058 突撃
聖域の加護は、設置した地面そのものを崩落させることで破られた。
「みんなは一旦無事そうだけど、孤立しちゃったわね」
陥没しない地面にまでたどり着いたマジカルナックルは、この広い空間の中ほどにいる。
後ろからは崩れる音が続き、前方は敵だらけだ。
それも一人だけ。
エルエルヴィの幻影も消えている。
絶望的だ。
だが本当の絶望には程遠い。
わずかに届く愛と勇気の歌が、仲間の無事を示してくれている。
マジカルナックル史上最強は更新中。どこまでできるかやってみるしかない。
生き残れるか?
やってみないとわからない。
ならば動こう。
愛と勇気は溢れている。
マジカルナックルは躊躇なく前進を選択した。
それは勇気の歌の影響を受けた蛮勇だろうか?
いいや。勝ち目が見えない、先が見えない戦いは何度も経験してきた。
それでもマジカルナックルは生き残ってきた。
崩落が落ち着けば味方が動けるようになる。
それまで味方が生き残っている必要がある。
撤退するにしても、攻めるにしても。
毒をばらまかれたらまずい。
空気より重い毒ガスを撒けば、崩落して窪んだ範囲に滞留するだろう。
他にも更なる追撃が用意されているかもしれない。
こういう状況を打破するためには、やはりこちらが動いて対応させる。
これに尽きる。
さきほどもそれをやって、その結果が今だが。
先ほど以上に、今こそが、相手の行動を拘束すべき時だ。
「マジカル・活性っ!」
マジカルジュエルから湧き出る魔力を自己強化にさらに注ぎ込む。
あふれる生命の力。
これで多少のことは怖くない。
「ひどい目に遭わせてくれたお礼をしましょう」
『ククク。何をしようというのだ。もはや――』
「いまから」
左腕から魔法の根っことつる草を噴出させる。
無限の魔力が後ろへの道をふさぐほどの植物を噴出させ、反動でマジカルナックルを敵の方向へ押し出していく。
まだ動き出していない壁ゴーレムの隙間を植物で埋めながら、天井に着地。植物を切り離せば、周辺の敵は植物に埋もれて身動きが取れなくなっている。
シンプルな物量で妨害する。物理か魔法かは別として敵とやったことは同じだ。
これで後ろへの攻撃の時間は稼げるだろう。
「殴りに行くから」
天井を蹴って敵の中心へと飛び込んだ。
マジカルナックル自身が思っていたよりも高速に、弾丸よりも早く、敵の迎撃も追い付かない間に、あの豪奢な杖が目の前にあった。
「マジカルパンチ!」
とりあえず杖を殴り飛ばす。
武器は引き離しておくものだ。
そう思って打撃したところ、杖は魔力打撃を受けて砕け散った。
『クカカ。やる!』
『クケケ』
クカカの骸骨が腕を振り下ろす。こいつはリッチなのか、スケルトンなのか。
クケケの骸骨がとび退りながら黒い魔法弾を放ってくる。死の魔法だ。
「マジカル・奪取! ……がはっ!?」
魔法弾の軌道から体を逃がしながら、クカカの腕を受け止めつつ、魔力奪取で迎撃する。
そして魔力を奪ったと思った瞬間、マジカルナックルは全身を蝕むような痛みを感じて体をこわばらせた。
クカカの骸骨の攻撃は、そのままマジカルナックルを弾き飛ばして、壁に叩きつける。
ティアラとヴェールがはじけ飛んで、変化前の軽量金属の兜に戻る。
真っ二つになってカランと転がった。
「マジカル奪取が効かない? まさか」
全身が痛い。
しかし痛いだけだ。
魔法少女の力でダメージは衣装に転嫁する。今回は兜が全て受け止めてくれた。
すぐに立ち上がり、切り込んでくる骨の騎士をマジカルパンチで迎撃する。
思い当たることがあった。
一部のファンタジー作品では、アンデッドに回復魔法をかけるとダメージを与える場合がある。
この世界でもそのような様子はあった。
同じように、アンデッドに吸収攻撃を仕掛けると、相手が回復し、使った側がダメージを受ける。そんな作品があった。
理屈を考えるならば、不死の力と生命の力の相反性が、奪取という性質と何かしらの作用を起こす結果だろうか。
真実はどうあれ、これまでは問題なく機能していたマジカル・奪取が、クカカの骸骨には効かず、マジカルナックルの方がダメージを受けた、というのが全て。
動きを止めてしまうほどの痛みを発するのでは、他でも試してみるわけにはいかない。
骨の騎士に囲まれつつあるので打開する。
強引に踏み込んで甲冑ごと殴り飛ばした。
技量も速さもある強敵だが、今のマジカルナックルはその上の速さを出せる。
技で対処されそうになっても、それを見てから変化して踏み込むのは容易だった。
しかし、ただの魔力打撃は通りが悪い。
魔法防御が施されているのか、単純に強固なだけではないと感じる。いや、強固でもあるのだが。
吹っ飛んでいった個体はすぐに立ち上がり復帰してくるだろう。
五体を相手にするのは骨が折れる。骨はあちらだというのに。
さらにクカカの骸骨が参戦するつもりなのか様子を見ており、クケケの骸骨も魔法を詠唱している。何をするつもりかわからないが止めたいところだ。
クククの万年宰相だけは、まるで置物のように動かない。
「万年宰相はうごかなくなったわねえ!」
情報はダメもとで動いて得るものだ。
速さに任せて骨の騎士を別の骨の騎士の盾にするように動いてそのまま打撃。二体を吹っ飛ばして距離を得る。先に弾き飛ばしていた一体が戻ってきて三体。
『クカカ。よもや宰相の偽装を見抜くとはな!』
踏み込んできたクカカの骸骨。こいつは骨が太くて一回り大きく、骨の騎士と違って甲冑を纏ってないが、動きは同等以上で力も強い。大きな犬歯が目立つので、大柄で体が強い種族のアンデッドだろう。
筋肉もついてない分際でパワーがあるのは気に食わないが、それが魔法のある世界か。
「当然よ!」
なにが当然なのかはマジカルナックル自身もわからないが、とりあえず話を合わせておいた。
偽装とは?
なにか偽装があったか?
そう考えると答えにすぐにたどり着く。
「杖が本体なんて姑息な隠れ方をするじゃない!」
『クカカ! 魔法の使い手などそういうものよ!』
正解らしい。
ならば万年宰相は倒せたのか?
何らかの手で復活しうるのか?
ひとまずこの場は無力化できたと判断できるか?
確かめている余裕がない。
何にしても攻撃力不足を補って敵の数を減らさなければ。
五体の骨の騎士とクカカの骸骨に囲まれて、クケケの骸骨もマジカルナックルに注意を向けている。
足止めとしては機能している。
しかし手数が厳しい。次の手が必要だ。
マジカルナックルは高速で動き、その速度に見合う早い判断を強いられていた。
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