第三話 服を着てください
その日の夕方、注文した服がいくつか届いた。
直人がまだ会社にいる時間だった。
置き配にしていたはずなのに、配達員が別の荷物と一緒にインターホンを鳴らしたらしい。
帰宅すると、こはくはリビングにいなかった。
「こはく?」
返事がない。
嫌な予感がして探すと、通販の段ボールの中から薄茶色の髪が見えた。
「何してるんだ」
「入れた」
「人間は段ボールに入らないだろ……」
「入ってるよ」
確かに入っていた。
大きめの箱へ身体を丸め、妙に満足そうな顔をしている。
直人は箱の横に置かれた荷物へ目をやった。
「インターホン出たの?」
「服届いたから」
「知らない人に開けるなって言っただろ」
「でも直人、宅配なら受け取るって言ってた」
言った覚えはないが、日頃の様子を見ていたのだろう。
怒るより先に、ルールの伝え方が足りなかったと気づいた。
「次から、勝手に判断しないで一回連絡できるようにしよう」
「まだ電話ない」
「それも早めに何とかする」
箱から出した服を広げる。
尻尾用の穴はないので、部屋着のパンツは直人が後ろを少し加工した。
こはくは届いたブラウスとスカートへ着替え、鏡の前で一度回った。
「どう?」
直人はまず、届いた服のサイズが合っているか確かめた。
「大丈夫そう。きつくない?」
「そうじゃなくて」
「何が?」
「似合うとかないの?」
直人は言葉に詰まった。
猫だった頃、首輪の色なら何度でも選んだ。
今は目の前にいる成人女性の服装を評価することになる。
「……似合ってるよ」
こはくは満足そうに笑った。
夜、直人は寝室に布団を一組追加し、こはくには隣の部屋で寝てもらうつもりだった。
ところが消灯して十分もしないうちに、寝室のドアが開いた。
「寒い」
「八月だぞ」
「じゃあ、寂しい」
直人は返す言葉に詰まり、しばらく黙った。
「今日だけな」
「うん」
こはくは当然のように布団へ入ってくる。
直人は端へ寄りながら、明日からは絶対に別で寝てもらおうと決めた。
その決意がどの程度守られるのか、自分でもあまり自信はなかった。




