062 聖女
以前は、仲間の到着はマジカルナックルの役目の終わりだった。
強敵との戦いでは、戦力が大きく劣るマジカルナックルは、仲間の魔法少女が到着した時点で戦線離脱する、時間稼ぎをする場合がほとんどだったのだ。
それは被害を抑えるためには重要な役割だ。
だが、最後まで戦い抜けないことに、歯がゆさを覚えた日もあった。
だが、今は最後まで役目が持てる。
聖女たちの援護が、今までいない力を与えてくれる。
聖なる光が瘴気を取り除き、格の低いアンデッドを祓う。格の低いといっても、聖女や魔法少女、高位の魔法使いが居なければ対抗できないだろう。
風が毒のガスをさらっていく。
精緻な制御が、いたずらに空気をかき混ぜるのではなく、毒性のある気体を敵側の奥に押しのけていった。
聖なる結界は、今度こそ正常に働いた。
結界の聖女による宝石触媒の補助がなくなったことで、最低限の規模で陣を展開、大樹から根を伸ばして足場を固めている。
愛と勇気の歌は継続してマジカルナックルに力を与えてくれる。
「待たせたのう」
ドワーフたちが横に並ぶ。
「無事で何よりよ。あれが不死帝ですって。倒しても知らないところで復活して滅ぼせない」
「話は聞いておった。ここから追い出し、復活までしばらくかかるだけでも大いに価値がある。そうじゃろ」
マジカルナックルと不死帝の会話は共有できているようだ。
エルエルヴィあたりが魔法でどうにかしたのだろう。
「何より、一矢報いる機会。長年やられてきた分を返すときじゃ」
ドワーフたちが持つ魂光鋼のハンマーが光を強める。
「わかったわ。それじゃあ突っ込んで殴る。わかりやすくいきましょう」
マジカルナックルがゴーレムを防ぎつつ、みんなで不死帝を殴る。
手数で有意な時はやはりこれ。数の力。
『おっと、そうはいかぬぞ。貴重な個体を見せてやろう』
しかし敵もさるもの。
聖なる光の中でも動いてくる。さすがは不死帝というべきか。
影の中から新たなアンデッドを呼び出した。
不死帝同様、人型の、肉がついたまま、しかし腐っていないタイプ。それも少女の姿をして武装している。
生気がない虚ろな目でこちらを見てくる彼女たちは三人。
「あれは……まさか!」
聖女ビアンカが悲痛な声を上げる。
心当たりがある……?
まさか。
「あれは、過去にやられた聖女ちゃんじゃ……!」
『その通り。やはり、聖なる力への耐性もあるようだな。其方ら聖女の肉体は、今後もこうして活用していくとしよう』
きわめてグロテスクな笑みを浮かべ、聖女アンデッドを前に出す不死帝に、強烈な不快感を覚えた。
別に今までとやっていることは変わらないのだ。
しかし。
……マジカルナックルは言語化することをやめた。
この気持ちはそのままの形で持っておく。
そして、不死帝自身も、聖なる光によるダメージを受けていないように見える。
体から湧きだす瘴気と常に相殺し合っているように見えた。
ただ、それは瘴気によるこちらへの影響がなくなったことを意味する。
「あの子たちは私が」
マジカルナックルはそう言い残して前に出た。
瘴気の重圧から解き放たれたマジカルナックルのスピードに、聖女アンデッドたちは反応できていない。
「マジカルパンチからのマジカルつる草なにこれ何か吸われてる?魔力と生命力?そういうアンデッドなの?エナジードレイン?そうでもこれくらいなら」
マジカルパンチで三人をまとめ、つる草で縛り上げる。
淡々とつぶやきながら聖女アンデッドの動きを封じた。
接触部分から力を吸い取られる感覚があった。
アンデッドに魔力奪取を仕掛けた時と似た不快感だが、少しだけ違う。
これも、ファンタジー創作で時折見かける設定、エナジードレインに似ている。
そして絶対量は今のマジカルナックルであれば、無視できる程度であった。
無限に湧き出る愛と勇気はびくともしない。
「ごめんなさいね。マジカル・浄火」
動けないまま、一瞬で焼却した。
葬送の炎。
自粛していた炎の魔法を瞬間的に力を込めて。つる草ごと焼き尽くした。
「お姉様……」
後ろは振り向かず、不死帝を見る。
『ふむ。つまらぬな。いや、其方が想像以上に強力なだけか。だが』
「全部、こいつを倒してからにしよう」
怒りに身を任せるのはマジカルナックルのやり方ではないが。
今は怒りも力に代わるようだった。
「「神よ。かの者たちに我と同じ恩寵を」」
そのとき、聖域の中で歌い続ける聖女スカーレットと聖女クロエが、歌の中に今までとは異なる歌詞を混ぜ込んだ。
すると、さらなる力が体に宿るのを感じる。
