065 エマージェンシー
響く警告音。
進むカウントダウン。
「強制排除!? 止まって、止まってぇ!」
どのくらい気絶していたのかはわからない。
しかし、仲間もここにいるかもしれない。
意識を失う前の状況と、頭上の様子からすれば、ヒスイは落ちてきたのだと考えるのが自然だ。
ならば自分だけではなく、仲間もこの場所にいるかもしれない。
そんななか、状況を把握する前に強制排除と告げられて、ヒスイは焦った。
周囲を見回しながら思ったことがそのまま口から出る。
よくわからない機械ほど怖いものはない。
意図がわからないものが、強い力を無機質に振るうのだから。
せめて、何のための物かがわかればいい。
何もわからず動いていて、なおかつ強制排除だとか宣告してくるのは恐ろしいことこの上ない。
殴って止めようにもどこを殴ればいいかもわからない。逆効果になることもありうる。
それでも何か手掛かりはないかと視線を巡らせ、表示されている数値から何か読み取れないか眉を寄せる。
だが、事態は予想外の方向へ進んだ。
『停止信号を確認。責任者不在。発信者をスキャン開始。終了。原住生物と確認。別アプローチによる確認を開始。あなたは当艦への命令権者か?』
『二十一。二十。十九。十八。十七』
カウントダウンと、独り言のような言葉が同時に進行していた。
どこから発せられているのか、スピーカーらしいものは見当たらず、どっちから聞こえてくるのかもわからない。部屋全体が音を発しているような気さえする。
「え、命令はわからないけど、一旦強制排除は止めてほしいの!」
『暗号言語による返答を確認。カウントダウン停止。状況把握を優先。対象を仮認証。限定的な命令権を付与』
『十三。十二。カウントダウン停止』
なんだかわからないまま、カウントダウンが停止した。
言っていることから推測すると、この音声は、暗号言語とやらにヒスイが答えたことで、一旦話を聞いてやろうという態勢になったということだろうか。
またしても、謎の翻訳能力が役に立ったらしい。
この能力も原因不明で少々不安があるのだが。
この際、役に立つならなんでもいい。
この声はこの場の管理者。当艦というからには、ここは艦なのだろう。その乗組員か、管理AIかといったところだと思われる。
ヒスイのつたないSF知識から推測できるのはその程度だ。
ただ、責任者がおらず、非常時の判断を条件付きとはいえ任せられているところを見ると、だいたい立ち位置は想像できた。
『命令権者に情報、及び指示を要求。指示がなければ強制排除カウントダウンを再開する』
「えっ、あっ。ええと、ここは何? あなたは? ここで何をしているの?」
ひとまず、当たり障りのないことを尋ねておく。時間稼ぎである。
それはそれとして、必要な情報でもあった。
『当艦は資源採取艦“須弥山”。音声は当艦の予備管理知能による合成音声。資源採取任務を遂行中。惑星周期にして約七億年経過。進捗十三パーセント』
どこかの不死帝よりも数字がアバウトである。
ヒスイが理解できる言葉に翻訳されているのだと思うが、固有名詞は……いや、それよりも。
「七億っ……!?」
桁が違う数字。
地球であれば、恐竜の時代? それよりももっと昔だろうか?
