↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/49

32話 胸

よろしくお願いします。

 5日後、ベントーラから通行証が用意できたと連絡がきた。

 前回と同じく、酒場が待ち合わせ場所だった。

 《紅蓮の牙》から来ていたのは、ベントーラ、ペネロペ、ミカエラの3人だった。

 ほかの4人は別の用事があるらしい。

 ベントーラはいつもどおりだったが、ペネロペはうつむき、元気がなかった。一方、いつも機嫌の悪いミカエラは、今日は機嫌がよかった。理由は分からない。

「チョコ君! 通行証が用意できた。受け取ってくれ……だが、頼んだ貴族が欲を出してきて、金貨20枚になってしまったんだよ……申し訳ない」

 申し訳なさそうな素振りなど微塵もないベントーラが、いの一番に口を開いた。

「金貨10枚って話じゃない!」

 ジーナは金銭のことには厳しい。

「ジーナ嬢、申し訳ない。どこも物入りなんだよ」

 ベントーラは申し訳なさそうに言った。

「ありがとうございます。金貨20枚、お支払いします。ベントーラさんが手を尽くしてくださったことへの対価です」

 ココは通行証を手配してくれたベントーラへの感謝を込めて、深く頭を下げた。

「アハハ、チョコ君は真面目だな……そんなに苦労はしてないんだけど」

「だが、こちらの条件を飲んでくれたら、金貨10枚……いや、タダでもいいよ」

 ベントーラが驚くような提案をしてきた。

 今後のためにも、少しでも金銭は残しておきたい。ココは恐る恐る尋ねた。

「……じょ、条件とは?」

「……なに、簡単なお願いさ。ペネロペ嬢を《夢見る羊》で面倒見てくれないか?」

 さらに驚くような提案だった。

     


