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未処理箱 ―これ、今確認するんですか!?―  作者: はてな小僧


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第四話 南門の街灯

三件目の陳情を処理してから、四日が経った。


 その間、エリオットとノアは未処理箱に触れなかった。


 仕事がなかったわけではない。


 むしろ、三件目を処理している間に後回しになっていた仕事を片づけるのに、四日かかった。


「エリオットさん」


「何だ」


「今日、だいぶ減りましたね」


 ノアが自分の机を見た。


「そうだな」


「そろそろ――」


「増やすなよ」


「まだ何も言ってません」


 言わなくても分かる。


 ノアの視線は、机の横に置かれた木箱へ向いていた。


『未処理』


「一枚だけですよ」


「前にも聞いたな、それ」


「一枚しか取りませんから」


「そういう意味じゃないんだが」


 とはいえ、いつまでも放っておくわけにもいかない。


 エリオットは木箱の蓋を開け、一番上の書類を取り出した。


「何年前です?」


「六十八年前」


「内容は?」


 表題を確認する。


『王城南門付近の街灯増設について』


「街灯ですね」


「街灯だな」


 陳情書を開く。


 王城南門から職員用宿舎へ向かう道は、日が暮れると足元が見えにくくなる。既存の街灯だけでは間隔が広すぎるため、数を増やしてほしい。


「また設備ですね」


「そうだな」


「今度は何が出てくるんでしょう」


「何か出てくる前提で話すな」


 三件続けて本当に未処理だったせいで、ノアもすっかり疑うようになっていた。


 エリオットは陳情書の受付番号を確認する。


「まず記録からだ」


「現地じゃないんですか?」


「先に調べる」


「慣れましたね」


「慣れたくはなかった」


 二人は書庫へ向かった。



 受付記録はすぐに見つかった。


『南門付近の街灯増設について』


「ありますね」


「ああ」


 ここまでは珍しくない。


 次に、陳情を受けたあとの記録を探した。


「現地調査してます」


「いつ?」


「陳情が出た五日後です」


 当時の担当者は、日没後に南門から職員用宿舎までの道を確認していた。


 既存の街灯の位置も記録されている。


『南門より宿舎へ至る道のうち、およそ三分の一の区間で照明不足を確認』


「ちゃんと暗かったんですね」


「らしいな」


 その後、街灯を三基増設する申請が出されている。


 予算も承認されていた。


「順調ですね」


「ああ」


「でも、ここまでは掲示板もありました」


「言うな」


 発注記録を探す。


 あった。


「三基、発注されてます」


「納品は?」


「されてます」


 エリオットは次の記録へ手を伸ばした。


「まだです」


「分かってる」


「設置されるまでは信用できません」


「お前もだいぶ染まったな」


 工事関係の記録を確認する。


 街灯の基礎工事。


 設置作業。


 点灯確認。


 そして最後に、


『南門南側照明設備増設工事 完了』


 二人は黙った。


「…………」


「…………」


 ノアが記録を持ち上げた。


「ありますね」


「あるな」


「工事完了って書いてあります」


「読める」


「完了してますよ」


「書いてあるな」


 エリオットは念のため、その後の記録も確認した。


 不具合の報告はない。


 再工事の記録もない。


「……終わってるんじゃないですか?」


「現地を見るぞ」


「やっぱり行くんですね」


「当然だ」



 南門を出ると、職員用宿舎へ続く道が伸びている。


 陳情が出された六十八年前から道幅は多少変わっていたが、場所そのものは同じだった。


 二人は古い配置図を見ながら歩いた。


「一基目、この辺りですね」


「ああ」


 街灯が立っている。


 少し先へ進む。


「二基目」


「あるな」


 さらに進む。


「三基目」


「あったな」


 三基とも、きちんとあった。


 ただし六十八年前に設置されたものそのものではない。


 途中で何度か交換され、現在立っているのは十数年前に新しくされた街灯だった。


 施設管理の職員にも確認した。


「この三か所は、昔から街灯があるんですか?」


「ありますよ。今のものは新しいですが、設置場所は変わっていません」


「六十八年前に増設された記録があるんですが」


「それなら、この三基でしょうね」


 職員が古い配置図を見た。


「位置も合っています」


 エリオットとノアは顔を見合わせた。


「処理済みですね」


「そうだな」


「本当に?」


「お前が疑うな」


「だって三件続きましたから」


「今回は終わってる」


 陳情は受理されている。


 現地調査も行われている。


 増設が決まり、予算がつき、発注され、工事も終わっている。


 現在も街灯は引き継がれていた。


 どこから見ても、処理済みだった。



「じゃあ、何で箱に入ってたんでしょう」


 王城へ戻ったノアが、陳情書と工事記録を机に並べた。


「それを確認しないと終われないな」


「終わってるのに?」


「四十八年前の整理で処理状況を確認できなかった理由があるはずだ」


「なるほど」


 六十八年前の陳情書には、受付番号が記されている。


『陳情 第六四二号』


 一方、工事記録には別の番号が振られていた。


『施設工事 第一八七号』


「番号が違いますね」


「陳情と工事だからな」


 当時、陳情を担当した部署から施設管理へ工事が引き継がれた際、それぞれ別の管理番号が付けられていたらしい。


 陳情書には、工事番号が記されていない。


 工事記録にも、元になった陳情の受付番号はなかった。


「これだけ見たら、つながらないですね」


「ああ」


 四十八年前の書庫整理時の記録も確認した。


 該当する陳情について、短い書き込みが残っていた。


『対応記録確認できず。要照合』


「それで未処理箱へ?」


「らしいな」


「でも、工事記録は残ってたんですよね」


「残ってた」


「調べれば分かったんじゃないですか?」


「だから照合する予定だったんだろう」


「あ」


 そして、照合する予定だった書類をまとめた箱が棚の後ろへ消えた。


「……惜しいですね」


「何がだ」


「あと少しでした」


「四十八年前にな」


 今回は、日付と場所、増設された街灯の数を照らし合わせれば確認できた。


 陳情が提出された二十日後に三基の増設が承認され、その直後に同じ場所へ三基の街灯を設置する工事が発注されている。


 別件と考えるほうが難しい。


「これなら処理済みでいいですね」


「ああ」


「何もしなくて?」


「確認はした」


「工事は?」


「しない」


「関係部署との協議は?」


「必要ない」


「新しい予算は?」


「いらない」


 ノアが黙った。


「……終わりですか?」


「終わりだ」


「早いですね」


「こういうのでいいんだ」


 エリオットは六十八年前の陳情書へ、処理状況を確認した旨を記録した。


 そして印を押す。


『処理済』


 これまでと同じ印だった。


 だが今回は、六十八年前に終わっていた仕事へ押しただけだった。


「ありましたね」


「何が?」


「処理済み」


「……ああ」


「ちゃんと処理されてました」


「ああ」


「嬉しそうですね」


「嬉しい」


「何もしてないのに」


「確認はした」


「そうでした」


 エリオットは陳情書を処理済みの保管場所へ移した。


 ノアが木箱を見る。


「これなら次も――」


「今日はやらない」


「まだ時間ありますよ」


「他の仕事をしろ」


「はい」


 四件目は、初めて何も直さずに終わった。


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