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メイドと元騎士1

Q 一年以上何をやっていたんですか?

A ポケモン対戦にドはまりしていました。USUM発売しても消えないように努力します。

 事実は小説より奇なり、と言う。

 現実には起承転結が存在しない。だから完結させねばならない小説よりも、先読みなどできない波乱に満ちる。


 私のこの半生が物語ならば、すでに結末を迎えているころだろうな。エンドロールが流れそうなエピソードもあったし。

 だが、生憎とこれは物語でもゲームでもなく現実なので、どうにも結末は先延ばしだ。『彼女』にこれ以上殴られたくはないしね。


 さて。


 目の前の書類を一枚、左に置かれた箱に入れる。左は不可、右は可、斜め前は再提出だ。今のところ、圧倒的に左の箱に入れられた書類が多い。


 めでたくないことに、正式に皇太子となった私は王族直轄領の仕事の一部が回ってきたのである。

 学園で学んだ知識を、こうして実際に運用する。数年ほど続けて問題がなければ、より王国の中枢に近い役職に就くことになるだろう。

 『第一王子』から『皇太子』になるとは、そういうことだ。政治に関わり、より明確な権力を持つ。


 まあ、どうせ『皇太子』になどならないと思っていたとはいえ、最低限の政治は学んでいる。

 前任者に仕事の流れを聞き、しばらく続ければ理解も把握もできる。皇太子の初仕事だ、そこまで高度なことを要求されはしない。そうだな、3年も続ければもう少し難易度が上がるだろうが、それまでは比較的楽な仕事だ。

 だが。


「いくら馬鹿王子だと思っているとはいえ、これは酷すぎる……」


 また一枚、書類が左へと流れていった。


 馬鹿王子だと周囲に触れ回ったのは私だが、いくらなんでもこれはひどい。

 常識的に考えて不可になる書類が5割ってどういうことだ。残りの半数も、よくよく目を通せば不可になるものが多い。

 次に多いのが再提出。許可書類を入れる箱にはいまだに2枚しか入っていない。


「予定よりも早く、イメージ回復の手を打つか。茶会や夜会はしばらくスケジュールに入れるつもりはなかったが、このままでは仕事に支障が出る……」


 一度手を止め、冷めた紅茶でのどを潤す。眉間をもみほぐしながら、長い溜息をついた。

 パーティーの類は疲れるので、仕事が安定するまでは避けようと思っていたのだが、仕方がない。ああいった社交の場はイメージ戦略に必要なことだ。

 となれば服や装飾品を新しく手配しなければならないか。ああ、また仕事が増える。


「以前に利用した服飾店から変えなくてはならないし、他の貴族と被らないように、かつ流行から外れないようにリサーチもしなければ……くっ、やはり執事を雇うべきか」


 普通はこういった雑事の指示を任せる部下として、執事の一人でも雇うものだ。主人のスケジュール管理や各所への連絡指示など、信頼できる執事が一人いればかなり楽になる。

 雑事自体は城でまとめて雇っている従僕の一部を借りて行うので、私が直接指示を出せば問題ないのだが……やはり、中間に執事を置いて仕事を丸投げした方が良いことは間違いない。

 問題は、丸投げで運用できるほどに信頼できる人材が周囲にちっとも居ないことだね!

 私がいちいち最終確認するのなら、今と変わらないからね!


