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あぶはちとらず改稿版 ~全員片思いのすれ違い群像劇~  作者: 井氷鹿
第2章 Fall between two stools.1 1995年 春 崇直編

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20.入り日良ければ明日天気2 Red sky at night , sailor’s delight.

 デザートまで堪能して、一人二千円で治まった。

 田中、やるじゃん。

 レジで会計をしてる間に、シェフが見送りにやって来る。

 座ってたせいか気が付かなったけど、側に立ったらけっこう細いんだなぁこの人。

 田中がずっとごきげんなのは、この先生の店に来たからか、オレたちと飯を食ったからか。

「今日はご来店いただき、ありがとうございました」

「ごちそうさまでした」

 和やかな雰囲気で挨拶を返し、紅緒はシェフと握手までしていた。

 シェフの手は温かいらしい。

「また、来ます」

 目が合ったので、思わず言ってしまったぞ。

「是非」

 何だ、その嬉しそうな笑顔は。ドキッとしたじゃないかよ。 

「お待ちしております」

 もう一回来たくなる店ではあるな。笑顔を返しとくか。

 階段を登り、路地から出て明治通りに向かい歩き出す。 

「田中、美味かったよ。いい店紹介してくれてありがとう」

「よせよぉ、笠神。そんなに言われたら恥ずかしくなるわ」

 どっちなんだ、やっぱり分からん。 

「また連れてってくださいね、ナオト先輩」

「べーちゃんまで。嬉しいなぁ、言ってくれれば何時でも連れて行くよ」

 照れてやがる。たまには一緒に飯食ってやるか、田中よ。

「さて、オレらもそろそろ帰るが」

 おっとそうだった。司法研修所プチ見学ツアーするんだった。

「お前らマジで付いてくる気?」

「うん。行くよ」

 と紅緒。隣で亘が頷いている。

 マジかよ。

「え、司法研修所に来るの? 中は入れないよ」

「崇ちゃんから聞いたから知ってる、ね」

 と隣の亘に同意を求める。

「ああ、入れなくても門から覗けるって言ってたから」

「変わった趣味してるなぁ」

 覗きが趣味ってことじゃねーぞ。紅緒も亘も、たぶん。

「そう? どんなところか見るだけだから、ね。先輩」

 あんな建物見て何が面白いんだ、と田中は頭を捻り紅緒に聞いていた。

 建物自体に興味はないよ、流石のコイツラだってどういう場所かが気になるんだけだろ。

 ま、興味本位なのは否めないが。

 亘と紅緒は司法研修所の門まで付いてきて、遠目で去年落成したばかりの庁舎を眺め帰っていった。

 帰りは散歩がてらに歩いて駅まで戻るんだと。

 歩けば二、三十分の距離だから散歩にはちょうどいいかもな。

 それから田中と寮へ戻り、明日の打ち合わせを軽くして部屋に戻った。

 


 ベッドに入ったは良いが、しかし眠れん。

 くそう、くだらんことは考えんな。

 布団に入ったら、頭を無にしろ……考えるな。

 寝る前は。

 

 オレら兄弟と紅緒は、言ってみれば兄弟同然に育った。

 家に帰っても誰も居ない事が多い紅緒の家。

 逆に、その隣のオレの家というか社務所に行けば、必ず誰かが居た。

 お袋も居れば、親父に輝爺に禰宜の加瀬さんや、巫女さんたち。

 まー爺は、居たなぁ。家じゃなくて巫女さん相手に入り浸ってたな。

 変化が起きたのは、小三の二学期。夏休み明けの九月。

 イギリスから亘が転校してきてからだ。

 

 日本人なのに、初めて日本に来たという変な奴。

 なのに日本語を流暢に話し、神社の鳥居を面白がって、やけに日本の文化に詳しかった奴。

 そして、オレと直樹を間違えずに見分けた二人目の人間だった。

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