14:実にあざとい、しかし可愛い
ドレスの色は、薄い青。所々に金糸で柄が綴られている。私の髪と瞳の色からとったが、なかなか悪くないのではないかな。
髪は結い上げて宝石でできた花の髪留めを使った。花は可愛らしく黄色のジャスミンだ。
今回の茶会で、シャンゼリンを着飾らせる機会はおそらく最後だろう。だからこそ全力で所持金をつぎ込んでみた。
流石のシャンゼリンも慣れない華美な格好に、頬を染めている。この子、実用性重視の格好ばかりだからなあ。
まあ、そういった快活な格好も可愛いとは思うがね。どうせなら私の趣味を詰め込んだドレスを着せて可愛がりたい、そう思うのも男の子だから仕方がない。
「シャン、とても可愛らしいよ。まるで野花を司る妖精のようだ」
「……結構、恥ずかしいんですけど」
「ははは、君の照れた顔なんてこういうときにしか見れないしね。私は非常に満足だ」
「うわあ殿下やっぱり性格悪い」
うん、赤い顔で蔑まれても私がゾクゾクするだけだ。重畳、重畳。
さて、今日はいよいよ招待された茶会だ。学園から馬鹿みたいに華美な馬車に乗り込み、二人でうふふあははと打ち合わせだ。
余談だが、シャンゼリンのドレスも私の服も、二人で揃いの装飾品も完全オーダーメイド。お揃いというのはなかなか心躍る響きだが、私のポケットマネーがガリガリ削れた。
「まあ、今回も私に合わせて演技しつつ、茶会を楽しんでくれ」
「女の子たちの視線が凄くて、毎回全然楽しめませんよ」
「とかいいつつ、前回の茶会ではちゃっかりケーキを全種類食べていたよね」
「見てたんですか! 貴族のおじさんとばっかり喋ってたのにいつ見てたんですか!? っていうか全種類ってことはずっと見てたんですか!?」
「ははは、そうやってカマかけに見事にはまってくれるところとか、大好きだよ」
「殿下あああ!」
かーわーいぃー。
割とガチ目にヒールで足の甲を抉られているが、もうそれも悪くないとしか! ああ、防音しっかりしている馬車を借りてきて正解だった!
……もう本当に、自分で自分がSなんだかMなんだか分からない。うん、これも『わたし』の所為ということにしておこう、そうしよう。
風評被害だと怒られている気もするが、気のせい気のせい。
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「テオフィル殿下! ようこそ御出で下さいました、ささ、どうぞこちらへ」
「イーヴピアジェ伯爵、こちらこそ礼を言おう。貴殿の招待は良い気晴らしになった」
ぶるんぶるん、と握手した手が上下する度に頬の贅肉が揺れる。でっぷりと膨らんだ体といい、ギラギラと主張する貴金属の装飾品といい、まさに分かりやすく典型的な悪徳貴族だな。
「ああ、こちらはシャンゼリン。噂は聞いていると思うが、私の大切な人だ。丁寧に扱ってくれ」
「それはもう! シャンゼリン様、私の妻が是非お話してみたいと零しておりました。よろしければ後で」
「ん、どうしよっかなあ。ねえ、殿下」
くい、と袖を引き、小首をかしげる。実にあざとい、しかし可愛い。
私も負けてられないな。周囲の視線を感じながら、シャンゼリンの手を取り指先に口づける。まぁ、とご婦人方からざわめきが漏れた。
「そうだね、君と離れるのは少し寂しいけど、女性同士で盛り上がる話もあるだろう。後で行っておいで」
「はぁい」
うん、笑顔は可愛いけど怒ってるな。「なんで今煽りました?」みたいな声が聞こえてきそうだ。
そういう反応が見たかったからだよ。てへ。
にっこりと完璧な笑顔を返し、伯爵の導くままに庭の奥へと向かう。
