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【第8章第11話】 起動の理由

装置は四つ揃った。だが、目の前で脈動する青白い光は、レイが思い描いていた「循環の完成」とは明らかに様子が違っていた。

測定器を通じて伝わってくるのは、世界を修復した達成感ではなく、自分をどこかへ引きずり込もうとする強烈な磁力。

──その違和感の正体を、レイはまだ言語化できずにいた。

装置が、光っている。


四つ目を掘り出したばかりだというのに、もう、光っている。


青白く、微かに、でも確かに。


測定器が、震えている。


僕の手ではない。


測定器そのものが、震えている。


北を指して。


「……レイ」


セラの声。


振り返る。


彼女の目が、装置を見ている。


不安そうに。


「光ってます」


「うん」


「四つ揃う前に」


「……うん」


マーカスが、前に出る。


大盾を構えたまま。


「エルネスト、状態は?」


エルネストが、測定器を装置に向ける。


数値を確認する。


顔色が変わる。


「……光が、強くなってる」


「どのくらいだ?」


「三十秒前より、明らかに」


マーカスが、剣を抜く。


「マナ濃度は?」


「上昇中。測定器の限界が近い」


僕は、自分の測定器を装置に向ける。


振り切れてる。


光が、連続で点いている。


もう、明滅じゃない。


「……限界超えてます」


アリスが、自分の測定器を確認する。


首を横に振る。


「私のは、まだ余裕があります」


エルネストが、こちらを見る。


「お前のだけか?」


「……はい」


「なぜだ?」


セラが、僕の測定器に触れる。


「……震えてます」


「うん」


「レイの手じゃなくて、測定器そのものが」


彼女が、顔を上げる。


「レイ、塔を直してから、変わったんです」


「……そうかもしれない」


エルネストが、記録を止める。


「塔と、繋がってる可能性があるな」


「繋がってる……?」


セラが、息を呑む。


「……そうか」


「セラ?」


彼女が、測定器を見る。


「レイ、測定器の魔石は、港の塔から出たマナで満たされてました」


「うん」


「港の塔は、北の塔と繋がってます」


「……うん」


セラが、僕を見る。


「だから、測定器も……」


言葉が、途切れる。


測定器が、また震えた。


強く。


手が、引っ張られる。


北の方へ。


「……っ」


セラが、僕の手を掴む。


「レイ!」


「大丈夫」


「大丈夫じゃありません!」


彼女の手が、震えている。


「測定器が、レイを……」


「……呼んでる」


「呼んでる……?」


僕は、測定器を見る。


光が、強い。


震えが、止まらない。


手が、引っ張られる。


北へ。


北へ。


北へ、と。


ガルムが、低く唸る。


「……危ない」


マーカスが、周囲を見回す。


「魔獣か?」


「……違う」


「じゃあ、何だ?」


「……分からない。でも、危ない」


トーマスが、森の奥を見る。


「……マーカス」


「何だ?」


「鳥が、いない」


「……」


「さっきまで鳴いてた。でも、今は」


静寂。


風の音だけ。


カイラが、杖を構える。


「何かが、来るんですか?」


「分からん」


マーカスが、装置を見る。


「まず、装置の状態を確認する」


僕は、測定器を装置に向ける。


振り切れてる。


でも、方向を変える。


東。


南。


西。


「……どれも、強いです」


「どのくらいだ?」


「測定器の限界、超えてます」


エルネストが、記録する。


「全方向、マナ濃度異常」


装置の光が、強くなった。


青白い光が、青く変わる。


脈動が、始まる。


一秒。


一秒。


一秒。


セラが、息を呑む。


「……北の塔と、同じ」


「同期してる?」


「はい。完全に」


エルネストが、自分の測定器を確認する。


「……本当だ」


「じゃあ、装置が……」


「北の塔と繋がった」


マーカスが、前に出る。


「循環が、完成したのか?」


セラが、首を横に振る。


「……分かりません」


