第二十二話 緊急招集
土曜日の昼頃。
ちょっとNASを見て回りたい。
鎖田さんも仕事に出たし。
亜夢もいないから。
まだ一週間しか経ってないんだよね。
「よう馬」
1番聞きたくない声が、背中から聞こえた。
■
反射で足が動く。
逃げようとする。
肩を掴まれる。
「顔も見ずに逃げるなんて、失礼じゃねぇのか?馬ァ…」
ぎこちなく振り返る。
ざんぎり。
空色の髪。
精悍な顔つきに。
ギザギザの歯。
ゼロヒトだ〜…
「そりゃあ誰だって逃げるでしょ」
「なんでさ」
「あんな『強烈な印象』残しておいてよく言えるよね」
「酷いなぁ。俺様はお前のこと、認めてるんだぜ?」
バシバシバシと背中を叩く。
何が「認めた」だよ。
「で、お前は何してるんだ?」
「関係ないだろ」
逃げ逃げ逃げ。
肩を掴む手の力が強くなる。
冷たい冷たい。
「俺様が案内してやるよ」
「いらねーよ!」
「そう冷たいこと言うなってぇ…え?仮にも俺を負かしたんだから…もっと威張れよ」
耳元で囁かれる。
普通にキモいな。
■
コイツ意外とまともだぞ?
ちゃんと施設の説明するし。
他の隊員からの人望も厚そうだ。
多分、亜夢が絡まないこの状態が彼の素なんだろう。
「…おい、聞いてるのか?せっかく俺様が話してやってるんだ聞け」
…。
そういえば。
「お前もバディがいるんだよな?」
「ああ、いるぞ。妹だ」
「妹?妹がいたのか」
「違う違う。亜夢の妹」
執念ェ…
「…やっぱり顔ってこと…?」
亜夢と由宇は瓜二つな見た目をしてるからな。
「いや、関係ないぞ。ただ亜夢とお近づきになれると思っただけだ」
「わあキモい」
「ははは、失礼だなお前」
んー、相変わらず思考が亜夢で染まってやがる。
ここまで言動と思考がかけ離れている奴も珍しいよな。
「なんでそんなに亜夢に執着するんだ?恋?」
「いや?そんなんじゃないね。そもそも俺様はゲイじゃない」
「じゃあ由宇ちゃんと?」
「ハッ。誰があんなペラガキと?俺様はもっとこう…でかい奴が好みだ」
ミナト課長とかいいよな…
とかなんとかほざいてやがる。
「熟女好みかよ」
「凍らすぞテメェ」
「というかペラガキってなんだよ」
「あんなマナ板論外なんだよ」
ひどいいいよう。
ちらっと後ろを見る。
亜夢によく似た銀髪。
少し身長は小さめ。
長いまつ毛。
吊り目がちの瞳。
妹ちゃん…
キレてる。
めっちゃキレてる。
読めるとか読めないとかじゃない。
わっかりやすくキレてる。
「だーれーがーマナ板じゃクソゼロヒトー!」
ゼロヒトが振り返る。
コークスクリューブロー。
「ほんとサイテー」
「前が見えねえ」
■
「ほんっっと最悪なんですけど!なに⁉︎なんで私がいないとこでディスられなきゃならないわけ?」
無い胸を逸らし由宇が言う。
「無い胸逸らしても無いままだぞ?」
「しね!」
「やれやれ…なんでそんなこと言うかねぇ…」
「お兄ちゃんからの連絡は?」
「え?なんで?」
由宇が不思議そうに言う。
亜夢は今日、クラスメイトたちと出かけているらしい。
ショッピングモールに行くとか言ってたっけ?
「お兄ちゃんって距離離れるとすごい頻度で電話しだすんだよ。寂しいのかな?」
「ふーん…電話しないってことは…あ、もしかして」
嫌な予感を覚え、由宇を連れ部屋に戻る。
ゼロヒトは置いていく。
今のテーブルには電話がなりっぱなしのアムのスマホがあった。
電話に出る。
『よ゛がっ゛だ〜〜!』
「バカじゃねーのお前、俺のスマホに連絡すればよかったじゃん」
『確かに』
ハァ…
「スマホそっち持って行こうか?」
『あー…大丈夫…』
「そう…そっちはどうなんだ?」
『プラモ買ってもらった!』
「…ヨカッタネ」
『なにその呆れたような』
「お友達を困らせないであげてね…」
電話を切った。
「ホントお兄ちゃんバカね」
「これでこそ俺様のアム」
いつのまにか玄関口にいるゼロヒト。
「なんでアナタはそんなに自慢げなんですかね…」
ちゃっかり「俺様の」とか言ってるし。
「ねぇW.H.I.T.Y.?お兄ちゃんと同期できてる?」
『マスターのアクセサリーとの同期75%です。電波が悪いですね』
「なにその機能」
『ネットワーク経由でマスターのアクセサリーと同期しています』
アクセサリー…
って、あれか。
変身の時に握るやつ。
『魂能による産物であれ、実際の物質であることは違わないためプラグでも繋げばイケます』
あれUSB刺さるんだ…
「お兄ちゃんすぐ迷子になるから」
「今日は友達といるって言うから大丈夫なんじゃない?」
さっきからスンスンスンスン匂いを嗅ぐ音がうるさい
「ゼロヒトお前さぁ…人の毛布嗅ぐとか恥ずかしくないの?」
「なんでだ?」
「キッショ」
「俺だって泣くんだぞ?」
と、相変わらずのゼロヒトと会話を交わしていたその時、耳をつんざくようなけたたましい警報が鳴り響く。
《全戦闘隊員に告ぐ!東京都月谷市◯◯町△-×-◻︎にて警報級大型能魔が出現!警戒レベルは6!周辺住民の避難と早急な討伐を求む!繰り返す!東京都月谷市◯◯町△-×-◻︎にて警報級大型能魔が出現!警戒レベルは6!周辺住民の避難と早急な討伐を求む!》
ゼロヒトさんの再登場。