「はあ……私の味方は、こうして紅茶を淹れてくれるリュシーくらいなものだな……」


「正直、もう少し人員増やしてほしいんだけど。一日何時間労働させるつもりよ」


「三食昼寝とお茶菓子付き、主人である私にタメ口推奨という雇用条件にグラッと来ただろう?」


「来たけども!」


 悔しいでもホワイト企業すぎる、みたいな。

 ツッコミ入れつつも紅茶を淹れてくれるリュシーが、結構好きだ。


 転生メイドこと、リュシー。

 彼女は現在、私の侍女として働いてもらっている。まあ私の身の回りの世話というより、そこに付随する諸々も任せているので、家政婦と言った感じもするが。


 といっても雇ったわけではない。表向きには、婚約者であるヴィヴィアンヌとの友好の証として、一時的に貸し出しされている、という状態だ。

 実際、いろいろとヴィヴィアンヌ好みの花や装飾品を贈るのに役立っているよ。まあ長い付き合いらしいからな。彼女のことを知るのにちょうどいい。


 そしてまあ、表向きの理由があるということは裏の理由もあるわけで。


「ほら、君は私の正体を知っている唯一の存在だからね。気軽に話せる茶飲み友達なんて、君くらいにしか務まらないさ」


「まあ、皇太子扱いしなくてもいいから気楽ではあるけど……」


 彼女は転生者で、ゲームを知っていて……つまり、私が死のうとしていた事も知っている。

 憐れんでほしいという訳ではないがね。それでも、愚痴を冗談と聞き流してくれる相手が身近にいるのは、精神的に余裕が出る。


 具体的に言うと……仕事で疲れてまいっているときに「死にたいなあ」と言いたくなる時ってあるだろう? 私の場合、それを聞く人によっては少々シャレにならないことになる。

 ヴィヴィアンヌとか。

 テオドールとか。


 ため息をつきつつ、二人でティーカップを傾ける。うん、メイドと皇太子がソファーで体をくつろげて共に紅茶を楽しむ光景など、そうそう見られるものではないだろうな。


「でも増員をしてほしいのはホントよ。部下への指示とか慣れないことも多いし、身分的には格上が部下になったりするし……」


「ん、それは確かに厳しいね」


 身分という物は、重い。自尊心や利益が絡むと余計に、だ。

 現在ヴィヴィアンヌと私がリュシーの後ろ盾となっているが、まあ、見えないところで喧嘩を売る馬鹿はいるだろうね。

 仕事量について考えても、やはり彼女以外にも協力者が必要か。


「といっても、私は信用できない人間を傍に置きたくないからね。貴族社会での立ち振る舞いにある程度慣れていて、私が信用できるものとなると……」


「もう少しハードル下げるとか、ないの?」


「こればかりはね。もう少し私が大人になったら考えるよ」


 卒業したとはいえ、何せ私は凡夫だからな。早々に大人になったと切り替えができるほど、出来た人間ではないのだよ。


 しかし、あまりリュシーに無理をさせたくないのも事実だ。

 信頼できる人材、か。デュウやマルセル、というのも考えたが、あの2人は私との関係が公になることを望まないだろう。というかデュウは正体不明の暗殺者であり、マルセルは対人に難がある。


「んー……、ん? あ」


 優先すべきは、私の心情だ。そうするならば。

 可能か? シャンゼリンを後ろ盾とすれば……できるな。かなりのごり押しになるが、得難い人材だ。

 というかごり押しができてしまうこと自体が問題なのかもしれないが、好都合なのでこのまま押し切ろう。


「リュシー、居た。是非とも私が傍に置きたい人物が居たよ」


「え、マジで? 自分で言っといてなんだけど、貴方が信用できる人間が居るとは思わなかったわ」


 リュシー、そういうことは思っていても言う物ではないぞ。いや、私に黙って陰口でも言われていたらそっちの方が絶望するが、それはともかく。


「それじゃ、直ぐにでも呼び寄せてよ。あ、でも今やってる仕事によっては、異動に時間かかるのかしら?」


「いや、それに関しては問題ない。今、彼は無職だからね」


「は?」


「というか今、牢に入っているからね。まずは恩赦でも利用しようか」


「はあ!?」


 いやあ、実にナイスリアクションだ。リュシーなら彼ともうまくやっていけるだろう。


 ヴィクトール・ヒューゴ。

 私を殺そうとした、元第二王子の専属騎士である。

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