第四話 人間の朝ごはん
翌朝、直人は胸の重みで目を覚ました。
嫌な予感がして目を開けると、こはくが半分ほど身体を乗せた状態で眠っている。
「昨日、別で寝る話したよな」
「今日だけって言った」
「もう朝なんだけど」
「まだ寝てる途中」
こはくはそう言って目を閉じた。
直人は胸の上から彼女をどかし、朝食の準備を始める。
目玉焼きを作り、トーストを焼く。
こはくは食卓へ座りながら、かつおぶしの袋を目で追っていた。
「今日はない」
「少し」
「目玉焼きに?」
「仕事頑張れる」
「誰の仕事だよ」
結局少しだけ載せると、こはくの機嫌が戻った。
出勤前、こはくが直人の袖をつまむ。
「直人」
「何だ」
「撫でて」
「今?」
「五秒」
直人は時計を見る。
遅刻するほどではない。
「五秒だけな」
髪を軽く撫でると、こはくは目を細めた。
「帰ったらな」
「約束?」
「ああ」
直人はそのまま会社へ向かった。
帰宅できたのは十九時五十分だった。
予定より帰宅が遅くなった。
玄関を開けると、こはくがすぐに駆けてくる。
「遅い」
「悪い」
「約束した」
「撫でる約束はしたけど、時間までは」
「遅いのは遅い」
直人には言い返せなかった。
リビングには鉢植えの土が少しこぼれていた。
窓の外の鳥を追っていて倒したらしい。
「ごめん」
先に謝ったのは、こはくだった。
直人は鉢より、こはくの手足を確認する。
「怪我してない?」
「してない」
「ならいい。片づけよう」
こはくは少し驚いたように直人を見る。
掃除が終わると、彼女はソファへ座った。
「今日、ずっと音聞いてた」
「何の?」
「玄関。直人帰ってくる音」
直人は返事に困り、隣へ座った。
「約束」
こはくが頭を差し出す。
直人は髪を撫でた。
猫だった頃から同じことをしているはずなのに、同じではない気がした。
何が違うのかは、まだ考えないことにした。




