10話 ご立腹
よろしくお願いいたします。
「今、説明した通り、俺は魔女様の肉体を探す旅に出なければいけない。やはり《夢見る羊》からは抜けるようになる……申し訳ない」
ココは深々と頭を下げた。
仲間たちは一様に押し黙る。
「ノクタリアの町までは同行をお願いしたい」
ココが続けると、ペソットが尋ねた。
「町では、旅の準備ですか?」
「それもあるが、冒険者ギルドの書庫に用事があるんだ」
「書庫ですか?」
普段は本など読まないココの口から出た言葉に、ペソットは不思議そうに首を傾げる。
「魔女様が、この五百年の間のことを知りたいらしい」
ココが説明すると、マティルダが言葉を継いだ。
「そう。特に地図が見たいわね。ここがどの場所なのか知りたいし……魔法王国ルーンヴェルが滅んでいるらしいわね。その理由と、分かれば私が封印された理由も調べたいのよ」
「魔女様は、ご自身が封印された理由をご存じないと……?」
ペソットが驚きを露わにする。
「知らないわよ! 実験中に急に襲われた感じだったし……」
「なっ!! お、襲われた!? ゆ、許さない……!」
ココが怒りに打ち震えて叫んだ。
「貴方は黙ってて!」
「はい……」
マティルダに一喝され、ココはシュンと項垂れる。
「完全に尻に敷かれてるのね」
ジーナがくすくすと笑った。
「敷いてないわ!」
マティルダが言い返し、アーシャは哀れみのこもった目で兄を見つめる。
「……兄さん……」
「そ、そう言えば貴方、私の本がどうのって言ってたわね」
マティルダが話題を変えるようにペソットへ視線を向けた。
「はい、魔法学園で見たことがあります」
「へー、それは何処にあるの?」
「魔法学園は王都リュネールにあります」
「ここから遠いの?」
「徒歩で半月ほどでしょうか……」
「最近、その場所には行ったかしら?」
「ここ何年も行っていませんね……」
「……そう、残念」
マティルダは小さく肩を落としたが、すぐに思い直したように尋ねた。
「私の本には、私が封印された理由も書いてあるの?」
「……あります」
ペソットの額から汗が流れる。
「教えてくれる?」
「……」
ペソットの顔が一気に青ざめた。
「どうしたの?」
「……や、約束してもらえますか?」
「なにを?」
「お、怒らないと……」
「……そんなに酷いことが書いてあるの?」
「……私が書いたものではありませんので」
「……いいわ、怒らない! 約束するわ」
「ほ、本当に怒らないですね!?」
ペソットが必死に念を押す。
「くどいわね、早く言いなさい!」
マティルダが声を荒らげた。
「あっ! 怒った」
「あ、貴方は本当に黙ってて……!」
「はい……」
再びシュンとするココを横目に、ジーナは何も言わず楽しそうに眺めている。
マティルダはコホンと咳払いをひとつした。
「……で、話してちょうだい。怒らないから」
「……はい」
ペソットはおそるおそる覚悟を決めた。
「伝承はいくつもありますが……その美貌で多くの男を惑わせ、国家転覆を企てたという話。あるいは、想いを寄せた男に婚約者がいたため、嫉妬に狂って禁呪を使い、その許嫁を殺したという……」
「えっ!?」
マティルダが絶句する。
「ええっ!?」
ココも目を剥いた。
「男性を惑わせただなんて……わ、私、異性とそんなに話したことすらないくらいなのに! 国家転覆だなんて……!」
マティルダが慌てて否定する中、ココが猛烈な勢いで食ってかかってきた。
「ま、ま、魔女様は、お、想いを寄せた人がいたんですか!?!?」
「キャッ! い、いないわよそんな人!」
「本当ですかぁ……」
ココはあからさまにホッとして肩の力を抜いた。
「コーコ、そんなに勢いよく迫ったら魔女様が怖がるわよ。女性には優しくね」
ジーナがいたずらっぽく口を挟む。
「わ、魔女様、すいません……」
「それに、そんな人がいたとしても、とっくに死んでるわ。焦らなくても貴方の一人勝ちよ」
「……」
(に、苦手なタイプね……)
からかってくるジーナに、マティルダは心の中で身構えた。
「そ、そっか……そうだよな! 助言ありがとう、ジーナ!」
ココは嬉しそうに声を弾ませ、それから真面目な顔で言った。
「あと、魔女様はそんな女性ではない!」
「これまでの態度を見ていれば、それは確定ね」
ジーナも笑いながら同意する。
マティルダは照れ隠しに咳払いをした。
「ほ、他にもあるのかしら……?」
「もっとも有力なのは——古代魔法王国が滅びた原因そのものが、黒の魔女にあったという説です」
「何よそれ! ルーンヴェルが滅びた原因が私!? 関係ないわよ! 私が封印された時は、ルーンヴェルはまだ存在していたもの!」
「わ、私は書物に書かれていたものを言っているだけです……!」
「納得いかないわ! 酷い言い掛かりよ!」
「私は魔女様に関する書物を詳しく調べた訳ではないので、もっと詳しく調べれば、真実が分かるかもしれませんが……」
ペソットの言葉を聞いて、ココが尋ねた。
「その魔法学園の書物は、誰でも見られるのか?」
「お金を払えば、初級魔法や雑学、歴史書なら閲覧できるはずです」
「そっか……」
ココは少しの間、真剣に考え込んだ。
「魔女様、今後の方針ですが……まずはノクタリアの町まで皆と同行して戻りましょう。そして冒険者ギルドの書庫で地図など必要な情報を得て、魔女様の肉体が封印されている場所を推測し、旅のルートを設定します」
ココは淀みなく言葉を続ける。
「その後は皆と別れ、王都リュネールまで行って魔法学園の書庫に寄り、魔女様の情報を集める方向でよろしいでしょうか?」
ココは《眠れる羊》のリーダーを任されているだけあって、状況を整理してからの決断が早く的確だった。
「そ、それで良いわ」
マティルダは素直に頷いた。
(……ただのエロバカだと思っていたら、しっかりする処はしっかりしてるのね)
少しだけココを見直し、感心するマティルダだった。
ありがとうございました。