淡い紅のバラが美しい庭だな。貴族の道楽は理解できないものが多いが、こういうのは悪くないね。可愛い女の子の背景には花が似合う。
「殿下、どうぞこちらに」
「ああ」
短く返し、白いチェアに腰かける。立食形式の茶会だが休憩スペースはある。私は身分も高いしな、主催者に挨拶さえすれば後は向こうから来るのを座って待つだけだ。
まあ、詰め寄ってくるのは欲望渦巻く腐敗貴族どもなので、あまり楽しくはないのだがね。どうせ人垣を作るなら、可愛らしい淑女か美しいご婦人方の方が良い、男の子だもの。
「……シャン」
「殿下、わたし向こうで奥様とお話してきますねっ」
あ、逃げた。気持ちは分かるが酷いくないかい。……さっきの報復か、納得してしまった。
と、シャンゼリンの後ろ姿を見送るや否や、空気が変わった。落ち着きない彼らを代表してか、伯爵が声を落として問いかける。
「そういえば……殿下、式典の日取りは決まりましたか?」
「はて、何のことだい」
「継承の儀ですよ。学園のご卒業も近いですし、そろそろなのでは?」
やれ、何をそわそわしているかと思えばそのことか。確かに彼らにとっては重要な意味を持つからな。
継承の儀。王族の中で次に王位に即く者を妖精に誓う儀式だ。
その儀式を終えるまでは、私は単なる第一王子でしかない。成人を認められ、陛下に許可を得て初めて皇太子となる。
面倒なシステムだが、あまりに幼い者が王位に即くことを避けるためと言われている。王族を、ひいては国母たるフルドラを傀儡にしないようにとの盟約だ。
現状だと、私もテオドールも儀式をしていないからな。万が一、陛下にもしものことがあれば、以前に儀式をした陛下の兄弟のうちの誰かになるのではないかな。
「……どうだろうね。あの儀式は立会人として王族の誰かが必要だ。陛下はお忙しいから、都合がつき次第となるだろう」
「そ、そうですか。いや残念ですな。殿下、儀式を終えられたらまた祝いの場を開きましょう」
「そうだね、悪くない。その際には今日のように貴殿に頼もうか」
にっこりと笑みを浮かべて言えば、伯爵の目の奥がぎらついた。まったく見苦しいな。
まあ浮かれるのも仕方がないか。
こうして私に媚びへつらっても、私が王位を継がなければ水泡に帰す。可能性は限りなく薄いが、ないわけではない。突然私が死んで、テオドールが皇太子になる、とかな。
儀式の日取りも、そのための確認なのだろうが。
実のところ、おおよそは決まっている。あとひと月もすれば卒業するからな、そのすぐ後になるだろう。教える気はないがね。
「いや、殿下が戴冠なさるのが今から楽しみですな」
「うむ、殿下ならば必ずや我らを導いてくださるだろう」
「おいおい、継承の儀もまだなのに気が早いね。案外、どこかで私が死んでテオドールが継ぐかもしれないだろう?」
茶化した私の言葉に、空気が変わる。どろりと纏わりつき、まるで溺れそうだ。誰だろうか、人垣の中の誰かが声を発する。
「テオフィル殿下が害される、と?」
「いや、テオドール殿下はまだ幼い。問題は彼の後ろについて王位近くを狙う者たちでしょう」
「なんと悍ましいことだ。これだから成り上がり者は」
「さよう、さよう。我らのような、父祖から高貴な血を受け継ぐ真の貴族と肩を並べることが間違いなのだ」
「しかしこの国の未来には邪魔ですな。テオフィル様の為にも、そうです」
邪魔ですなあ、と。粘つく声が頭の奥にこびりつく。何を期待しているのか、分かりたくもないが分かってしまうな。
私は、ああ、大丈夫だ、笑えている。まだ、大丈夫だ。
「そうだね。あの子のことは嫌いではないけれど、政治的には少々目障りだ」
まだ、笑って嘘を吐けている。




