22話 実力
よろしくお願いいたします。
《夢見る羊》と《紅蓮の牙》は、グリフォン討伐のため、ルーヴェ村へ向かっていた。
ルーヴェ村は、約350人が暮らす小さな村である。王都から徒歩で3~4日ほどの距離にあった。
一行は、1頭のロバを連れていた。
グリフォンは肉食性の魔獣で、村の家畜を襲っていた。そのため、ロバなどの大型家畜を狙うと考えられていた。今回、ロバは囮として用意されたのだ。
一行はさらに、ボウガンを2丁、弓を1張購入していた。
ボウガンはココとジーナが使い、トーニは弓を担当する。トーニの父親は猟師だったため、トーニも弓をある程度扱うことができた。
グリフォンは空を飛ぶ魔獣である。その対策として、遠距離攻撃用の武器を準備したのだ。
「私がいるのだから、そんなものは必要ないでしょうに」
マティルダはそう言っていたが、何も準備せずに討伐へ向かうのも不自然だった。そのため、念のため購入したのである。
せっかく用意したロバなので、荷物も載せることにした。アーシャが手綱を引いて、ロバを連れて歩いている。
隊列の先頭は、レンジャーのジーナとネグロが担当していた。
「この辺りは治安がいいのでしょうか?」
手持ち無沙汰だったココは、ベントーラに尋ねた。
「王都に近いからな。騎士団や、俺たちのような冒険者も多い。普段の治安はいい方だ」
ベントーラは、そこで一度言葉を切った。
「だが、グリフォンが出現したことで、魔獣の縄張りに変化が生じている可能性が高い。現在の状況については、断言できないな」
さすがは王都で名の知れた冒険者だけあって、ベントーラの返答は明快だった。
《紅蓮の牙》のペネロペは、ちらちらとココを気にしているようだった。
もちろん、ココは気づいていない。
『あのエルフ、貴方のことをちらちら見ているわ』
マティルダが念話で話しかけてきた。
『そうですか……?』
『……もう、貴方は……。完全ではないものの、私の存在を感じているのかもしれないわ』
『本当ですか?』
『多分ね……』
ココは自然な形を装い、ペネロペの方を見た。
ペネロペは、すぐに視線を逸らした。
『そのようですね……』
『気をつけましょう』
『はい』
そんな会話をしてから、数時間が経った。
「止まれ!」
ネグロが声を上げた。
「え?」
ジーナが聞き返す。
「あの森の中に、魔物の気配がある」
「……」
ジーナは、何も感じ取れなかった。
「下がるぞ……」
ネグロはそう言いながら、後方のベントーラたちに指で合図を送っていた。
「どうやら、お客様がいるらしい」
ベントーラが言った。
「え?」
ココがとぼけた声を出している間に、《紅蓮の牙》のメンバーは戦闘態勢に入っていた。
《夢見る羊》のメンバーは、訳も分からないまま武器を抜いた。ここに、経験の差が表れていた。
「オーガだな……。3体いる」
ネグロが、ベントーラに手短に報告した。
「オーガか。王都近くに3体とは珍しい! 倒して、ギルドから追加報酬をもらおう!」
ベントーラは楽しそうに言った。
「2体は《紅蓮の牙》が相手をする。1体は任せていいか?」
「だ、大丈夫です!」
ココが答える。
「無理はするなよ! 最悪、足止めしてくれたら、後から俺たちが倒すから」
ベントーラは笑いながら言った。
「馬鹿にして……!」
トーニが憤る。
その時、森から3体のオーガが飛び出してきた。
《紅蓮の牙》のメンバーは、すでに駆け出していた。
1体にはベントーラとペネロペの2人が、もう1体には残りの5人が挑んだ。
《勇戦の歌》を使います!」
《紅蓮の牙》の神官モリエーロが、祝福を使用する。彼は、《鉄と武勇の戦神バルデム》に仕える神官だった。
《勇戦の歌》は、恐怖心を和らげ、冷静さと判断力を向上させる祝福である。
その効果は、《夢見る羊》のメンバーにも及んだ。
「な、なんだこれ!?」
トーニが驚く。
モリエーロは、敵味方の区別なく祝福を施す優しい男だった。
