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【第8章15話】 深まる森、揺らぐ信号

主人公は、測定器の明滅間隔が二秒から一秒へと短縮している点にだけ引っかかっていた。

それは、今の移動速度と距離の相関としては説明がつかないズレだった。

森が、濃くなっていく。


港町を出て半日。


木々が密になり、光が届きにくくなった。


足元の土は柔らかく、踏むたびに湿った音がする。


息が、少し上がってきた。


「レイ」


セラフィナの声に、僕は立ち止まった。


「測定器」


言われて、手元を見る。


測定器が、また明滅している。


さっきまで二秒間隔だったのが――


一秒半。


いや、もっと速い。


一秒。


「……加速してる」


僕は測定器を見つめた。


青い光が、速く、速く点滅する。


まるで、焦っているみたいに。


「アリスさん」


僕は後ろを振り返った。


アリスが、自分の測定器を見ている。


「……同じです」


彼女の測定器も、同じリズムで明滅している。


「距離が近づいてる、ってことか?」


マーカスが訊いた。


「……たぶん」


僕は測定器を握り直した。


「でも、わからない。時間が経ってるから、っていう可能性もある」


どっちだろう。


距離なら、近づくほど速くなる。


時間なら、後戻りしても意味がない。


どっちにしろ――


「近づいてることは、確かだ」


トーマスが前方を見た。


ガルムが、低く唸った。


「……来る」


エルネストが短く言った。


僕は測定器をポケットにしまい、呼吸を整えた。


茂みが揺れた。


最初は一つ。


次に、二つ。


三つ。


四つ。


五つ。


「五体――!」


トーマスが叫んだ瞬間、ウルフ種が飛び出してきた。


灰色の毛並み。


鋭い牙。


赤い目。


Level 1の群れ。


「散れ!」


マーカスが盾を構えた。


ガルムが、地を蹴る。


一体目のウルフに体当たり。


ウルフが吹き飛び、木に激突する。


トーマスが、二体目に切りかかった。


双剣が閃き、ウルフの脇腹を斬る。


ウルフが鳴き声を上げ、後退した。


「レイ!」


セラフィナの声。


僕は三体目を見た。


ウルフが、セラフィナに向かって跳ぶ。


「――!」


息を吸う。


空気を集める。


圧縮。


形を持たせる。


放つ。


ドンという音と共に、空気の塊がウルフに当たった。


ウルフが吹き飛び、地面に転がる。


手が、震えた。


一回。


セラフィナが、すぐに駆け寄った。


「レイ、ありがとう!」


「……まだいる!」


四体目が、マーカスに飛びかかった。


マーカスが盾で受け止める。


ウルフの牙が、盾に食い込んだ。


「重い――!」


マーカスが呻いた。


ガルムが、横から突進する。


ウルフがマーカスから離れ、ガルムに向き直った。


ガルムとウルフが、睨み合う。


一瞬の静止。


そして――


ウルフが、跳んだ。


ガルムが、それを避ける。


ウルフが地面に着地し、すぐに反転した。


五体目が、僕に向かってくる。


「――!」


もう一度。


呼吸。


集中。


圧縮。


放つ。


ドン


ウルフが横に吹き飛んだ。


でも、すぐに立ち上がる。


「……しつこい」


息が、上がってきた。


二回、魔法を使った。


視界が、少し揺れる。


あと――


三回。


いや、二回が限界かもしれない。


「レイ、下がって!」


トーマスが叫んだ。


五体目が、また跳ぶ。


トーマスが、双剣で迎え撃つ。


剣が、ウルフの首筋を捉えた。


ウルフが鳴き声を上げ、倒れる。


一体、撃破。


残り四体。


ガルムが、二体目に噛みついた。


ウルフが悲鳴を上げ、逃げようとする。


ガルムが、それを許さない。


二体目、撃破。


残り三体。


マーカスが、三体目に盾を叩きつけた。


ウルフが怯む。


トーマスが、その隙に斬りかかった。


三体目、撃破。


残り二体。


四体目と五体目が、後退した。


