20話 紅蓮の牙
よろしくお願いいたします。
「ココ、理由を聞いてもよろしいですか?」
ペソットは優しい口調で尋ねた。
「いや、そんなに深い意味はないんだ……。父さんが死んだのは、グリフォン討伐に行って帰ってこなかったからだ」
ココは悲しそうな顔で語った。
「……」
アーシャは黙ってココを見つめていた。
12年前、冒険者をしていたココたちの父親は、ノクタリアの町付近で暴れ回っていたグリフォンの討伐に向かった。
討伐は無事に成功したものの、参加した20人のうち7人が命を落とした。その中の1人が、ココとアーシャの父親だった。
「って感じだから、そんなに深い意味はないんだ。父さんを殺したグリフォンは、もう討伐されているし……」
「でも、引っかかるのでしょう?」
マティルダが尋ねた。
「……父さんを殺した個体は、別のグリフォンだと分かっているのですが……。それでも、グリフォンが暴れ回って困っている人がいると思うと……」
ココは苦しそうに言葉を続けた。
「貴方のお父様は、そこまで高尚な考えを持っていたのかしら? お金のためだった可能性のほうが高いわ。貴方は、お父様への憧れを正当化しているだけじゃない?」
マティルダは、自分の姿が見えないことも忘れ、大声でまくし立てた。
その声に反応し、掲示板の前にいた冒険者たちの視線が一斉に集まる。
ジーナはとっさに口をぱくぱくと動かし、「私は怒っている」とでも言いたげな演技を始めた。気の利く女である。
「……かもしれません」
ココは俯き、弱々しく答えた。
「でも、いいじゃない。お父様が本当に高尚な考えを持っていた可能性だってあるわ。それに、貴方はその憧れからグリフォンを倒したいのでしょう?」
マティルダの声が、少しだけ柔らかくなる。
「昨日言ったでしょう? 私の肉体を探す旅を、私の空白の500年を埋める旅にするって。なら、私だけじゃなく、貴方のそのモヤモヤを解消する旅にしてもいいのよ」
「私がいれば、グリフォンなんて問題ないわ!」
姿を消したまま、マティルダは自信満々に言い切った。
「……ありがとうございます、魔女様」
ココは小さく微笑んだ。
「じゃあ、この依頼を受けることにする。」
ココは勢いよく依頼カウンターへ向かった。
ジーナが、見えないマティルダにクスクスと笑いながら話しかける。
「魔女ちゃん、あなた、いい女ね」
「……」
マティルダは黙っていたが、姿が見えなくても顔を赤くしていることは容易に想像できた。
「この依頼をお願いします!」
ココは受付嬢に依頼書を差し出した。
ギルド受付嬢は依頼書を確認し、驚愕した。
「グ、グリフォンですよ! 5人で討伐なんて無理です! 絶対に認められません!本来なら、20人から30人ほどで討伐する魔物なんですよ!」
受付嬢の大声に、再び他の冒険者たちの視線が集まる。
「ハハハ……グリフォンを5人だけって……」
「ゴブリン50匹を一瞬で倒したからって、グリフォンとは比較にならねーよ!」
「田舎もんは、怖いもの知らずだな!」
冒険者たちが一斉に笑い出した。
『やはり、威嚇の魔法を唱えた方がいいのではなくて?』
『マジで! 止めてくださいね!』
ココは念話で必死に訴えた。
「も、申し訳ございません。私のせいで……」
受付嬢が申し訳なさそうに頭を下げる。
「いや、気にしないでくれ。でも、どうしてもダメか?」
「ギルドとしても、冒険者にむざむざ死んでほしくありません。また、討伐に向かって失敗しましたとなると、ギルドの信用問題にもなります」
受付嬢の言葉は正論だった。
『魅了の魔法をかけて、許可させちゃう?』
『止めてください!』
「倒す見込みはあるんだ! そこにいる魔法使いが、とてつもない魔法を使えて……!」
ココが必死に説明する。
「わ、私ですか?」
ペソットが驚く。
ジーナは「話を合わせろ」と言うように、肘でペソットを小突いた。
「そ、そうなんです! ここでは言えませんが、凄い魔法を使えるんです! グリフォン程度なら、ちょちょいのちょいなんです!」
ペソットは、苦し紛れに嘘をついた。
ジーナは頭を抱える。
「そう言われましても、無理なものは無理なので……」
受付嬢は困ったように首を振った。
「そんな……」
ココが肩を落とした、その時だった。
「その討伐依頼、我々も参加させてもらっていいかな?」
横から、1人の男が声をかけてきた。
腰には腰にはグレートソードを帯びている。その堂々とした仕草から、一流の冒険者であることがうかがえた。
「俺の名前はベントーラ。《紅蓮の牙》のリーダーをやっている」
ベントーラはココに握手を求めた。
「えーっと、たしか、君たちは噂の……」
「そう! 《眠たい豚》だ!」
「《夢見る羊》です」
ココは苦い顔をしながらも、差し出された手を握った。
「あ! 申し訳ない! 名前を覚えるのが苦手なんだ!」
ベントーラは豪快に笑った。
「我々の《紅蓮の牙》は、俺を含めて7人いる!」
ベントーラは一方的に話を続けた。
「カトリーナ嬢!」
ベントーラは急に受付嬢へ向き直った。
「グリフォンの討伐依頼は、最低10人からのはずだ!」
「は、はい。そうですが……」
「君たち《眠たいヤギ》の人数は何人だい?」
今度はココに顔を向ける。
「《夢見る羊》で、5人です」
ココは苦い顔をした。
「我々7人と合わせれば、合計12人。これなら問題ないだろう?」
ベントーラは、再びカトリーナへ顔を向けた。
「ま、まあ、相手が合意なされれば、規定を満たしております」
カトリーナは戸惑いながらも頷いた。
「じゃあ、決まりだ!」
ベントーラは満足そうに胸を張った。
「ちょ、ちょっと待ってください! 勝手に決めないでください!」
ココが慌てて話に入る。
「……ん?」
ベントーラが首を傾げる。
「……ん?」
ココも困惑した。
「だって、共闘しないと許可が出ないじゃないか! 君、面白いボケをするね!」
ベントーラは楽しそうに笑った。
「ボ、ボケてないですから! ちょっと落ち着いてください!」
「俺はいつも落ち着いているよ!」
ベントーラは胸を張って言い切った。
「ちょっと待ってください! メンバーと話し合ってもよろしいですか?」
ココは疲れたように尋ねた。
「ああ、オーケー、オーケー。手短に頼むよ!」
ベントーラは快く頷いた。
ココはトボトボと仲間たちのもとへ歩き出す。
そんなココを、少し離れた場所からじっと見つめる女性がいた。
ありがとうございました。