「俺たちも行くぞ!」
かなり遅れて、ココが声をかけた。
《夢見る羊》は、1体のオーガへ向かった。
《紅蓮の牙》の5人は、戦士ベルゴミが正面から大盾を構え、手斧で攻撃していた。
槍使いのモニカは、小柄な体を活かしてベルゴミの陰から長い槍を繰り出していた。
魔法使いのミカエラは、すでに皆へ《付与》を施し、《火球》で攻撃しようとしていた。
モリエーロは《勇戦の歌》を唱え続けている。
ネグロは「戦闘は俺の仕事ではない」とでも言いたげに、直接戦闘には参加せずにオーガの後ろに回り込むなどオーガの気をそらせるような動きは見せていた。
安定した連携で、危なげのない戦いを繰り広げている。
驚くべきは、残る2人の戦いだった。
ペネロペが精霊魔法で地面から蔓を伸ばし、オーガの足を絡め取って動きを封じる。
その隙に、ベントーラがグレートソードを軽々と操り、オーガと正面から力比べをしていた。
本来なら、人間がオーガと力で張り合うなどあり得ない。
だが――
「ぬおおおおっ!」
オーガが両手で棍棒を振り下ろす。
ベントーラはそれを真正面からグレートソードで受け止めた。
「おおおおおっ!」
地面が踏みしめられ、土が大きく沈む。
それでも、ベントーラは一歩も退かなかった。
むしろ――
「そらぁっ!」
グレートソードを押し返す。
オーガの巨体が、わずかに後ろへよろめいた。
人間が、オーガを力で押している。
異常な光景だった。
《夢見る羊》は、基本どおりココとトーニが前に出て攻撃していた。
ジーナは2人の後ろで牽制し、オーガの隙を突いてダガーで攻撃している。
致命傷にはならないが、オーガをじわじわと追い詰めるには効果的だった。
ペソットは《火球》で2人を支援している。
アーシャは防御の祝福を唱えて2人の防御力を高め、負傷者が出てもすぐ対応できるよう備えていた。
オーガとの戦いは初めてだったが、ココたちは問題なく戦えていた。
《紅蓮の牙》の戦いぶりと、《戦いの歌》の効果が大きかったのかもしれない。
その頃、マティルダは――。
(暇……)
暇を持て余していた。
ココたちから「よほどのことがない限り、目立つ行動はするな」と口酸っぱく言われていたからだ。
(暇ね……。オーガごときで……)
マティルダは、ココたちの戦いをあくびをしながら眺めていた。
(そうだわ!)
マティルダが何かを思いついた。
(《肉体強化》の魔法なら、ばれないわ!)
マティルダは、ペソットから付与魔法を習っていた。現代の基礎魔法であるため、古代魔法を使いこなしていたマティルダは、すぐに覚えたのだった。
思い立ったが吉日。マティルダは、すぐに行動を起こした。
『《肉体強化》を使うわ!』
『え?』
突然のことに、ココが驚く。
『《肉体強化》!』
その瞬間、ココの体内を大きな衝撃が駆け抜けた。
次の瞬間、ココは鼻から大量の血を噴き出した。
「ぶーーーっ!」
「おい、ココ! 攻撃を受けたのか!?」
トーニが叫ぶ。
「お、お兄ちゃん……!」
アーシャも慌てて駆け寄ろうとした。
ココは、クラクラしながら倒れ込んだ。
「ちょっ……!」
トーニが声を上げる。
ココが倒れたことで、オーガとの均衡が崩れた。
(《肉体強化》は、魔力が多ければいいというわけではないのね。加減が難しいのね……勉強になったわ。)
オーガは倒れたココに狙いを定め、こん棒を打ち下ろそうと上段に構えた。
姿を消したマティルダがココとオーガの間に入り込む。
(ちょっと、うるさいわね……)
マティルダが呟き、魔法の詠唱を始める。
倒れたココの周辺から、氷の塊が高速で発射された。
オーガの首が吹き飛ぶ。
《夢見る羊》は、不自然な形でオーガを倒したのだった。
ちょうどその時、《紅蓮の牙》も二体のオーガを倒し終えていた。
彼らは、あっけにとられた表情でココたちを見つめている。
その中でも、ペネロペの疑念は、ますます深まっていくのだった。
ありがとうございました。




