21.入り日良ければ明日天気3 Red night at sky , sailors delight.
オレと直樹は一卵性双生児だった。
子供の頃は、同じ格好をしたらまず見分けは付かないくらい似ていたんだよな。
特に大人は、簡単に騙せた。
但し、亘と紅緒は除いてだ。
よくクラス入れ替わって、遊んでたっけ。
同じ顔で同じ遺伝子を持ちながら、オレと直樹は徹底的に違ってたから。
―――――――――― ここから13年前、1982年の夏
忘れもしない、あれは小学四年の夏休みだった。
あの日は夜になっても蒸し暑くて、なかなか寝付けなかったんだよな。
それでもようやくうとうとしかけた時。
二階の電話の音で起こされたんだ。
母さんが出て、そのまま階下に駆け下りる音がして。
続いて輝じいの声とバタバタとした足音が響き、しばらくしてすぐ隣の紅緒の家の方からまー爺の声が聞こえて来たんだ。
輝じいとまー爺の声。
慌ただしくドアの閉まる音がし、車のエンジン音が響いた。
なんとも言えない、ゾワゾワした気分になってすっかり頭が冴えてしまった。
家の婆ちゃんが亡くなった夜のことを思い出し、増々嫌な気分が強くなっていって。
それからどれくらい経ったのか、再び二階の電話が鳴ったんだ。
しばらくして両親の話し声が聞こえ、父さんが階下へ、そして母さんの足音が部屋に近づいてきた。
咄嗟に反対を向きオレは寝たフリをしたんだ。
ドアが開き、電気が点く。
さっきの騒ぎで目を覚ましていた直樹に、母さんが言った。
「直ちゃん、二人を起こして。着替えたら、車に乗って、今から病院へ行くから……」
母が部屋から出ていくと直樹が話しかけてきた。
「起きてんだろ。なんだかヤバそうだ。母さんの様子がおかしい」
オレが二段ベッドから降りると、直樹が樹を起こしていた。
オレは自分の着替えと一緒に二人の分も適当に引っ張り出して放り投げる。
「ほらよ樹。ベーが大変らしい、急げ」
そういうと、樹も分かったと着替える程度には目を覚ました。
Tシャツと短パンに着替えて外に出たら、早く乗れと父さんに急かされた。
ドアを締めると直ぐにワゴンは走り出した。
夏休みに入ってすぐ、紅緒は父親の実家へ遊びに行ったんだ。
事故はその帰り道で起こったらしい。
道中、親父が簡単に事故の話をしてくれた。
信号待ちをしている紅緒たちの車に、居眠りのトラックが突っ込んできたと。
「ふーん。帰りはべーと後の席が良いなぁ」
親父のその話を事故で車が動かなくなったから迎えに行くと、樹は単純にそう思った様だった。
寝ぼけて都合のいい様に解釈したのか、おっとりとした性格だから、悪い事は考えられなかったのか。
それで、母さんを怒らせてしまったんだ。
「事故にあったって言ったでしょ。べーちゃん、今手術してるの! 危ないの」
めったに声を荒げない母さんが大声で叫び、一瞬で車内の空気を凍りつかせた。
その時対向車のライトが振り向いた母の顔を照らし、泣いているのが分かったんだ。
その顔を見てようやく事の重大さが分かり、オレは心底ゾッとしたんだよ。
「叔母ちゃんたちは」
答は予想してた。でも、オレは聞かざる終えなかったんだ。
祈るような気持ちでバックミラーに映る父を凝視した。
「ダメだった」
父は前を見たまま、かろうじて聞こえる声で教えてくれた。
病院へ着くと先に来ていた輝じいと看護師が夜間入口で待っていて、父と母と何か話していた。
そのまま両親はどこかへ連れて行かれ、オレらは輝じいとエレベーターに乗った。
紅緒の両親が亡くなったと言われてから、オレの思考は停止していたと思う。直樹も樹も同じ思いだったと思う。
あれから誰も口を利いていない。
手術室のある三階でエレベーターを降りた。そこから続く廊下の先に、両開きの手術室へのドアがあった。ドアの前の長椅子に座っていた紅緒のばあちゃんがオレらに気づくと立ち上がり、輝じいにすがりついて泣き出した。
それを見てオレの頭に『ダメだった』という父の言葉がよぎる。
だから絶望的な顔をしていたんだと思う。
同じ様に表情を失くした直樹と樹に向かい、ばあちゃんが言った。
「手術はうまくいったって。とりあえず峠は越したって」
それを聞いてホッとしたところへ、手術室のドアが開く。
脇に避けたオレらの前を、ストレッチャーに乗せられた紅緒が通り過ぎていく。
看護師に誘導され、オレらは紅緒とは違うエレベーターでICUへ案内された。
小さな紅緒の頭は包帯でぐるぐる巻にされていた。
いたるところから管が伸び、機械に繋がれたような状態で、薄い掛布から覗く肩も腕も白い包帯で巻かれていた。
口から一際太い管が出ていて、これが紅緒だと言われても、にわかに信じられなかった。
オレの母とゆりおばちゃんは、周りから姉妹と間違われる程仲が良かった。
ゆりおばちゃんはおっとりした母と違い、よく通る声の持ち主で、話しが上手く豪快に笑う人だった。
二人の付き合いはうちの神社でのバイト以来だから、父より長い付き合いになる。
友人だからって理由だけじゃなく、母は紅緒の入院当初から退院したら親代わりになると決めていたらしい。
紅緒の家は不動産会社を経営している。
家の神社の管理を始め都市開発からビル管理、料亭付きの会員制クラブまで、よく分からんが、手広くやっている。
紅緒のばあちゃんが社長をしていて、夫のまー爺は昼間はぶらぶらしていて、夜は飲み歩いている様な人だったから、当時は何をしているのかさっぱり分からなかったんだ。
だから、必殺遊び人と自称してるただのジジイ程度にしか思ってなかった。
紅緒の両親はその会社の役員で、帰宅も揃って遅かった。
そのため週の大半を一緒に過ごしている兄弟同然のオレらだったから、一緒に暮らすことは寧ろ大歓迎だった。
ゆりおばちゃんには、キヌちゃんという妹がいた。
件の料亭付きの会員制クラブシンデレラのママで、割烹『灰かぶり』の女将さんだ。
料亭の大将は彼女の旦那さんで、利明さんという。
お見舞いにもよく来ていた二人だが、事情が事情なので紅緒を引き取りたくてもそれはできなかったのだ。
母が一にも二にもなく母親役をかって出たのは、急逝した友人の為に何か役に立ちたかったんだと思う。
突然友人を失った悲しみは、どうやっても埋めようはないんだろうが。