「分からない?」


「循環が完成するなら、全ての装置が同じように光るはずです」


「でも?」


「北だけ、違います」


僕は、測定器を北に向ける。


振り切れてる。


震えてる。


引っ張られる。


「北が、特別なんだ」


セラが、僕を見る。


「……『鍵』かもしれません」


「鍵?」


「循環システムの、最後の『鍵』」


エルネストが、顔を上げる。


「じゃあ、装置は……」


「『鍵』を開けるために、起動した」


マーカスが、剣を下ろす。


「つまり、北の塔が何かをする必要がある、と?」


「……可能性があります」


セラが、僕を見る。


「でも、それだけじゃない」


「……何?」


「レイ、測定器が、あなただけに反応してます」


「うん」


「港の塔の核石と、話せたのも、あなただけです」


「……うん」


セラが、息を呑む。


「もしかしたら、北の塔も……」


測定器が、また震えた。


強く。


強く。


手が、熱い。


「……っ」


セラが、僕の手を掴む。


「レイ! 手を離して!」


「離せない……!」


「でも……!」


「測定器が、離さない……!」


手が、引っ張られる。


北へ。


北へ。


体ごと、引っ張られる感覚。


足が、前に出る。


「……っ」


ガルムが、僕の前に立つ。


「……ダメ」


「ガルム……」


「……行かせない」


マーカスが、僕の肩を掴む。


「レイ、落ち着け」


「……はい」


「測定器を、地面に置け」


「……でも」


「いいから、置け」


僕は、測定器を地面に置く。


手が離れた。


でも。


測定器は、震え続けている。


光が、強くなっている。


地面で、跳ねる。


北を指して。


「……っ」


セラが、息を呑む。


「……レイ」


「……何?」


「測定器、止まってません」


マーカスが、測定器を見る。


「……壊れてるんじゃないか?」


「壊れてない」


僕は、測定器を見る。


「これは、呼ばれてる」


マーカスが、顔を上げる。


「……北の塔が、お前を」


「……そう、思います」


彼が、装置を見る。


「だが、今行くのは危険すぎる」


「……」


「装置が不安定だ」


エルネストが、測定器を装置に向ける。


「……マーカス」


「何だ?」


「光が、揺らいでる」


装置の光が、揺らぐ。


一秒、一秒、一秒――


リズムが、乱れる。


一秒、〇・八秒、一・二秒――


セラが、息を呑む。


「劣化が、進んでます……!」


「このままだと……?」


「止まります!」


マーカスが、剣を構える。


「止まったら、どうなる?」


「分かりません!」


エルネストが、記録する。


「脈動が、不規則になってる」


「どのくらい持つ?」


彼が、顔を上げる。


「……このペースだと、明日の夜には止まる」


「明日の夜……!」


僕は、装置を見る。


(明日の夜)


(それまでに、何かしないと)


「マーカス、装置に触れてみてもいいですか?」


彼が、こちらを見る。


「何をする気だ?」


「測定器を、もっと近づけてみます」


「危険だぞ」


「分かってます。でも、今確かめないと」


マーカスが、しばらく考える。


「……いいだろう」


「……はい」


「だが、俺が見ている。何かあったら、即座に離れろ」


「……はい」


僕は、測定器を拾う。


震えている。


光っている。


熱い。


装置に、近づく。


三歩。


二歩。


一歩。


測定器の震えが、強くなる。


光が、強くなる。


手が、引っ張られる。


「……っ」


装置に、触れる。


瞬間。


視界が、揺れた。


青い空間。


見覚えがある。


港の塔の、核石と話した時と、同じ。


でも、ここは……


『……来た』


声。


核石の、声?


いや。


違う。


もっと、大きい。


もっと、遠い。


『……待ってた』


待ってた……?


『……四つ、揃った』


四つ……


装置が、四つ?


『……でも、足りない』


足りない……?


『……あと、一つ』


一つ……


何が?


『……北』


北……


北の塔……?


