白骨遺体②
仲崎幸太郎殺害の容疑者として、野川孤高という若者が浮かんでいた。
黒田の証言によると、父親、加藤寅雄を殺害されたことを知り、仲崎を恨んでいた可能性があった。だが、捜査員が何度、住民票に記載された住所を尋ねても不在だった。
祓川と佐伯は野川から事情聴取を行って来るよう指示を受けた。
「時間の無駄だ」と祓川なら言いそうだが、意外にも黙ってついてきた。「秋貞が犯人だと決めつけている訳ではない。可能性を排除して行った先に、残ったものが真実だ」だと言う。野川が犯人である可能性を消しておきたいということだろう。
野川孤高は横浜市鶴見区矢向にあるアパートに住んでいるはずだが、ずっと留守だった。逃亡を図ったのではないかと疑われたが、勤務先が判明、連絡を取ったところ、出張中であることが分かった。
野川は実家のある岩手県に本社がある梱包材を製造している会社に勤務していた。この春に、東京支社に転勤になったばかりで、今は岩手の本社に出張中だと分かった。出張に出たのが、事件があった日の翌日だった。
野川が東京に戻って来る日が今日だった。
連絡を取ると、アパート近くの喫茶店を指定された。事前に野川が勤める会社から顔写真を送ってもらっていた。約束の時間に喫茶店に出向くと、野川は先に来て待っていた。
二十代だろう。色白だがニキビが目立つ。小柄で、額が広く、提灯を思わせる顔だが、俯き加減で上目遣いに見上げる眼が酷薄さを感じさせた。
「出張から戻ったばかりだそうで、お忙しいところすいません」
ここでは佐伯が事情聴取を行い、祓川は黙って聞いているつもりのようだ。
「いえ。お陰で会社に寄らずに、駅からそのまま帰宅することができました」
「お疲れでしょうから、手早く片付けましょう。単刀直入にお聞きします。仲崎幸太郎さん、ご存じですよね?」
佐伯の言葉に、「ああ、やっぱりそうですか」と野川は答えた。
「やっぱりとはどういう意味でしょうか?」
「警察が僕に用事だと聞いたので、何だろうと考えたのです。品行方正とまでは言いませんが、それでも警察にお世話になるようなことに、心当たりはありませんでした。ひょっとしたら、仲崎幸太郎のことかなあ~と思っていましたので」
「仲崎幸太郎さんをご存じなのですね?」
「はい。でも会ったことはありません」
「会ったことがない? 名前だけ、知っていたということですか?」
「刑事さん。単刀直入にお願いしますよ。あいつが僕の父親を殺した。だから、僕があいつを殺したと思っているんでしょう?」反対に野川から質問されてしまった。
「あなたが仲崎さんを殺害したと決めつけている訳ではありません。仲崎さんがあなたのお父さんを殺害したのですか?」
「嫌だな~刑事さん。黒田さんから僕の名前を聞いたのでしょう。だったら事情はご存じのはずだ。僕だって知りたいのです。あいつが父を殺したのかどうか」
佐伯の尋問は後手に回っているようだ。質問を変えた。「六月十一日の夜、出張に出る前の晩ですが、何処にいらっしゃいましたか?」
「へえ~あいつが殺されたのは六月十一日だったのですね。出張先であいつが殺されたっていうニュースを見て驚きましたが、殺されたのが何時だか言っていませんでしたからね。そうですか~六月十一日だったのですね~」野川は嬉しそうだ。
佐伯が質問を繰り返す。「六月十一日の夜、何処にいらっしゃいましたか?」
「家にいましたよ」
「それを証明してくれる人はいますか?」
「いませんね。一人暮らしですから。出張の前の晩なら、朝一の新幹線だったんで、早めに帰宅して寝ました。あいつを殺しになんて行っていません」
「お父さん、加藤寅雄さんはどういう方でした?」
「親父? 親父がいなくなったのは中学生の時でしたからね。博打好きで、お袋、苦労していました。金が無くて、貧しかったなあ~でも」と野川は言葉を切ると、虚ろな目をした。「俺には優しかった親父の記憶しかありません。ろくでなしの博打うちだったかもしれなませんが、家にいる時、親父は何時もにこにこしていました。そして、俺と遊んでくれました」
「なるほど。大好きだった親父さんが殺されたかもしれないと聞いて、仲崎さんに会いに行ったのではありませんか? 親父さんの死の真相を確かめたかった」
「しつこいな、刑事さん。仲崎には会いに行っていません」
野川から有益な情報を引き出すことはできなかった。「出張明けで疲れていますので」と事情聴取を打ち切られ、野川は喫茶店を後にした。