「裁きの加護と再生の加護、そして聖域の力を宿しましたわ! 奴を倒して!」
聖女ビアンカが
マジカルナックルだけではなく、三人のドワーフにも、同じ加護が与えられていることがわかる。
聖女の加護が一時的に拡張されているのだ。
これもまた、聖女の切り札の一つ。
聖域と聖女の歌とあわせてようやく使える儀式加護。
そんなことまでわかる。
二人の聖女の想いの一部が伝わってくる。
怒りと悲しみ。感謝と希望。マジカルナックルの力がまた増した。
希望の心は魔法少女の力となる。
聖女たちの心の力は、魔法少女に匹敵する強さを持っていた。
こうしている間にも、聖女セレナとエルエルヴィが、敵の遠隔攻撃を防ぎ、ゴーレムを解呪して無力化しており、また、体の大きな副長は不測の事態が起きた際、聖女たちを身を挺して守るために備えている。
ドワーフたちが駆けだした。
不死帝はなおも笑っている。
マジカルナックルは――
一息に飛び込んだ。
「マジカル・正義パンチ!」
正義の神の裁きの力が自動的に付与される。
自然の摂理から外れ命をもてあそぶ罪人である不死帝を裁く拳。
それが受け止められた。
『おお! 想像以上だ。これは何度も受けられぬな』
なおも余裕そうな不死帝も、接触した場所から力を奪ってくるようだった。
触るだけで力を奪うなんてインチキじゃないか、とは言えない。
マジカルナックルも同じことをやったから。
通用しなかったが。
同じ方法で防ぐことはできない。
通用しなかったのはアンデッドの性質だ。
マジカルナックルはアンデッドではない。
「マジカル・連続パンチ」
だからマジカルナックルは力を奪われるのを恐れず、防がれた腕をつかんで魔力打撃を打ち込み続けた。
『なんだと?』
完全なノーモーションで攻撃を連打できるのは、マジカルナックルの単純な魔法による数少ない強みだ。
人体とは思えないほど強靭な不死帝の腕に、マジカルナックルの指が食い込んでいく。
そのすきに、ドワーフたちが魂光鋼のハンマーで殴りかかった。
『ふむ、面倒な』
ガキンガキンと、肉を殴っているとは思えないような音が、ハンマーが振り下ろされるたびに響く。
しかし、音が鳴るたびハンマーの放つ光が強くなっていくのを見れば、効果があることがわかる。
『裁きの加護はなかなかに響く者よ。だが、このまま殴り続ける気かね? いつまでかかるか分からんが』
「そんなことを言って、いやそうな顔をしているじゃない。マジカル・浄火!」
『それは痛そうだ』
マジカルナックルが、浄化の炎で焼こうとすると、不死帝はゆらりと飛びのいた。
腕はマジカルナックルに掴まれたままである。
肩から先が分離するようにあっさりと外れたのだ。
そして残った腕は一瞬で燃え尽きる。
『さすがに聖女の援護を十全に受けていては厄介か』
離れた場所で腕を生やしながら、不死帝は独り言のように吐き捨てる。
ドワーフたちが飛び掛かる。
しかし、不死帝が腕を一振りすると空中で弾き飛ばされた。
『この日この時に、其方らのような者どもが現れたのも、また定めか。世界は余を妨害したくてたまらぬらしい。だが余は諦めるつもりはない。そのための準備をしてきたのだからな』
「なにを言っておる!」
「ほうっておけ! とにかく殴るのじゃ!」
「嫌になるほど思い知らせてやるぞ!」
弾き飛ばされようと、もともと頑丈で、再生の加護まで受けているドワーフたちはすぐに立ち上がり、不死帝に向けて駆ける。
マジカルナックルも、再び不死帝に向かう。
すると、不死帝はマジカルナックルから距離を取った。
マジカルナックルの速度に負けない速さで横に跳ぶ。
上。天井に着地。地面へ。次々と移動する。
マジカルナックルは追随するが、捕まらない。ドワーフたちは付いて来れず、暫くの間一対一の鬼ごっこが発生する。
「速い……!?」
想像以上に活発に動く不死帝は、縦横無尽に逃げ回り、マジカルナックルはそれを追う。
捕まえて足止めできればダメージを与えられる。
だが捕まらない。
膠着する状況。
ドワーフたちは聖域まで下がり、聖女やエルエルヴィたちと言葉を交わしていた。
向こうは向こうで任せておこう。
不死帝を自由にさせないために、マジカルナックルは追いかける。
そしてついに状況が動く。
『さて、そろそろ逃げるのも終わりとしよう。ゆくぞ』
不死帝が言ったその時。
周囲をまばゆい光が包んだ。
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