15話 商隊の護衛
よろしくお願いいたします。
《満腹の蛙亭》での話し合いから、9日が経過していた。
《夢見る羊》のメンバーは、ノクタリアの町から王都リュネールへ向かっている途中だった。
ペソットの提案で、王都リュネールへ向かう商隊の護衛依頼がないか冒険者ギルドに確認したところ、ちょうどいい依頼があった。
商人からの提示額は金貨10枚、成功報酬で金貨2枚。
しかも道中の食事も支給されるという、かなり条件の良い依頼だった。
「街道沿いなら、手ごわい魔獣は出ないと思われます。好条件ですね」
ペソットもそう言っていた。
目的地までの距離は、ちょうど半分ほど。
ここまでは何事もなく、順調に進んでいた。
野営の時などには、
「歩くだけで、一人金貨2枚以上はおいしいな」
トーニがココに耳打ちしてきたほどだった。
今回の依頼主は商人のロマーノ。
息子が一人、従者が一人、馬車が一台。
ノクタリアの町で造られた名産のワインを王都まで運ぶため、《夢見る羊》に護衛を依頼したのだった。
ノクタリアのワインは貴族に高く売れるため、報酬も良い依頼となっていた。
ロマーノは女性には特に優しく、馬車の荷台に空きがあるということで、アーシャはそこに乗せてもらっていた。
ジーナも誘われたが、
「私は斥候としての仕事があるから」
そう言って断り、隊列の一番先頭を歩いている。
そんな中、ロマーノの息子がアーシャに何か話しかけているのを、トーニは気にしている様子だった。
「あいつ、アーシャに馴れ馴れしいな……」
「そっか。世間話をしているだけだろ? ここまで一緒に旅をしてくれば、誰だってあんなもんだろ」
ココは気にした様子もない。
「……お前に聞いた俺がバカだったよ……」
「ん?」
「なんでもねーよ」
トーニはため息をついた。
(やっと、男同士で恋愛の話ができると思ったのに……やっぱりダメだな、コイツは……)
(だけど、ココがこんなに積極的だとは思わなかった……俺も積極的に……いや、ダメだ。魔女様もだいぶ困っているしな……)
(アーシャには絶対にドン引きする!)
(こいつは悪い見本だ!)
トーニは、じっとココを見つめていた。
「な、なんだよ……」
「なんでもねーよ」
勝手に悪い見本にされているココであった。
そんな時だった。
先頭を歩いていたジーナが、ピタリと足を止めた。
そして右腕を上げ、手を握りしめる。
異常事態発生の合図だ。
皆に緊張が走った。
ジーナがゆっくりと後ずさりしながら、ココの近くまで戻ってくる。
「ゴブリンがいるわ。数は……20匹ってところかしら」
「多いな」
ゴブリンは大抵10匹程度の群れで生息している。
知能は低く、戦闘力もそれほど高くない。
だが、数が多くなれば、それだけ危険度は増す。
「俺とトーニで前に出る。ペソットは援護を。アーシャは加護の準備をしてくれ。ジーナは依頼主の警護を頼む」
ココは素早く指示を出した。
「分かったわ」
「最初の勢いが大切だ。速攻で5~6匹を倒す!」
ゴブリンは基本的に臆病だ。
最初に勢いよく何匹か倒すことで、残りは恐れて逃げていく。
数が多い時の基本的な作戦だった。
《夢見る羊》のメンバーが配置につく頃には、ゴブリンの群れは近くまで来ていた。
囲まれると厄介だ。
ココとトーニは走り出し、先頭のゴブリンに斬りかかった。
ゴブリン単体では問題ない。
中級冒険者である二人に、ゴブリンはあえなく切り捨てられた。
それと同時に、少し離れたゴブリンにペソットの魔法が飛んでいく。
「《火球》!」
轟音とともに、炎の球がゴブリンに直撃した。
ココとトーニも、次の相手に斬りかかる。
こちらも難なく倒した。
先制攻撃としては申し分のない結果だった。
――だが。
これで逃げ出すと思われたゴブリンは、逃げ出さなかった。
「後ろから10匹くらい出てきたわ!!」
ジーナが叫ぶ。
藪の中から、さらに10匹ほどのゴブリンが姿を現した。
「だから、逃げ出さなかったのか……」
「チッ! 増えやがった! 面倒だな!」
トーニが大剣を構える。
「だ、大丈夫でしょうか……」
ロマーノが不安そうにジーナに語りかける。
息子と従者もガタガタと震えていた。
「大丈夫です。多少時間がかかりますが……」
ジーナはそう答えたものの、最悪の状況も考えていた。
(最悪は、荷物を捨てて逃げることになるかも……)
「街道沿いで、ここまで多いとは……誤算ですね」
ペソットがぼやきながら魔法を放つ。
「トーニ! 囲まれないように注意しながら、確実に1匹ずつだ!」
「分かってるよ!」
トーニが大剣を振るう。
そんな時だった。
「……時間がかかるわね」
マティルダだった。
姿の見えないマティルダが、魔法の詠唱を始める。
すると、ココの周りに5本の氷の槍が形成された。
「《氷柱の槍》!」
その瞬間、5本の槍が飛び出し、ゴブリン5匹を貫いた。
続けざまに、
「《地獄の業火》!」
10匹以上のゴブリンが、瞬く間に焼かれた。
「ギギーギャッギャ!!」
ここでようやく不利を悟ったゴブリンたちが逃げ出す。
「《氷柱の槍》!」
逃げようとしたゴブリンを、全て氷の槍が貫いていく。
そして――
静かになった。
「……」
「……」
「……」
「……」
トーニ、ペソット、アーシャ、ジーナ。
皆、あっけにとられていた。
「さすが、魔女様!」
ココだけが嬉しそうに声を上げる。
「貴方たちの戦い方がまどろっこしくて仕方ないわ! 何でゴブリンなんかに、あんなに慎重なのよ! わけが分からないわ!」
マティルダは呆れたように言った。
馬車から戦いを見ていたロマーノは大興奮している。
「なんですか、アレは? ココさんは剣士? 魔法使い? ……でも、あそこまでの冒険者は見たことがありませんね!!」
マティルダは姿を消している。
ロマーノには、ココが一人でやっているように見えていた。
「……ま、まあ、そうですね……」
ジーナは、気のない返事をした。
こうして《夢見る羊》のメンバーは、改めてマティルダの実力を目の当たりにした。
その中でも、特に落ち込んだのはペソットだった。
ありがとうございました。