とんでもなく壮大な話になってきた。
ただ、そんなタイムスケールでは、ヒスイがついていけるような問題ではない。あまりに規模が大きかった。
「そんなの、どうやって……」
『プレート移動により圧力を加えつつ集積を――』
「あ、ごめんね、詳しい話はいいや」
衝撃も興味も、一旦忘れて切り替える。
今はもっと重要なことがある。
混乱を抑え込み、別の情報を聞き出すことにした。
「乗員は? 艦内に私以外に侵入者はいる?」
『艦内スキャン。破損を確認。自動修復を開始。奉仕種族三。原住生物六。魂呪体多数。排除を推奨』
「待って。それぞれの様子はわかる? 映像とか。……奉仕種族と魂呪体って?」
『中央ディスプレイに表示』
中央がどこかはすぐに分かった。
ここには踏み込ませたくないのだろうという仕切りの奥の空中に何枚かの映像が立ち上がる。
三次元ディスプレイではなく、二次元映像だった。固定カメラの映像なのか、斜め上からの視点だ。
そのうち一つは、よくわからない大型の機械をドワーフが二人、調べているようだった。
一見の印象では、ドワーフに見せてもらった鍛冶場に近いように思えた。
『奉仕種族とは、原生生物を加工し作り出した労働力。資源の採取、加工の一部を委託している』
別の一つでは元聖女たちとドワーフ、そして、エルエルヴィが映っていた。
元聖女たちは金属のインゴットを手に、骸骨たちを殴りつけている。
皆、鎧がなくなって動きが軽快だ。
エルエルヴィが魔法で援護していることでどうにか均衡を保っている。
アンデッドと一緒の場所に落ちたのか、集まる過程で敵も寄ってきたのか。
『魂呪体とは、負のエネルギーで魂を保護し、生物的な限界を無視して活動を続ける亜生物』
「このインゴットは、魂光鋼?」
彼女たちがいる場所には、インゴットが多数積み上げられていた。
そして、インゴットで骸骨を殴るたびに光を放っている。
『加工資源倉庫の一つ。採魂発光金属のインゴット』
「それは?」
『微細な放出魂エネルギーを利用して発光する金属。主に居住区の光源として利用される。魂呪体に接すると分解を促進する副次効果がある』
「魂を解明されてるの?」
『肯定。論文を提示する必要?』
「それはいらない。この人たちを助けられない?」
『原生生物を救助?』
「えっと、そう、原生生物と、奉仕種族を助けたいの。副長がいないな、どこだ?」
いくつもある映像からまだ見つかっていない副長を探す。
多くはアンデッドが通路らしい場所をうろついているところだ。
そして、ほどなく見つかった。
「あれ、私?」
副長のいる映像には、ヒスイの背中もまた、映っていたのだ。
副長が、機材の陰に隠れてヒスイの背中をうかがっている。
手を振ってみると、映像の中のヒスイも同じように手を振った。
すぐ後ろにいる!
ヒスイはバッと振り返った。
「副長?」
「ヒスイ殿……」
副長はバツが悪そうに現れる。
『セキュリティドローンを起動。魂呪体の排除を開始』
そうしている間にも、予備管理知能は働いていた。
「先ほどから何を言っているのだ? 会話しているようにも見えるが、何を言っているのか全くわからん」
「えっと、どうやらここで遠くの様子を見ることができるみたいです」
二つの相手に対応しなくてはならなくなって、ヒスイは慌てる。混乱しておかしな失敗をしてしまいそうだ。
「ちょっと待っていてください。いえ、この映像を見ておかしなところがあったら教えてください。詳しいことはあとで。この対応が重要です」
「わ、わかった。この、古鉄殿たちに何かが近づいているぞ」
「え!?」
どうやら、艦に向けて喋った言葉は副長には理解できないらしい。
だがまあ一旦それは棚上げして、ドワーフ二人の映像に目を向ける。
そこでは、腕が宙に浮いて、機械に夢中のドワーフたちの後ろから、忍び寄っているように見えた。
「腕!? ああ、この場所に声を届けられる!?」
『通信を接続。どうぞ』
「何か来てる! 逃げて!」
あの腕は、不死帝の腕だ。マジカルナックルが掴んでいた腕は、轟炎竜の炎で焼き尽くされずに残っていたらしい。
声を受けて二人のドワーフは跳び上がって驚いて、そして宙に浮いている腕を見てもう一度驚いた。
そしてハンマーを取り出して応戦しようとする。
しかし。
腕はドワーフではなく、機械の方を殴りつけた。
腕一本とは思えないパワーが発揮され、機械は引き剥がされるように打ち上げられてぐしゃりと潰れた。
アルミ缶を踏みつぶすようにあっさりと、その機械は潰された。
『エマージェンシー。奉仕種族用加工施設が損壊。セキュリティドローン優先度を変更』
それを見て、ヒスイと副長は驚きで固まってしまった。
しかしすぐに、ヒスイは気づく。
もう一方の腕は?
片腕が無事ならもう片方も無事である可能性がある。
「っ! 損壊させた腕と同等のアンデッド、ええと魂呪体?はどこ!?」
翻訳の力で通じるかもしれないが、念のため言い直して、もう一本の腕がないかを探す。
『再スキャン。腕状の魂呪体は発見できず。負のエネルギー量を再スキャン』
じりじりと焦りが募る。背中に嫌な汗をかいてしまい、服がべったりと張り付いていた。
面白かった、続きが気になると思ったら、いいねと評価をお願いします。




