第十三話 沸騰の絶対零度
それは、あまりにも一瞬の出来事だった。
焔の壁が『凍る』。
溶ける。
剥き出しになる能魔。
能魔も凍りつく。
動きが鈍り…
止まる。
それを彼は金属バット?で殴る。
赤黒い宝石となって砕け散る。
生物を殴る音ではない。
ぱきん。
あたりは冷え、いつのまにか森の火災も収まっている。
圧倒的なまでの実力差。
見入っていた。
ふと。
男がこちらをまっすぐに見据える。
彼の思考は読める。
ナズーは読めない人ばっかりだったもんな。
本来ならこうなんだよこう…
(亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢…)
ゾオオオッ…
亜夢の「逃げろ」の意味がわかった気がする。
考えるより先に体が反対を向き、全速力で駆け出した。
追ってこない?
いや。
冷気がまっすぐこちらに向かってくる。
寒い寒い。
足の回転を上げる。
「遅ーい!私逃げろって言ったじゃーん!」
「理由を言えよ理由を!なんだよあいつ…なんだよあいつ!」
目前を飛ぶラピッドマン。
軽く口論を交わしつつ本部へと走る。
「待って走って何分?」
「今の速度維持したら15分くらい?」
「うわーおわったー」
ひゅん。
後ろから礫が飛んでくる。
振り向くとすぐ後ろにはあの男。
めっちゃ睨んでるめっちゃ睨んでる。
何かやらかしたか俺…?
(亜夢亜夢亜夢亜夢亜夢…)
物理的に寒い。
あいつの思考で感じる悪寒。
足元まで凍り出す。
まずいぞこれは…
速度が落ちる。
亜夢が離れていく。
追いつけない。
捕まる…っ。
「あ、おししょーだ」
轟音。
真っ白なスーパーカー。
一瞬ドアが開き、俺と亜夢は引き摺り込まれた…
■
『よう』
後部座席に2人。
「おししょー!助かったー!」
『まずお前は装甲を解け!車が傷つく!今日おろしたばっかだぞこの車!』
運転席に座るは…
は?
棒人間。
何を言っているんだろう…
比喩ではない。
鈍色の細い棒状の体。
頭に当たる部分は白い球体。
目や口はなく、表情が読めない。
声が反響して聞こえる。
何より
(ぽやぽやぽやぁ〜…)
思考が軽すぎる。
師匠?
こんな人が?
小学生でもしっかりと考えが読めるのに?
「お゛に゛い゛ち゛ゃ゛ん゛ん゛ん゛」
ビクゥ⁉︎
気づかなかった。
助手席に座る。
もう1人の亜夢?
亜夢より少し吊り目で、妹?
よく似ている…じゃなくって。
この子も読めない…というか。
『読ませてくれない』
目を瞑ると人の思考の音で周囲が擬似的に見える。
原理は超音波に近いのだろうか。
亜夢も読むことはできないが、「ノイズ」は聞こえるのだ。
彼女…亜夢の妹は「読ませない」。
まるで彼女の周囲だけぽっかりと穴が空いてるような…
「全速前進!ゼロヒトから逃げるぞぉ!」
『何やったんだお前〜…あいつとは接触禁止だろ?』
「それはあいつに言って。私悪くない」
「ゼロヒト誰…?」
「あれ」
車の後ろを指差す。
鬼の形相でこちらに向かって走る男、ゼロヒト。
「氷室零壱…やばいやつ」
「確かにやばいわあいつ」
「おにいちゃんの厄介ファンだよ」
「怖〜…じゃなかった、あなた方は?」
『アリマ少年…それ今か?』
「ゼロヒトが狙ってるのアリマくんだよ」
「なんで⁉︎」
「さぁ、ついてからのお楽しみ」
ゼロ度の炎みたい?
知らないかですねぇ




