↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
総督の遺言  作者: 西季幽司
第二章「湖底に眠る死者」
PR
17/34

白骨遺体③

 仲崎勇次のアリバイ確認が行われた。

 高島から聞いた話によると、「あんなやつでも殺されてバラバラにされたとなると、哀れなものだ」と事件当夜のアリバイを聞かれた勇次はそう言うと、「仕事が終わってから、真っ直ぐに家に戻った。その後は家にいた」と答えたそうだ。

 家族から裏付け証言が取れたが、所詮は家族の証言だ。真実を言っているとは限らない。

「お父さんを恨んでいた人物に心当たりはありませんか?」と高島が尋ねると、「親父を恨んでいた人間なんて、それこそ掃いて捨てる程いただろうよ」と光輝と同じようなことを吐き捨てるように言った。

「お父さんを恨んでいた人の名前を教えてもらえませんか?」

「それを調べるのが、あんたたちの仕事だろうよ」

 といった具合で、取り付く島もなかったらしい。

「またお話を聞かせてもらいに来ます」

 高島が辞去しようとすると、勇次は、「あのクソ親父、俺がこの手であの世に送っておけば良かった・・・」と刑事を前に放言した。

 勇次も幸太郎のことを恨んでいた人物の一人だった。

 仲崎真理の交通事故についても再捜査が行われた。当時の調書には、事件性のない交通事故だったことが記載されていた。車を運転していた男性は、「被害者がいきなり道路に飛び出してきた」と主張していた。だが、被害者が道路に突き飛ばされた可能性については、言及していなかった。

「女性がいきなり道路に飛び出して来たので避けきれなかった。あれは自殺だったと思う」という運転手の証言が残っていただけだった。

 事故は交通事故として処理されている。

 加害者の男性は任意の自動車保険に加入していた。過失を認めなければ、保険金は支払われない。最終的に男性は過失を認め、賠償金の支払い手続きを進めた為、警察では事故として処理するしかなかったようだ。

 加藤の転落死については、仲崎が加藤を突き飛ばして殺害、競馬で当てた配当金を横領したと黒田が証言していたが、それを裏付ける証拠が出て来なかった。

 当時の調書によると、早朝、人気の無い神社で、境内の掃除に来た男性が階段の下で頭から血を流して死んでいる加藤を発見した。長い階段のあちこちに血痕が残っており、転落したことを物語っていた。

 参拝客がほとんどいない小さな神社だ。夜になると街灯が無くて真っ暗になる。夜間、神社を訪れる参拝客など皆無だった。

 周辺を聞き込んで回ったが、事故を目撃した目撃者は見つからなかった。

 加藤はギャンブルの縁起担ぎで、よく神社にお参りをしていた。夜中に、神社にお参りし、階段から足を踏み外して転落死したと結論付けざるを得なかった。

 仲崎幸太郎には梅沢トキを殺害した容疑もかかっている。

 勇次や黒田の話が事実だとすると、仲崎は冷酷無比な連続殺人犯だったことになる。巧みに事故を装うことで罪を重ねて来た。いや、仲崎本人に事故を装って犯行を重ねたつもりは無かったかもしれない。悪運が強く、結果的に事故として処理され、悪辣な所業が明るみに出ることがなかっただけだろう。

 世の中には、そうして世間の目に触れることなく処理されてしまった事件が、埋もれているはずだ。

 佐田マンション周辺を聞き込んでいた小笠原が意外な情報を聞き込んできた。

――路上で被害者と野川が口論しているところを見た。

 という住人がいたのだ。

 無論、住人は仲崎幸太郎と口論していた相手が野川だと知っていた訳ではない。仲崎が若者と口論しているところを見たと証言する住人がいて、野川の顔写真を見せたところ、「ああ、この人だ」と認めたのだ。

「先週の週末だったと思う。この人が大声で仲崎さんを怒鳴りつけていたよ」と証言した。週末ということは事件の二、三日前だ。

「あの野郎! ガイシャには会っていないと言ったくせに」と佐伯は激怒した。

 直ぐにでも野川を問い詰めに行こうとしたが、祓川は「ちょっと、確かめたいことがある。一人で行ってくれ」と素っ気ない。

 また、単独行動だ。佐伯は、「野川はガイシャと会っていないと嘘をついていたのですよ。怪しくないですか? あいつを問い詰めるのが先でしょう」と語気を強めた。

「やつは犯人ではないだろう」と祓川が答える。

「犯人ではない? 何故、そう言い切れるのです?」

「別に言い切っている訳ではない。犯人ではないだろう――と言っただけだ。野川が怪しいと思うなら、徹底的に調べてみれば良い」

「答えになっていませんよ。何故、やつが犯人ではないと思うのです?」

「やつの身長だ」と祓川はまた訳の分からないことを言う。

 こうして何時も毒気を抜かれてしまう。佐伯が戸惑いながら尋ねる。「身長ですか?」

「あいつは小柄だ。多分、百七十センチ前後だろう?」

「ええ、そんな感じでしたね」

「筋肉の付き方を見ても、日頃、運動に縁のない体つきだ」

 祓川には見えている、何かを見落としているのかもしれない。佐伯は焦った。「今度の事件に身長や筋肉が必要あるのですか?」

「現時点で犯行現場は被害者のマンションだと考えられている。少なくともマンションの浴室で遺体が解体されたことは間違いない」

 マンションの室内を見て回った際に、佐伯もそのことを確認している。

「犯人はベランダからガラス戸を割って部屋に侵入している。被害者は室内に多額の現金を隠し持っていた。戸締りには注意していたはずだ。ベランダから侵入したと考えて間違いないだろう」

「・・・」神妙な面差しで、佐伯は祓川の次の言葉を待った。

「あのマンションを見たか? 命綱無しに、ベランダを伝って、四階までよじ登るとなると、かなりの体力と筋力が必要になる。しかも、各階の間隔、各部屋の天井が意外に高く、ベランダをよじ登るには、ある程度の身長が必要だ」

 佐田マンションのベランダをよじ登って四階まで登るとなると、ベランダの手すりに足をかけて上の階のベランダの床を掴み、体を持ち上げて登って行くことになる。不安定な足場で、四階まで登るとなると、かなりの体力が必要だ。

 また小柄だとベランダの手すりに足をかけて体を伸ばさなければ上の階に手が届かない。命懸けだ。バランス感覚が必要となる。

「ああ・・・」と感心するしかなかった。

 祓川と同じ景色を見ていたはずだが、佐伯には何も見えていなかったようだ。

「だから、野川が犯人である可能性は低いと思っている。やつの尋問は任せた」そう言い残すと、祓川は刑事課を出て行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。