 5日前――。

「ベントーラ、話があるの……」

 ペネロペがまっすぐな目でベントーラを見つめていた。

「……」

「まずは、座ろう」

 ベントーラは手で座るよう促した。

 ペネロペは近くの椅子に腰かけた。

「皆に聞かれてもいい話かい?」

「かまわない。いや、皆にも聞いてほしい……」

 ベントーラに尋ねられ、ペネロペは答えた。

 ほかのメンバーも、それぞれ近くの椅子やソファーに座った。

 それから、しばしの沈黙が流れた。

「……私、《紅蓮の牙》を抜けようと思うの……」

 絞り出すような声で、ペネロペが言った。

「えっ! ペネちゃん、なんで……? 嫌なことでもあった?」

 モニカが驚いて尋ねた。

「そうよ! 何か不満でもあるの?」

 ミカエラも続けて問いかけた。

「違う! 嫌なことや不満なんかじゃないの……」

 ペネロペは強く否定した。

「皆には感謝してるくらいなの……エルフの私なんかと仲良くしてくれて……」

 閉鎖的な日常に嫌気が差し、故郷を飛び出したペネロペ。右も左も分からない彼女を最初に迎え入れてくれたのは、《紅蓮の牙》だった。

「なら、なんで……」

 ミカエラが問いかけた。

「……チョコ君かい?」

 ここでベントーラが口を開いた。

「……正直に言うと、それもある。でも、彼らの旅の話を聞いて……私も王都以外の場所を見てみたいと思ったの……」

 ペネロペは両手を胸に当て、正直な気持ちを話した。

「彼らの旅は、危険な旅になりそうですよ?」

 モリエーロが優しい声で言った。

「……それも承知してる……」

 ペネロペの頬を涙が伝った。

「……自ら危険な場所に赴こうとは……気がしれんな」

 ネグロなりの心配の言葉だった。

「……」

 ベルゴミは何も言わなかった。

「……我々が君の自由を縛りつけていたってことか……」

 ベントーラは天井を見上げて言った。

「ち、違う! ……私の世界は故郷と王都周辺だけだった。でも、彼らの話を聞いて、ほかの世界もあるんだなって気づいたの! 縛られていたなんて思ったこともないよ……」

「……ペネロペ嬢、言い方が悪かった。すまない」

 ベントーラは謝った。

「……考え直すことは、できないの?」

 モニカは涙目だった。

「……ごめんなさい」

 ペネロペは小さな声で謝った。

 長い沈黙が流れた――。

「……冒険者とは自由だ……」

 ネグロが言った。

 その言葉に、ベントーラはカッと目を開いた。

「そうだ! 冒険者は自由だ! よし、我々も旅に出ようじゃないか!」

 ベントーラが大声で叫んだ。

「無理!」

 ミカエラが即答した。

「王都の暮らしがいい!」

 モニカも続いた。

「教会の仕事もあるので……無理です」

 モリエーロも首を振った。

「……面倒、却下……」

 ネグロはいつもどおりだった。

「……」

 ベルゴミも首を横に振った。

「えーーー! 皆、返事が早いよー! いい案だと思ったのに……」

 ベントーラはガクリとうつむいた。

 だが、すぐに勢いよく顔を上げた。

「じゃあ、我々ではペネロペ嬢の願いを叶えることはできない! 意見の相違だ! これでは共に歩めない……」

 ベントーラは両手を広げ、宣言するように言った。

「脱退を許可しよう!」

「えっ!」

 ペネロペはベントーラの言葉に驚いた。

「えーー、認めちゃうの?!」

 モニカが抗議した。

「これ以上の引き止めは無粋だよ」

 ベントーラはそう言い切った。

「……ありがとう……」

 ペネロペの心からの声だった。

「ああーーー! 美しき我がペネロペ嬢がいなくなると思うと……」

 ベントーラは言葉を詰まらせ、目頭を手で押さえた。

(……え?)

 ペネロペは、ベントーラの様子をじっと見つめた。

(もしかして……ベントーラって、私のことを……?)

 胸の奥が、少しだけざわついた。

(いやいや、そんなはず……でも……)

 ペネロペは、自分でも気づかないうちに頬を赤くしていた。

「いなくなると思うと、こんなにも胸が……」

 ベントーラは言葉を続けた。

(やっぱり……?)

 ペネロペの期待は、少しずつ膨らんでいった。

「ベントーラ、ごめんなさい! 今まであなたの気持ちに気づかなくて……」

 ペネロペは頭を下げて謝った。

「は?」

 ベントーラはきょとんとした。

「え?」

 ペネロペも困惑した。

「……すまん、ペネロペ嬢……俺、全く思いつかない……何かしたかい……?」

 ベントーラには、まったく思い当たることがなかった。

「えっ! えっ! ……ベントーラは、私のことが好きなのでは?」

 ペネロペは顔を赤くしながら尋ねた。

「仲間として好きさ」

 ベントーラはあっさり答えた。

「え?」

「私のことが恋愛感情として好きなんでしょ?」

 ペネロペはもう一度確認した。

「全然!」

 ベントーラは即答した。

「え?」

 ペネロペは目を見開いた。

「ちょっとも?」

「ちょっとも!」

「これっぽっちも?」

「これっぽっちも!」

「えーーー!」

 ペネロペは困惑した。

「だって! 今の態度や言葉は?」

 ペネロペは必死に問いかけた。

「ペネロペ嬢、俺は女性が好きだが……胸が大きいほうが好きなんだよ……。残念ながら、ペネロペ嬢は……」

 ベントーラは、いささか言いづらそうに言った。

 ペネロペは自分の胸を見下ろした。

 エルフ族特有の、小さな胸だった。

「俺の好みはミカエラみたいな女性さ!」

 ベントーラはミカエラを指さした。

「えっ! 私……」

 突然の告白に、ミカエラは嬉しそうに頬を緩めた。

 ミカエラの胸は大きかった。

「……」

 ペネロペは黙り込んだ。

「えー、やだー、突然すぎるー」

 ミカエラは嬉しそうだった。

「……き、き……」

 ペネロペが何かを言いかけた。

「気にしてたのにーーーー!!」

 またしても、ペネロペは大泣きした。

「あー、ベンちゃん泣かしたー!」

 モニカが叫んだ。

「ぺ、ペネロペさん、人にはいろいろ個性があって……」

 モリエーロが泣き止ませようとした。

「……」

 ベルゴミは黙っていた。

 そして、ネグロはそそくさと自分の部屋に入っていった。


ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。