そして――


鳴いた。


甲高い、警告のような声。


「……逃げる気か?」


トーマスが訊いた。


でも、ウルフは逃げなかった。


ただ、森の奥を見ている。


まるで――


何かを、待っているみたいに。


「……レイ」


ガルムが、低く唸った。


「奥、危ない。逃げた方がいい」


僕は、森の奥を見た。


木々の向こう。


何かが、いる。


「……でも」


測定器が、ポケットの中で光っている。


感覚で、わかる。


「もうすぐだ。測定器が、そう言ってる」


「レイ」


セラフィナが、僕を見た。


「測定器が壊れたら、もう確かめられません」


その声に、僕は息を吐いた。


「……わかってる」


でも。


七日しかない。


戻る時間は――


「撤退するか?」


エルネストが訊いた。


僕は、測定器を握りしめた。


光が、ポケットから漏れている。


一秒間隔。


速い。


でも、規則的だ。


まだ、壊れていない。


「……進みます」


僕は答えた。


「測定器が壊れる前に、確かめたい」


エルネストが、僕を見た。


長い沈黙。


そして――


「……わかった」


彼は頷いた。


「でも、警戒しろ。何かが、いる」


ウルフが、鳴き声を上げて逃げ出した。


二体とも、森の奥ではなく――


横に。


僕たちの進行方向から、離れていく。


まるで、何かから逃げるみたいに。


僕たちは、ゆっくりと前に進んだ。


森の奥から――


音が聞こえた。


ゴォォォ


木が、倒れる音。


何かが、こちらに向かってくる。


ドシン、ドシン


重い足音。


何かが、木々を薙ぎ倒しながら進んでくる。


測定器が――


ポケットの中で、激しく光った。


一秒より速い。


不規則に、激しく明滅している。


まるで、何かに引っ張られているみたいに。


「レイ、測定器!」


セラフィナが叫んだ。


僕は測定器を取り出した。


光が、暴走している。


青い光が、一瞬消えて――


また、点く。


消える。


点く。


光の色が――


一瞬、赤く見えた。


「……え?」


でも、すぐに青に戻る。


消える。


点く。


不規則に。


激しく。


「……何が、来てる?」


マーカスが呟いた。


音が、止まった。


森が、静かになる。


空気が、重くなった。


息が、吸いにくい。


測定器は、まだ光っている。


不規則に。


激しく。


「……ガルム」


僕は訊いた。


「まだ、いる?」


ガルムが、頷いた。


「いる。見てる」


森の奥。


木々の影の向こうに――


大きな影が、見えた気がした。


測定器の光が、一瞬、止まった。


そして――


また、点いた。


今度は、規則的に。


一秒間隔。


「……行った?」


トーマスが訊いた。


ガルムが、首を振った。


「……わからない。でも、まだ何か、いる」


沈黙。


誰も、動かない。


ただ、森の奥を見ている。


測定器が、一秒間隔で点滅する。


青い光が、僕の手を照らす。


「……進むぞ」


エルネストが、静かに言った。


「でも、警戒しろ。何かが、待ってる」


僕たちは、ゆっくりと前に進んだ。


測定器を握りしめて。


森の奥を見つめて。


何が待っているのか――


それは、まだわからない。


でも。


測定器が、教えてくれる。


近づいてる、って。


もうすぐだ、って。


そう、言ってる。


僕の手は、まだ震えている。


視界は、少し揺れている。


あと二回。


それが限界だ。


でも――


進む。


それを、選んだ。


-----

(第8章15話 終)

-----

主人公は、不規則に暴走し始めた測定器の光をそのまま見つめ続けた。

結果として、森の奥に潜む影の正体を確かめるまでには至らなかった。


ただ、その発光が一時的に赤く見えた意味は分からない。


よろしければ、ブックマークで続きを追っていただけると嬉しいです。

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