『……来て』


視界が、戻る。


「……っ」


息を吐く。


手が、震えている。


セラが、僕を支える。


「レイ! 大丈夫ですか!」


「……うん」


「何が見えたんですか!」


「……声が、聞こえた」


マーカスが、前に出る。


「声?」


「……装置が、話しかけてきた」


「何と言った?」


「……『待ってた』って」


セラが、息を呑む。


「待ってた……?」


「うん。『四つ、揃った。でも、足りない。あと、一つ』って」


エルネストが、記録を止める。


「あと、一つ……?」


「……北、だって」


マーカスが、北を見る。


「北の塔……」


ガルムが、唸る。


「……来る」


マーカスが、剣を構える。


「魔獣か!」


トーマスが、森の奥を指す。


「……足跡!」


大きな足跡。


爪痕。


新しい。


「Level 2……!」


ガルムが、前に出る。


「……見てる」


「今も?」


「……今も」


森が、揺れる。


音はしない。


でも、何かが、近づいている。


マーカスが、大盾を構える。


「全員、退がれ!」


カイラが、杖を構える。


「でも……!」


「いいから退がれ! 戦える状態じゃない!」


トーマスが、僕の腕を掴む。


「レイ、走れ!」


僕は、測定器を掴む。


まだ、震えている。


走る。


森を、抜ける。


後ろから、ガルムの唸り声。


マーカスの怒鳴り声。


何かが、ぶつかる音。


「……っ」


振り返りたい。


でも、足が止まらない。


セラが、僕の手を引く。


「前を見て!」


開けた場所に、出る。


立ち止まる。


息を整える。


「……はぁ、はぁ」


セラが、僕を見る。


「レイ、大丈夫ですか?」


「……うん」


後ろから、マーカスたちが出てくる。


全員、無事。


でも、息が荒い。


マーカスが、剣を下ろす。


「……追ってこない」


「縄張り……?」


トーマスが、頷く。


「おそらく。装置の周辺が、縄張りだ」


エルネストが、記録を確認する。


「……レイ」


「はい」


「お前が聞いた声、もう一度教えてくれ」


僕は、思い出す。


「『待ってた。四つ、揃った。でも、足りない。あと、一つ。北』」


エルネストが、記録する。


「装置が待ってたのは、四つ目じゃなかった」


「……じゃあ、何を?」


セラが、息を呑む。


「……北の塔です」


「北の塔?」


「はい。装置は、北の塔が『何かをする』のを待ってた」


マーカスが、装置の方を見る。


「じゃあ、装置が起動したのは……」


「北の塔が、『合図』を送ったから」


僕は、測定器を見る。


まだ、震えている。


「……装置は、『準備』だったんだ」


「準備……?」


セラが、頷く。


「循環を完成させるための、準備」


「じゃあ、循環が完成するには……」


僕は、北を見る。


「北の塔に、行かないと」


マーカスが、僕の肩を叩く。


「レイ、今日はここまでだ」


「でも……」


「装置が不安定だ。Level 2もいる」


「……」


「お前が倒れたら、誰が測定する?」


僕は、何も言えない。


マーカスが、装置を見る。


「明日、改めて状況を確認する」


「……はい」


ガルムが、僕の横に立つ。


「……帰ろう」


「……うん」


セラが、僕の手を握る。


「一緒に、帰りましょう」


「……うん」


測定器が、手の中で震えている。


北を指して。


(呼んでる)


(北の塔が)


(『来て』と)


(でも、何のために?)


森を、出る。


空が、暗い。


雲が、厚い。


風が、冷たい。


セラが、僕を見る。


「レイ」


「……うん」


「装置が止まる前に、何かをする必要があります」


「……うん」


「でも、罠だったら……」


「……そうかもしれない」


彼女が、測定器を見る。


「測定器が、制御を失うかもしれません」


「……」


「レイが、塔の中に引き込まれるかもしれません」


「……」


「私、止められないかもしれません」


僕は、セラを見る。


「でも、行かないと」


「……分かってます」


彼女が、涙ぐむ。


「だから、慎重に。お願いします」


「……約束する」


宿に、戻る。


部屋に、入る。


窓を、開ける。


北を、見る。


赤い光が、見える。


遠くに。


微かに。


でも、確かに。


測定器を、北に向ける。


震える。


光る。


引っ張られる。


地面に置いても、止まらない。


跳ねる。


北を指して。


「……っ」


セラが、窓辺に来る。


「レイ、もし、北の塔に行かなかったら……」


「……何?」


「装置が止まる。循環も、止まる」


「……」


「世界が、また元に戻る」


僕は、北を見る。


「でも、行ったら……」


「罠かもしれません」


セラが、僕の手を握る。


「一緒に、行きます」


「……うん」


「一人で、行かせません」


「……うん」


「約束してください」


「……約束する。無理しない」


測定器が、震えている。


北を指して。


(明日の夜には、装置が止まる)


(それまでに、北へ)


(でも、どうやって?)


(Level 2がいる)


(森を抜けられない)


(……考えないと)


窓を、閉める。


測定器を、机に置く。


まだ、震えている。


まだ、跳ねている。


セラが、僕を見る。


「レイ、休んでください」


「……うん」


ベッドに、座る。


疲れてる。


手が、重い。


視界が、少し歪む。


(装置に触れた時の、あの感覚)


(青い空間)


(声)


(『来て』)


(何が、待ってるんだろう)


目を、閉じる。


-----

(8章 11話 終)

-----

装置の言葉、そして「あと一つ」という謎。四つの同期はゴールではなく、北の塔が眠りから覚めるための単なる「準備」に過ぎなかったのだ。

明日の夜という期限が迫る中、レイは加速する世界と同調し、自らの意思を北へと向け始める。


次にレイは、限界が迫る装置を前に何を"選択"するのか。


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