸の……」
朴念仁のココは、アタフタしていた。
姿を隠したマティルダも、顔を赤らめていた。
(胸の大きさは気にしないのね……私は普通だわ)
マティルダは、心の中でそう思うのだった。
ありがとうございました。




