第五話 留守番という大問題
人間になって三日目の朝、こはくは朝食を食べながら言った。
「私も仕事する」
直人は味噌汁を飲みかけて止まった。
「急にどうした」
「直人、仕事行くから一人になる。私も仕事したら一人じゃない」
「そう簡単に働けないんだよ」
「じゃあ直人も仕事やめる?」
「もっと簡単に言うな」
「かつおぶし買えなくなる?」
「かなり困る」
こはくは考えて、直人が働き続けることを認めた。
ただ、留守番が嫌なのは本当らしい。
そこで直人は、以前使っていたスマートフォンを出した。
契約は切れているが、家のWi-Fiにつなげばメッセージアプリは使える。
文字入力と写真の撮り方を教えると、こはくはすぐに夢中になった。
会社へ着いて十分ほどで通知が来る。
《なおと》
《何?》
《なおと》
《呼んだだけ?》
《うん》
その後も、鳥の写真、冷蔵庫の写真、テレビに映った魚の写真が送られてきた。
昼休みになると、急に通知が止まる。
静かになっただけなのに、直人は何度も画面を確認した。
体調でも崩したのかと心配になり、こちらから送る。
《こはく?》
しばらくして返事が来た。
《寝てた》
直人は机へ突っ伏したくなった。
午後三時になると、また通知が来た。
《撫でて》
《帰ってから》
《何時?》
《なるべく早く》
《約束》
帰宅したのは十九時十九分だった。
玄関を開けると、こはくが時計を見ている。
「十九分遅い」
「何時基準だよ」
「七時」
「勝手に決めるな」
「メッセージ二十七個送った」
「数えてたの?」
二人で履歴を見直し、「呼んだだけ」は減らす、必要な連絡はすぐ送る、返事が遅くても嫌いになったわけではない、とルールを決めた。
最後にこはくがソファへ座り、直人の手を見る。
「約束」
「覚えてたか」
「うん」
直人が髪を撫でる。
古いスマートフォンはテーブルの上で静かなままだった。
目の前に直人がいる間は、わざわざ画面越しに呼ぶ必要がないらしい。




