24話 手鏡
よろしくお願いいたします。
《夢見る羊》と《紅蓮の牙》は、ルーヴェ村へ到着すると、村長に討伐の件を話した。
村人たちは人数の少なさに不安を感じていたが、《紅蓮の牙》の名前を出した瞬間、歓喜へと変わった。ここまで噂が広まるほど、有名らしい。
ここ何日かは、家畜は襲われていないとのことだった。
それから2日が経った。
見晴らしの良い場所に囮のロバを置き、その周りの茂みに身を隠す。
ロバを襲いに来たグリフォンの翼を、弓、ボウガン、魔法で攻撃し、飛行能力を奪ってから、地上で倒す。
それが、《夢見る羊》と《紅蓮の牙》で打ち合わせた作戦だった。
空を飛ばれると厄介なのが、グリフォン討伐のセオリーだった。
それでも、鋭いクチバシや爪による攻撃は強力で、何人もの死者が出るのが常識だった。
ココとアーシャの父親も、その一人だった。
だが――
グリフォンは現れなかった。
「暇だなー……」
弓を持ったトーニが、暇を訴える。
「集中しろ……。俺らより、お前の弓が頼りなんだぞ!」
ボウガンに矢を装填しながら、ココが注意する。
「魔女様、グリフォンがどこにいるか分からないんすか?」
トーニは小声でマティルダに問いかける。
「私を何だと思っているのよ……。魔法も万能ではないわ。索敵範囲が広すぎるのよ」
姿を消しているマティルダも、やはり小声で答える。
マティルダも待つのは苦手だった。
「俺は魔女様と一緒にいられるから、苦痛ではありません」
ココが恥ずかしげもなく言う。
「貴方こそ集中しなさい!」
多分、赤い顔をしたマティルダに注意された。
「……いちゃつかないでくださいよ……俺いるんすから」
トーニは、いいなと思いながら言った。
「いちゃついてなんかいないわ!」
マティルダは、つい大きな声を出してしまう。
「魔女ちゃん、静かに!」
隣の茂みに隠れているジーナが注意した。
「貴方といると、私だけ怒られる。納得がいかないわ……」
マティルダは小声で文句を言う。
《紅蓮の牙》は反対側の茂みに隠れているので、マティルダも気兼ねなく話すことができた。
ココは、反対側にいるペネロペをついつい見てしまう。
(あの人、魔女様のこと、気づいているのか?)
そんな心配をしていた。
一方、ペネロペは、チラチラとこちらを警戒するココに気づいていた。
(ちょっと、突っ込んだ質問をしすぎたかしら?)
またココと目が合う。
ココは笑顔で返してきた。
(え、ちょっと待って。あの人、勘違いしてない? 私が気があると思って見てると思ってる?)
再度、ココを見る。
ココはペネロペの視線を感じ、また笑顔で返してきた。
(ほ、本当にそうかも……。あの人、絶対に勘違いしてる。私の美貌に……)
ペネロペは慌てて視線を逸らした。
「ペネちゃん、大丈夫? 耳が赤いよ? 熱でもある?」
隣でボウガンを構えるモニカが問いかけてきた。
「だ、大丈夫よ。緊張と高揚のせいかしら」
ペネロペは慌てて返事をした。
「そっか~。無理しないでね」
「あ、ありがとう、モニカ」
(困ったわね……)
ペネロペは思った。
『魔女様、ペネロペさん、やっぱりこっちを気にしてますね……。警戒しなくていいよーって感じで、笑顔で返しておきました』
何故か自信ありげなココ。
『ふーん』
マティルダは興味なさそうに返す。
『まあ、ちょっかいを出すようなら、殺すしかないわね』
マティルダは軽く言った。
『絶対にダメですからね、そういうの!』
ココは珍しく注意する。
『私だって、好きで殺したいわけではないわ。私の体を探す旅の邪魔をするならよ!』
マティルダは慌てて訂正する。
『でも、無闇に殺しちゃダメですよ!』
ココは念を押す。
『わ、分かっているわよ……』
マティルダは渋々返事をした。
『それにしても、来ないですね……グリフォン』
ココは空を見上げた。
『本当ね……。私、待つの嫌いなんだけど……』
『この作戦は本当に有効なの?』
マティルダは不機嫌そうに答える。
『そう、みたいですね。俺も初めてなんで……。家畜を好んで襲うようです』
ココが説明する。
マティルダが少し考える。
『……魔法学園の書庫で、魔獣大全集にも書かれていたわね……。あと、確かキラキラ光を反射する物を好んで収集するとか書いてあったわ』
マティルダは記憶を辿った。
『魔女様は、あの本全部を記憶しているんですか? しかも、あんなに早く読んで?』
ココは苦い思い出を思い出し、腕を撫でた。
『そうよ。普通でしょ?』
事もなげに答えるマティルダ。
『……』
ココは黙る。
『……キラキラした物……』
マティルダは考える。
『あっ!!』
ココは思いついた。
『な、何よ!』
マティルダが驚く。
『鏡、魔女様の手鏡をお借りしてもよろしいですか?』
ココは、黒の迷宮からマティルダの精神が封印された手鏡を持ってきていることを思い出した。
『……あんな小さい物で反応を示すかしら』
マティルダは疑問視する。
『まあ、何もしないよりは、空に向けてキラキラさせてみるのも手じゃないですか? ダメもとです』
ココは再度提案した。
『……まあ、いいけど。大事に扱ってね』
マティルダは渋々許可を出した。
『はい、命に変えても!』
ココは胸を張って答えた。
『だから、貴方が死んだら私も同じなの……。何回も言わせないで!』
マティルダが言う。
ココはその言葉を無視して、近くにいたアーシャに指示を出した。
「アーシャ、お願いがある」
「はい?」
「俺のリュックに、魔女様が封印されていた鏡がある。それを持ってきてくれないか?」
ココは説明した。
今回の奇襲作戦で遠距離武器を扱えないアーシャは、待機することになっていた。
「鏡ですか?」
アーシャは首を傾げた。
「グリフォンはキラキラした物が好きらしい。魔女様が教えてくれたんだ」
「あー、なるほど!」
アーシャは合点がいった。
「魔女様の大事な物だから、大事に扱ってくれ」
ココは念を押した。
「わ、分かりました」
アーシャは少し離れた荷物置き場へ走り出した。
「アーシャ嬢はどうしたんだ?」
ベントーラは、走っていくアーシャに目をやった。
「勝手に動かれると困るのよ……まったく……」
ミカエラは文句を言う。
荷物置き場に着いたアーシャは、ココのリュックをまさぐり始めた。
「鏡……鏡……あった!」
巻いてあった布を取り、アーシャは元いた場所へ走り出した。
走り出したことで、手にした鏡が太陽の光を反射し、キラキラと光った。
その光を、空から発見した大きな影があった。
「アーシャ、慎重に! 走らなくていいから!」
ココがアーシャに声をかけた。
「は、はい」
アーシャは走るのを止め、歩き出した。
その瞬間――
アーシャを覆う黒い影が、急接近してきた。
それは、グリフォンだった。
ココはそれに気づき、叫んだ。
「アーシャ! 危ない!!」
ありがとうございました。




