063 成長
その光は暖かく、力強く、希望に満ち溢れていた。
ほとんど同時に動いたのは聖女セレナである。
「神よ。魔を祓い給え!」
不死帝の仕業にしては、あまりにもポジティブな感覚を受ける謎の光。
しかしなんであれ、敵のやることである。聖女セレナはずっと即座に反応できるように備えていたのだろう。
そして謎の光が消えると、一斉に様々なことが起きた。
愛と勇気の歌の効果がなくなり、その影響でマジカルナックルの姿が通常モードに戻される。
聖域の輝く境界が光を失う。
聖なる光が瘴気に呑まれていく。
「こ、これは!?」
力が抜けてマジカルナックルのスピードが落ち、不死帝に追いつくことが出来なくなる。
そして自然と両者は距離を取って動きを止める。追いつけないなら追いかけるのは疲弊するだけだ。
「なにをしたの?」
『自覚がないか。聖女どもを見てみよ』
そういわれて聖女に目をやると、すぐに分かった。
聖女たちが、二十代半ばほどの美しい女性に成長していたのだ。
身長が伸び、顔つきが大人びて、困惑し、焦っている。
「これは……!」
『定命のものにとって、成長と老化は表裏一体。加害を排除する聖域を展開する聖女対策を考えたとき用意した解』
「通常なら歓迎すべき成長」
『その通り。成長による加齢。それだけで聖女は力を失うだろうと踏んだが、実験は成功のようだな。くははははは』
見たところ、全員が十年ほど年を取っているようであった。
副長もだ。
ドワーフとエルフは見た目にわからない。
『すぐに解除したのは慧眼。だがわずかな時間でも充分な効果は出たようだ』
聖女は五年ほどで、その役目を終えるという。
それが年齢か、実時間かは、今、答えがわかった。
聖女たちは顔を青くして歯を食いしばっている。
『しかし其方は年を取らぬな?』
「なぜでしょうねえ」
魔法少女に変身した姿は変わらない。ヒスイが十年成長しても、マジカルナックルの姿は変わらなかった。
変身を解いたときどうなっているかわからないが、マジカルナックルは年を取らないのだろう。
しかし、年齢は変わらずとも、聖女たちからの支援が無くなったことで強化が失われた。
『もはやこの場は覆せぬぞ。ずいぶんと健闘したがこれで終わりだ』
「くっ」
聖女の力で拮抗していた以上、この場の趨勢は一気に敵側に傾いた。
瘴気が広がっていく。
「聖なる光よ……!」
光の聖女だったビアンカの光の加護も、ただの聖職者としての発動では不死帝の瘴気に推し負け、飲まれ、時間稼ぎにもならない。
「撤退だ!」
『逃がさぬがな? 効くとわかった以上、この手は知らせたくはない』
副長が判断を下し、それぞれが動き出そうとする。
来た方向は崩れており、他の通路に脱出するほかはない。
しかし、不死帝が即座に立ちふさがった。
「ヒスイちゃん!」
「それしかないか!」
聖女とドワーフたちが散開する。
それぞれが別の出口に向けて移動を始めた。
マジカルナックルとエルエルヴィ、そして副長は不死帝に向けて駆けだした。
こうなれば少しでも対抗できるのはマジカルナックルとエルエルヴィである。
副長はまた別の判断によるのだろうが、残ると決めたようだ。
『ふむ、其方らを始末するのが先か。眷属どもよ。逃げる者を足止めしておけ』
不死帝は、余裕を見せてマジカルナックルたちに相対する。
「マジカル・活性」
可能な限り身体能力を底上げする。
速度ではもう勝てない以上、こちらに気を引いて時間を稼ぐほか――
「ヒスイちゃん、全力で。ここで死ぬつもりはない」
「エルエルヴィちゃん……?」
エルエルヴィの言葉に、悲観に囚われた心を見直した。
彼女はまだ、マジカルナックルなら何かできると考えている。
「奴を倒す」
「倒すか。わかった」
『まだ何かあるのか? ならば、さっさと終わらせるか』
自粛してきた手段を顧みれば、まだまだできることはあった。
「マジカル・フレイム」
マジカルナックルの全身が燃え上がった。
自身は焼かないが、轟炎竜の炎である。
『ほう。その炎で身を守るつもりかな? だがその程度――』
余裕そうに掴みかかってくる不死帝。
マジカルナックルは迎え撃った。
燃える手で不死帝と手四つの体勢で力比べだ。
『やはり足りぬな。相応の力はあるが、長くはもつまい』
そう。
ただの炎では、不死帝を超えることはできないだろう。
だから。
マジカルナックルの最強の奥の手を使う。
「轟炎竜イグニス」
名をつぶやいた。
一度だけ力を貸そうと言った、あの轟炎竜閣下の名を。
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