第六話 宅配便が怖い
土曜日の朝、こはくは古いスマートフォンで通販サイトを見ていた。
「これほしい」
画面には猫じゃらしが映っている。
「人間になってまで猫じゃらし買うの?」
「好きだった」
「先に靴」
「靴よりこれ」
「外出るなら靴が先」
不満そうだったが、こはくは画面を閉じた。
今日は初めて外へ出る準備をする日だった。
猫耳は帽子で隠し、尻尾は長めのスカートの中へ収める。
直人が帽子を深く被せると、こはくは鏡を見て眉を寄せた。
「耳、苦しい」
「少し我慢」
「人間、耳隠さないのに」
「お前のは普通の人にはないから」
その時、インターホンが鳴った。
こはくの肩が跳ねる。
「誰?」
「たぶん宅配」
モニターを見ると、配達員だった。
直人が玄関へ向かうと、こはくは廊下の角から動かない。
「来ないの?」
「知らない人が、家の前にいるの変」
猫だった頃も、宅配便が来るたびにベッドの下へ隠れていた。
「荷物を持ってくる人。毎回同じ人じゃないけど、受け取って大丈夫な場合もある」
「知らない人に開けるなって言った」
「だから、まず画面を見る。分からなかったら俺に聞く」
「ややこしい」
「人間のルールはだいたいややこしい」
荷物を受け取り、扉を閉める。
こはくはようやく近づいた。
「何?」
「靴」
箱を開けると、白いスニーカーが入っていた。
こはくはすぐ履こうとして、左右を逆にした。
「違う」
「同じに見える」
「よく見れば違う」
「直人が履かせて」
「自分で覚えろ」
何度かやり直し、ようやく正しく履けた。
「歩ける?」
こはくは部屋の中を数歩進む。
「足、閉じ込められてる」
「慣れる」
「人間ずっとこれ?」
「外ではな」
こはくは渋い顔をした。
それでも玄関へ行き、もう一度自分で靴を履き直した。
「明日、外行ける?」
「帽子と尻尾がちゃんと隠せたらな」
「行く」
「途中で怖くなったら戻っていいから」
「戻らない」
即答だった。
張りつめていた気持ちが少し緩み、直人は笑った。
怖いものがなくなったわけではない。
それでも、自分から外へ出たいと思っている。
その気持ちは止めたくなかった。




